第122話 成長性もA

「きゃー! うさぎさんですわー!」


 8層目へとやって来た俺たち。


 そこで早速エリーがきゅんきゅんトラップに引っかかる。

 俺、知ってるんだ。多分食われる。

 

「ぷぅ?」

「きゃー! 可愛いですのー!」

「エリーが無防備にうさぎさんに近付き、頭を撫でようとする」


「ぷぉぉお怨!!」

「ぎゃー! ですの!」

「そして突如、うさぎさんは豹変し野太い声を発しながらエリーにかぶり付いたのだった!」

「アレきゅん、落ち着いて~るね!」

「坊ちゃま、いくらエリー様がまぬけにも見た目に騙されて噛みつかれているのだとしても、お助けになられたらいかがですか?」

 こんな見え見えの罠に引っかかる方が悪い。


「もー! 怒ったですのー!」

 その瞬間、エリーの手を丸かじりしていたうさぎさんが弾けた。

 グロッ。


「エリーや、大丈夫かい? 今度から不用意に近づいてはいけないよ」

「わかったですの! あっ! あっちに綺麗なお花がありますわー!」

「ダメだこいつ、はや~く何とかしないと!」

 それな。


 ◆◇◆◇


「その結果がおんぶって、ど~かと思うよ!」

「いや、むしろ今まで頑張って歩いてきた方だよ」

 今日は乗り物であるクネクネいないし。

 クネクネは相変わらず人化の練習を頑張ってる。頑張らないで欲しい。


「……仮にもダンジョンの中でおんぶしたり……そもそもメイさんともずっと手をつないでるし!」

 そう、実はメイちゃんとはここに来てからずっと手を繋いでるのだ!


「実は……手を離したらメイちゃんが透明になって……」

「身体能力もあが~るの?」

 このネタすら拾うのか。


「……私は元より、坊ちゃまを思うだけで強くなれます」

 それだけでSSランク魔物を文字通り粉砕できるのだろうか……。


「あ、はい」

 カオルコめ……もっとメイちゃんを崇めろよ!


「あっ! アレクー! あっちで誰かが襲われてますわー!」

「……え? ここSSダンジョンだぞ!?」

「と~にかく! 行きましょ~!」




 辿り着くと、そこには――。


「やめて! 私の為に争わないで!」

「キュバ子は俺のだ! バス男はどっか行ってろ!」

「うるせぇっ! 本当に愛し合ってんのは俺たちなんだよぉっ!」

 カオルコではない。


「わぁ~! 1人の女の子を取り合って喧嘩して~るの~!?」

「すまない、俺はこういうの好きじゃない」

 ということでちゅどーんと燃やす。


 良かったな、仲良く3人で丸焦げに慣れたぞ!


「え~! 私的には70点だ~よっ!」

 甘すぎだろっ!


「俺的には、複数の男が出てくる展開はお断りである。例え噛ませ役だとしてもな! 30点」

「その割には意外と高~いのね」

 衣装がね……その、えちえちだったから……。


「いででででっ! メイちゃん! つぶれる! 右手つぶれてる!」

「……どうか、しました?」

 うぅぅ……心を読まないで欲しい……。




「坊ちゃま。今の魔物、これまでと違って喋ってましたね」

「ん? あー確かにそうね」

 確かに、ちょっとおかしかったかも?


 ◆◇◆◇


 そして9層目。


「……そう言う事か」


 先程の喋る魔物……あいつらは……。


「や~ん♡ イケメンがいっぱ~い! ハァハァ! あぁん! そんな……どっちを選べばいいのぉ~!?」

 あかん! カオルコがまたインキュバスの『魅了』にやられてる!


「おい! 気を強くもて! 死ぬぞ!」

「――はっ! ここにもイケメン~!」

 それは俺だ! ありがとな!


「……」

 恐る恐る右側にいるメイちゃんを見る。


「わー、イケメンがいっぱーい! どっちにしよー」

「――っ!!!」

 そんなっ! 俺のメイちゃんがあんな奴らなんかに……っ!


「……ふぅ」

 かと思ったら、同時にグチャっとミンチにするメイちゃん。

 どちらを先に肉塊にするか迷ってたの……?

 それとも……メイちゃんの愛情表現が……?


「……すみません、お嫌いだと聞いたので試してみたのですが……予想以上でしたね」

「……」

「もう少し、信頼してくれてもいいんですよ?」

 そう言う問題じゃなんですぅ……!


「くっ……不覚っ! とこ~ろで、エリーさんは全く動じてないで~すね!」

「? 確かに美形に見えますが……それがどうしたんですの?」

 さすが綺麗なものは見慣れてるお嬢様。


「と、とにか~く! 先を急ぎましょ~!」

「そ、そうね!」

 俺への精神的ダメージがでかすぎるっ!


 ◆◇◆◇


 そして10層。


 ここまでインキュバスが大量に出て来た。間違いなく過去最高にダメージを負っている俺。

 しかし……俺にはわかっている。ボス部屋で報われることを……!


「さぁ~! いよいよボス部屋だ~よっ! 準備はいい!?」

「いや、みんなはここで待っててくれ。SSダンジョンのボスだ。間違いなく強敵だろう。ここは俺が様子を見てくる!」

 そう言ってメイちゃんとつないだ右手を放そうとするが――。


「どこまでもお供します、坊ちゃま」

「……」


 かくなる上は背負ってるエリーだけでも!


「すぴー……すぴー……」

 寝てやがる……全然振り落とせない……。


「……みんなで、行こうか」

「? ゴーゴー!」

 カオルコが扉を開ける。




 そして! やはり! ボスはサキュバス――。


 グチャ!


 ……だったモノ……。


「オェェェェェッ!」

 さすがにグロすぎ! メイちゃん容赦なさすぎ!


「え……え!? 何この肉塊!? え!? 何かの精神攻撃!?」

「終わりました」

「え!?」

「ですから、終わりました。さ、早くクリア報酬を貰って来てください」


 カオルコなんかボスを視認すらできていない様子。

 ……でも、メイちゃんたら嫉妬しちゃったのかなぁ~かわいいなぁ~。


「……」

 心なしか、握った右手も照れ臭そうに……。


 ……俺、ずっと手を握ってたと思ったんだけど……。

 ボスがいた場所までおよそ15メートル、決してつないだままでは届かない距離。


「坊ちゃま。愛ゆえに、ですよ」

「……ははっ!」

 わからない、俺には何が何だかわからない……。

 桁違いなスピード……そしてパワー……まさかっ!?




「アレきゅ~ん! クリスタルあ~ったよっ!」

 忘れてたわ。やれやれだぜ。

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