第8章 クイードァ騒乱
第125.5話 幕間 ―クイードァ王―
アレク誕生の日――。
「王よ、記念すべき第1子です。どうかお願いです、一目だけでもっ!」
長年仕えている執事の頼みにより、渋々お産が行われている寝室へと向かう。
「生まれました! 男の子です!」
同時に、産婆の声が聞こえた。
我が子が生まれると言うから来たものの、特段大したことは――。
「オギャァーン――……ぷすぴぃ」
「なっ!? どうしたのだ!? 急に動かなくなったぞ!?」
しかし、急に動かなくなった生まれたばかりの我が子に、思わず動転してしまう。
「ご安心を、寝ているだけです」
「……人騒がせな奴め」
そうして改めて我が子を見る。
これが……我が子。
「王よ、どうか抱いてください」
「うむ」
恐る恐る抱く。なんと弱々しい、小突いただけで死んでしまいそうではないか。
そうしてしばらく、すぴすぴ眠っている我が子をじっと見つめてみる。
「……ふふ、王様も慌てることがあるんですねぇ~」
先程の王の様子に、メイドがついといった様子で口に出してしまう。
「「「――っ!?」」」
周囲が息を飲むのを感じた。確かに、普段ならこの場で切り殺してもおかしくないような失態。
だがしかし……今この場でそうすることは、何故か躊躇してしまった。
「う、うむ……」
おかしい、声が上手く出ない。
「アレキサンダー様は可愛らしいお顔ですねぇ~。将来が楽しみですね!」
「アレキサンダーは世界をその手に収めるのです! そうですよね……王!」
先程のメイドの言葉に第1王妃が、産後の疲れを見せながらもその思いを叫ぶ。
そう、もちろんそうだ。我がクイードァは侵略国家。
あらかじめ異界の征服王にあやかって名前を付ける程、子にもその働きを期待していた。
「すぴぃ……すぴぃ……」
「……」
「ぷぴっ! ……ぷぴぃ……」
「……」
なんと……。
……。
……。
……なんと言うことだ……。
これは……この気持ちは……。
「侵略は……金輪際行わない。この子には、覇王の相はない。負けるだけだ。故に、戦争はしない」
「なんっ!?」
気付いたら、そう言っていた。もっともらしい理由を付けてはみたが、結局は見たくないだけなのだ。
この子が、傷つくところを……。
◆◇◆◇
――アレク、3歳の時。
とは言え王は強くなければならない。しかしどうやら才能はないようだ。だが厳しくしなければ……この国では生き残れない。
我が国は元々侵略国家、争いを求める気質がある。不満が各地で爆発おり、治安維持に出なければならない。そのため、何度も遠征を繰り返す。
我が子の傍に入れないことは悲しいが……しかし我が子のために……。
――アレク、5歳の時。
獣人の子を王宮に入れたいと言う。できれば叶えたいが、無理だ。王としての求心力が目に見えて低下している。これ以上の問題を……。
いや、1人くらいなら……大丈夫だろうか。うむ、問題ない!
それにしても、獣人とは物好きな奴だ。
しかし、アレクに言われて考える。『なぜ獣人は差別されているのですか?』。
…………いや……これ以上は……。
――アレク、12歳の時。
いよいよ適性の儀だ。誕生日は盛大に祝おう、好く育ってくれた。教会に無理を言って大司教も呼んだ。
結果、やはり武の才には恵まれなかったが……それでもお前が幸せに生きられさえすれば、それで良い。
――アレク、14歳の時。
ギルバートの適性の儀、痛恨の極み。
まさかギルバートがあんなことを言うとは……呆気にとられ、思考が纏まらないまま……アレクは行ってしまった。父親失格だ。
アレクは婚約者を連れて行った。これは問題になるだろうが、それくらいは尻拭いさせてくれ。
アレクよ……どうか、この愚かな、ギルバートを止められなかった愚かな父を許しておくれ。アレク、アレク……愛しい、我が息子よ……。
どうか……どうか……。
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