第125話 平和な日常の終わり
「あれきゅー! ちゅきー! 交尾ー!」
今日も来てしまった。
あれからクネクネも頑張っているようで、初日は数十秒程度だったのが、今では3分は人化していられるように。
きっと穢れ切った煩悩のせいで活動時間が制限されているのだろう。
毎朝、魔力が回復しては人化をしてその後はぐったりするのがここ最近のクネクネ。
隅っこでずっとプルプルしてるよりはマシかも知れん。
「きゅー!」
「よしよし」
まぁ、今はまだ飛びついてきてスリスリされているだけなのだが。
「ちゅー!」
「ちゅー」
こ、ここまではセーフ! ただの親子のスキンシップみたいなもん!
親子っつても俺まだ……何歳だ? 15で家を飛び出て……?
しまった、この世界では誕生日を祝わないこともあり、すっかりわかんなくなってしまった……。
元の世界でも23歳からは毎日生きるのに必死で……気付けば電車の中で誕生日を迎えていたってことも何回かあったし……。
ちなみに、それ以外は会社の中ですが?
「きゅー! あれきゅー、ちゅきー!」
「よしよし」
……ま、いっか!
「いつか、クネクネちゃんにそういった知識がついてしまった時にも同じことを言えるのでしょうか……」
心を読んだ上に怖ろしいことを言わないで欲しい。
「ちゅー! ――キュッ?」
再びちゅーをせがもうとしたとき、ボンっと音を立てて蜘蛛の姿に戻ったクネクネ。
ふむ、今日はちょっと短め。
「クーちゃんとのちゅーだと興奮しませんわ!」
「それは良かった」
他の人とでもしない方がいいと思うよ。少なくとも俺はしない質でよかったと思ってるよ。
「キュッ! キュッ!」
人化が解けた後も、しばらくはスリスリが続く。
「あらあら、クネクネちゃんは今日も頑張り待ちたねぇ~」
人化クネクネはアラアラにとっても母性をくすぐる存在のようで、可愛がることが増えた。
そうなんだよなー、完全に子どもなんだよ。
だから交尾とか言われると本当に辛い。
「……せ、せめてクネクネちゃんよりは……先に……」
アンジェよ、そこに対抗意識を持つのはやめて欲しい。
「なんぞ、そう思うのならガバッと行ってしまえばよいのじゃ」
「ガバッと……」
朝の食卓を囲みながらそういうこと言うのやめて欲しい。
「ガバッとって……どうすればいいんですか? 教えて下さい!」
あーあー。 アンジェが暴走してもうた。
「え……そりゃガバッと……発光草を敷き詰めて……それで……こう……」
婆のくせに乙女な顔をするでない!
それにしても発光草好きね。そんなにいい感じに発光するの?
「……? こう……?」
「こう……こっ! これ以上は自分で考えるのじゃ!」
お前が言いだした癖に何を言っておるのじゃ?
「……」
「……」
「……もしかして、リオさん――」
「あぁっと! そう言えば今日は母上の命日じゃった! 墓参りに行ってくるのじゃ!」
雑っ!
「あー……行っちゃった。もっと聞きたかったのにぃー」
「……しまった! 風呂の掃除がまだだった!」
俺も退散しよ……。
◆◇◆◇
「結局、カラーリングはしないんだって?」
お風呂作戦が功を制したようで一安心。
「そうみたい。だから、後は保護剤とかを塗って貰えれば完成かな!」
「そうか。まぁ、この木の色合いも結構いい感じだからね!」
そうだろうそうだろう! やはり世界樹を使って良かったってところ!
「そうだ、保護剤にこれを混ぜて見て欲しいんだけど……」
そう言ってリオの血を見せる。
「な、なんだいこりゃ……まさか、血じゃあないだろうね?」
「うん、血。大丈夫、1000年くらい生きてるドラゴンらしいから、何か効果あるよ!」
血液ドロドロじゃなくて良かったよ。
「何かって何さ。うげぇ……どうなっても知らないよ?」
そう言いながら、保護剤に血液を垂らすチック。
その瞬間――!
「うおっ!?」
「きゃあっ!」
眩い光を発する薬剤。やはり! 何かいい感じ! 俺の目に狂いはなかった!
「……何だか……凄そうだねぇ……よしっ! いっちょ塗ってみるぜぇっ!」
「頼むぞ!」
そうしてチックと一緒に保護剤を塗り塗り、3時間程かけて塗り込んだ。
「おぉ……見るからに今までの物とは次元が違うよ……! これなら多少の災害にはビクともしないんじゃないかい?」
ふむ。
「『超級炎魔法』(フレア)!」
「おまっ! おままままっ!」
おぉっ! チックの言う通り、全く被害がない! 燃えるどころか焦げ目一つついてないぞ!
「信じらんねぇっ! あたいらがどんな思いで作って来たとっ!?」
「そのお前が言う言葉を信じただけだ。問題ない」
うむ、問題ない!
「いや騙されねぇよ?」
「……ごめんなさい」
調子に乗りました。
「まぁいい。全体が乾いたら、後2回塗ってくからな! もうすぐ完成だ! 楽しみにしていろ!」
あ、まだ完成じゃないのか……。
「じゃ、後よろしく!」
「……あいよ」
みんなのとこに戻ろ……。
そう思っていたところに――。
「アレク様! 大変です! 急いで来てください!」
突如、平穏な日常を壊す知らせが舞い込んできた。
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