第127.5話 幕間 メイとアンジェ

「坊ちゃま、どういうことですか?」




 坊ちゃまがアンジェさんを連れて例のダンジョンに行ったあの日。

 家に帰ってきたと思ったら、何やらお怒りの様子のアンジェさん。


「何が……って、アンジェか」

「さっきから『アレク嫌い嫌い大っ嫌い』と言いながら、料理をしていますよ。一体何があったのですか?」

「……実はさ……」




 ダンジョンでのことを話してくださる坊ちゃま。

 しかし……さすがにそれはお可哀そう。


「……もっとやりようがあったのでは?」

「……その通りかと」


 そうして話し込んでいる間に、今日の夕ご飯ができたようです。

 メインは私が作っていたもの、そしてアンジェさんが作ってくれたスープ。


 お1人で完成させるだなんて、ここ最近のアンジェさんの頑張りは尊敬します。


「アンジェ、料理ありがとう!」

「どういたしまして!」

 とても不機嫌な様子で坊ちゃまの元へと料理を運んぶアンジェさん。


「んじゃ、いただきまーす!」

 そう言って野菜スープ的な物を口に運び――。

 ガリっと言う音が聞こえました……。


「いってぇーっ!? 何だこれ!?」

「え?」

 坊ちゃまが口から取り出したのは……3センチほどの小石、でしょうか?

 具のお芋と似ているため、気付かなかったようです。


「そ、そんなはず……」

「おいアンジェ! 何で石なんか入ってんだよ!」

 料理を作っていたアンジェさんに食って掛かる坊ちゃま。

 しかしその表情を見れば、アンジェさんにも予想外だと言うことがわかります。


「――っ! 何よ! 私が愛情込めて作ったんだから小石くらい食べなさいよ!」

「……は?」

「……」

 それは……ちょっと、かなりよろしくないのでは……。


「……ぁ、ぇと」

「……もういらん! ごちそうさん」

 そう言って席を立つ坊ちゃま。




「……」

「うわぁぁぁ~ん! アレクのバカッ! アレクのバカぁっ! 石なんか入れる訳ないじゃない! うわぁぁぁ~ん!」

 坊ちゃまが自室に戻った後、食堂ではアンジェさんの大泣きする声が響きます。


「しかし……何で石が入っていたのでしょうか? いつもしっかり確認しているのですが」

 キッチンに置いてある食材は、搬入した時に私がしっかり確認しているので間違いはないはずです。

 では一体どこで? やはりアンジェさんが故意に入れたのでしょうか……。


「キュゥ……(ご、ごめんね……多分――)」

「あらまぁ……クーちゃんがお芋をつまみ食いした時、その場でうんちをしたそうですわ。もしかしたら……」

 ……まさか、小石の正体は……。


「……な、なんと言ったらよろしいのでしょうか……」

 つまみ食いをしたクネクネちゃんを注意すべきか、うんちを口に入れた坊ちゃまを憐れむべきか……。


「うわぁぁぁ~ん! 何で! 何でこんな目に遭うのよ! 何でよ~!」

 よりによって坊ちゃまにイライラをぶつけた日に、そんなものを料理に入れてしまったアンジェさんを気遣うべきか……。

 これでは坊ちゃまに故意だと勘違いされてもおかしくないですものね……。


 しかし、これもいい機会です。


「……アンジェさんは、坊ちゃまといかがされたいのですか?」

「いかがって……仲直りしたいに決まってるじゃない!」

「そうではなく、この先のことです。坊ちゃまとの関係です。もし坊ちゃまのもたらす恩恵を当てにしているのであれば……」

「……」

 泣くことも、喋ることもやめて私の次の言葉を待つアンジェさん。


「結婚などしなくても、坊ちゃまなら期待に応えてくれるでしょう。何だかんだ、坊ちゃまはそういう方です」

「それは……」

 ふざけてるようで、興味ないようで、結局坊ちゃまは人の不幸をそのままにしておけない方。

 きっと、婚約を解消されたとしてもアンジェさんを大切にしてくれるでしょう。


「……私は……私を大事にしてくれる人と結婚したいと思ってた……」

「……」

 坊ちゃまが今日ダンジョンでしたことを思うと、確かに少々雑な感じは否めないですね。


「けど! 今は……アレクに大事にされたい。他の人にしてるように……アレクに大切に思われたい、求められたいの……」

「……」

「命を助けられて……無理矢理婚約させられて……ギルドのときはたくさん頑張って……今回だって、私を、リョーゼンを救おうとしてくれて……我儘だってわかってる! けど、私……!」

 ……アンジェさんは……いえ、坊ちゃまも……。


「アンジェは、アレクの事愛してますの?」

「愛してます!」

「なら、そう言えばいいですの! そして『もっと私を愛して』って、何度でも言うのですわ!」

「言ってます! 言ってるけど……」

「だったら、叶うまで何度でも! それと、愛してもらえるように何度でも頑張るんですの!」


 エリー様は……その通り、常に坊ちゃまのために頑張ってきましたものね。

 幼いときはそれが悔しくて、羨ましくて……けど、婚約破棄を言い渡されそうになったあの日、遂にあなたはそれを勝ち取った。


「あなたも坊ちゃまも、きっかけがきっかけですから、うまく行かないのかも知れません。どうしても下心というか、対価的なものがチラついてしまうのではないですか?」

「……そう、ね。そうかも知れない」

 お互い、素直になるのが恥ずかしいと見えます。


「だからこそ、焦らないでください。根気強く、愛してることをお伝えください。坊ちゃまは……正直、めんどくさいところがありますから」

「……え?」

「恥ずかしがり屋で、ふざけて誤魔化したり、時によくわからない言い訳で逃げたりして……めんどくさいです」

 他にも、自分の気持ちを伝えたりすることは苦手だったりしますし。


「……くすっ、何よそれ!」

「恐らく、変なところで自信がないのでしょう」

 あれほどの力を持ち、人に施しを与えているはずなのに……未だ力を求め、私たちに嫌われないように立ち回っています。


「さすが、アレクと長い付き合いなだけはあるのね!」

「いえ、もしかしたら見当違いかも知れませんけれど……ともかく、坊ちゃまは押しに弱い、これだけは確かです」

「わかったわ! 押して押して押しまくる! 嫌がっても押しまくるっ! 私にできることを頑張る!」

「その調子! ですの!」




「(ちなみに、エリー様も未だ、ですので)」

「(……えっ!? そんなことある!?)」

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