第118話 気になる年齢


「きっさまぁっ! 一体いつまで待たせるつもりじゃぁ!」


 クネクネが人化を覚えてから数日後、うるさいのがまた来た。


「せっかく……せっかく身体も清めて……いい雰囲気になるように発光草も集めて……貴様はわらわの乙女心を踏みにじったのじゃぞ!」

 黙って精を吐き出せとか言っちゃう幼女に言われたくない。


「1000年生きてる婆に乙女心もクソもあるか!」

「あるわ! 人間で言うところの10歳じゃ!」

 どういう計算だよ! いやそれよりも……。


「だったら尚の事、致せないのだが……」

「……う、嘘じゃぞ?」

 騙されるかいっ。


「……それに、俺は愛を求めるって言ってるだろ!」

「……愛、とは?」


 ……。


 ……いや、そんなん聞かれても。


「……」

「……」


「……それは、お前自身が見つけるのだ!」

「えぇ~」

 人に言われて理解するもんじゃない、はず!


「とにかく、お前はクネクネの面倒を見てくれるんだろ! 今はそれを全うしろ!」

「……わかったのじゃ」


 ふぅ、何とか誤魔化せた!

 メイちゃんたちを愛してるとは自信を持って言えるけども、では愛を言葉で説明しろって言われても困るわぁ……。


「……リオじゃ」

「ん?」

「母上から貰った名前! リオ!」

 ……何で今更名乗ったのやら。


 ◆◇◆◇


「やっぱりぃ~、私はピンクの方が可愛いと思うよ~?」

「全体がピンクだと落ち着かないと思います! ここはやっぱり無難な白です!」

「何度も言ってますけど、キラキラしないと意味がありませんわ! だから金ぴかゴールドですの!」

「坊ちゃまは黒がお好きです。なので黒と青を混ぜた色にすべきです」

「ここはやっぱりーっ! エルフっぽく緑にすべきだと思いますよーっ!」


 今日も今日とて言い合いは続く。


 そう、家の着色はどうするかってところでここしばらく言い合いをしているのだ。

 ケンカにはなってないのが救いではあるが……。


 だーれも譲らんのだこれが。

 メイちゃんですら、俺の事を配慮した風でしっかり自分の好きな色を主張している。


「あのなぁ~、あんたらいい加減決めてくれよ~」

 チャキチャキ江戸っ子娘のチックもげんなりしている。

 ちなみにケン爺さんは飽きたらしく、ハンダートの館の方へ行ってくれてる。


「案外、このままでもいいんじゃない?」

 木そのものの色合い、嫌いじゃない。

 これに保護剤やらなんやら塗ったらいい感じでしょ! あとリオの血!


「「「「……」」」」


 ……一瞥されただけで、再び話し込む女性陣。


「……」

 何だか悲しくなったので聖奴隷の首根っこを掴んで『転移』する。


「ぎょわーっ!? 何ですか何ですかーっ!? 離してくださーいっ! このままじゃお家が金ぴかになっちゃいますーっ!」

 えっ!? またエリー優勢なの!?

 金ぴかだけは嫌なんだけど! あとピンクも!


 ◆◇◆◇


 飛んだ先はリビランス。特に理由はないんだけど。


「いたたたた……突然なんですかー!?」

「いや……何となく?」

 ちょっとこう……こいつをいじめたくなったというか何というか。


「あっ! さてはあれですね! 私が超絶美少女だから! 可愛いから意地悪したくなっちゃうあれですね! たっはー! まいっちゃうなー!」

 うっぜーっ! やっぱやめときゃ良かった!

 いや……こいつの弱点は知っているぞ!


「その通りだ」

「……コヒュッ!?」

 メイちゃんに凄まれたリオと同じ音がしたんだが?


「お前が可愛いから、今日はデートでもと思ってな」

「……」

 はっはっはー! 照れてる照れてる!

 いつものうざ明るいこいつからは想像もできないくらい真っ赤になって照れてる!


「……ミント」

「あん?」

「ミントって……呼んで、ください……」

 そう言えば、こいつミントって名前だったか。


 ……さっきも同じようなことをリオに言われたなぁ……。


「いくぞ、ミント」

「――っ! はい……」

 ふむ、こうして静かにしていればこいつも可愛いじゃないか。




「見てください見て下さい! 可愛い私にお似合いの可愛いお洋服ですよ! アレク様買ってくださーいっ!」

 

「見てください見て下さい! 可愛い私にお似合いの可愛いお菓子ですよ! アレク様買ってくださーいっ!」


「見てください見て下さい! 可愛い私にお似合いの可愛いネックレスですよ! アレク様買ってくださーいっ!」


 ……何こいつ、静かにできないの?


「ミントや、少し落ち着きなされ」

「わっかりましたーっ! あっ! 見てください見て下さ――もごもご!?」

 しまった、つい口を塞いじゃった。


「もごもごもごもー! ももごももごもごもー! もももごももごもごもっももごー? もっももーもごもー!」

「……」

 何言ってるかわからないけど……塞がれた状態でもうるさいんですが……。


「……(ベロベロベロベロベロベロベロ)」

「ちょっ! おまっ! 正気かよっ!?」

 こいつ舐めやがった! しかも尋常じゃなく! やはり犬! 前世どころか現在進行形で犬!


「ぷっはぁっ! もー! 私が可愛いからって口塞いじゃだめですよぉーっ!」

 こいつの脳内どうなってんの? 可愛いから口塞ぐってどういうこと?


 手がべとべと……洗いに行きたいんだが……。


「それより! 見てくださいよー! あそこ! 可愛い私にそっくりのワンちゃんがいますよーっ! おーいっ! こっちおいでーっ!」

 何だ、似てるという自覚はあるのか。




 どっちがどっちかわからなくなるくらいじゃれついてるミントか犬を眺めつつ、ふと考える。


「こいつ、さすがに成人してるよなぁ……」

 じゃなきゃさすがに……奴隷とかヤバすぎるんだが……。

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