第126話 昼下がりの喧騒

 慌てた様子でやって来たエルフのベローズさん。

 彼女に連れられてきたのは、『トロイア』からの連絡が入る端末が置いてある通称通信室。


 現在ここはエルフさんたちが日替わりで見守ってくれることになっている。


 結構前に開発したスマホだが、未だに対となる物同士でしか通信ができない。

 赤色はセイス、ピンクはドスかトレスといった具合に。


 離れた相手と通信ができるのは、この世界では非常に画期的な物なのだが……。

 履歴とかが残らないから結局ずっと見てるしかないのよね……。


 で、今回鳴ったのは黒。つまり……。


「ウーノ、か」




『トロイア』のナンバー1。


 コードネームは実力順という訳ではない。ないが、彼だけは『トロイア』の実力的にもナンバー1をである。

 彼は、闇の世界の住人(厨二)であると同時に何にでもなれる。つまり、場に溶け込むのが非常に上手い。


 頭脳ならセイス、まじめに頑張ってるのがクワト、おちょくるの得意なのがドストレス。

 そんな彼らのトップを務める男が彼、ウーノである。


 そんな彼には現在、というか最初っから一番重要なところに潜入して貰っている。

 確か執事に扮してるんだっけかな。




 まぁ、意識を目の前のベローズに戻そう。

 正直今はウーノのことなどどうでもいい。


「すみません、振動に気付いたと同時に反応が切れてしまって……」

 四六時中来るかどうかわからない、というか来ない反応を待つなんて、俺にはとてもできない。

 エルフさん達には本当にお世話になっている。


 とてもありがたい。ありがたいのだが、それはそれ、これはこれ!


「ふむ。これはお仕置きせねばならぬな……」

「お仕置き……ですか……?」




 先日、ガーベラにエルフさんたちの事情を聞いたと言うのもあるが……。

 実はこのベローズ! めちゃくちゃ色っぽいのである!


「あぁ! ダメ……ダメですっ! 私には愛する夫がっ!」

 こうは言っているが、ベローズもノリノリである。どのくらいノリノリかというと、既に一糸纏ってないくらい。


「ふははははっ! 夫のことなど、すぐに忘れさせてやるっ!」

「あぁっん! あなたぁっ! 裏切る私を許してぇっ! 淫らな私を許してぇっ!」

 そりゃあ裏切るも何も、男どもを置いてこっちに来てるからね!


「ダメっ! ダメですぅっ! 子どもが……子どもが見て……あぁぁんっ!」

 全然気配ないけどね!


 ちなみに、まだ何もしてないけどね!


 ◆◇◆◇


「ところで、ベローズって子どもいたっけ?」

「いませんよ? 私の初めて、あなただったじゃないですか」

 そ、そうだっけ?


 ふと、机の上に置かれた書物が目に入る。

『昼下がりの情事~侯爵夫人と騎士団長の性なる剣~』


「……」

 おまっ……ウーノの通信に気付かなかった理由って……まさかっ!?


「(テレッ)」

 いやテレッちゃうわ!


 普段からベローズが色っぽい理由も何となく理解したわ。


 ◆◇◆◇

 

「大変です! 今度はセイスさんから連絡がありました!」


 スッキリ艶々しているベローズが再び慌てた様子で駆けこんでくる。


「うむ、セイスは何と?」

 今度こそ、スマホ取れましたよね? また官能小説読んでなかったでしょうね?


「その……ここでよろしいですか?」

 チラッとアンジェを見るベローズ。


「よい」

 絶賛正座中でしてね……痺れてるから動けないんですよ……。


 まぁ、元はウーノからの連絡だろうし、ある程度予想はつく。

 そしてアンジェをチラッと見た理由も……。


「で、ではお伝えします! 『クイードァのギルバート王太子が軍部を掌握、各方面に侵略戦争を仕掛ける準備をしている』、とのことです!」

「……やはり、か」


 えっ!? えっ!?


 戦争って……えっ!?

 そんなバカなっ!?

 てっきり冒険者として名を上げた俺の正体がクイードァの王子だとバレて何やかんやアンジェとの婚約もバレてて盛大に凱旋式とかその辺やるのかと思ってたんだが!?


 いやしかし……各方面に侵略戦争って……。

 アンジェを気にしているッてことは、その各方面とやらにリョーゼンも含まれているのだろう。


「そ、んな! お父さん……みんなが!」

 顔面蒼白になるアンジェ。


「心配するな。どうにかしてやるから! そのために俺と婚約してるんだろう?」

「でも……でも……!」

 まぁ……突然故郷が襲われるかも知れないと言われれば仕方ないか。


 かくいう俺も、結構尋常ではない。アンジェのおかげで落ち着けているとも言える。落ち着けてるよね?

 しかし……ギルバートめ、愚かな真似を……っ!


「ぐすっ……助けてぇ……アレクぅ……」

 いや、そんなことより今はアンジェ!




「大丈夫! 俺に任せとけ!」

 

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