第7章 平和な日常

第113話 ぴよっ!

「ぴよっ! ぴよぴよぴよっ!」


 闘技大会が終わって数週間。

 しばらく着々とできていくお家を眺めたり、クネクネと遊んだり……ゆっくりと過ごしていた。


 そしてかなり形になってきた我が家。

 既に大部分は完成しており、残りは保護剤だったり塗装だったり細かい取付だったりと言うところらしい。


 玄関を入ると広いスペースが広がり、奥には階段がある。なぜか階段の折り返し地点にでかい木がぶっ刺さってるけど。

 左側にはいくつかの小部屋が並び、右側は食堂兼キッチンとなっているようだ。


 2階へと繋がっている階段を昇ると、まず俺の部屋。

 ここでメイちゃん達が大揉め。主人なんだから一番奥に派のメイちゃんやアンジェ、すぐに行けるように一番近く派のエリー(と聖奴隷)、あらあらと困ってばかりのアラアラ。


「なんでエリーたちが勝ってしまったのか……」

 別にいいけど……あ、犬はお家に上げないです。




「ぴよぴよぴよっ! ぴよーっ!」


 ちょびっと広めのお家。木々の薫りがして落ち着くなぁ……。

 それと何となく全体的に神々しさも感じられるし!


「ねぇねぇ、アンジェ。ほら、あれ言ってよアレ!」

「え? えぇ……おかえりなさい、あなた」


 ふわぁっ! 何かいいなこれ!

 まだ我が家としての実感は少ないけど! これから我が家のために頑張るんだい!


「ぴよーっ! ぴよーっ!」


「1階にあったキッチンでメイちゃんがお料理してくれるの?」

「今はそうですが、ゆくゆくはアンジェさんも。現在アンジェさんにお料理をお教えしているところです」

 おぉ、お姫様であるアンジェがやってくれるのか。さすが庶民派お姫様!


「そっかぁ。基本的にはお家のことはアンジェに任せるんだもんね! よろしくね!」

「え? えぇ……」


「ぴよーっ!ぴよっぴよっ!」


「お手伝いさんとか必要だったら言ってね! あ、男子禁制で!」

 我がハーレムに男は不要!


「え? それはもちろん……と言いますか、エルフの方が手伝ってくれるみたいです」

「あぁ、そうなんだ。お家作りのこともあるし、エルフの方々にもお礼をしなきゃなぁ~」


「ぴよーっ!!!」




「さっきからぴよぴようるせぇっ!!!」

「ぴっ……ぴぃっ……」

 何だよこのでかいひよこ!


「やっと反応したわね……かわいそうなぴよちゃん」

「どうせエリーでしょ! 元の場所に返してきなさい!」

 うちのペットはクネクネと聖奴隷だけで十分です!


「私じゃないですわ!」

「いつの間にかここにいたのよね~」

 ケン爺にあーでもないこーでもないと言っていたエリーとアラアラがこちらに来てくれる。


「何でも、あの大きな木を探しに来たらしいですの!」

「おー、やっぱり言葉わかるの?」

「当然ですわ!」

「さすがエリー! じゃあ、そのまま帰るように伝えて貰っていい?

 さすがに2メートルはありそうなひよこなんて飼えません!


「ぴよっ……ぴよっ……」

 うるさいと言われたからか、小声で何やら訴えているひよこ。

 ちょっと可愛いじゃないか。


「なんて?」

「木を取った人を殺さないとママに怒られる、だそうですわ!」

 可愛い声で怖いこと言ってた。


「んー? 木ってアレ?」

 階段にぶっ刺さり、家の中心となっているらしい例の木。

 ……あっ! そう言えばあの木を採ろうとしたときに邪魔しにきたひよこがいたなぁっ!


「おまえあの時のひよこかっ! 何だ、遠いところからわざわざ焼き鳥になりに来たのかっ!」

「……ぴっ……ぴっ……」

「こらアレク! ぴよちゃんが怖がってますわ! 『アレクが怖いけど、ママにも怒られる』って泣いてますわよ!」

 えーそんなこと言ったってなぁー……。


「ぴよぉ……(うるうるっ)」

「お前、俺を殺しに来たんだろ?」

「ぴよっ(こくこく)」

「いや頷くんかい」

 さて、どうするか……。


「やっぱり、焼き鳥にした方が後腐れないか」

「ぴよっ!?」

 せめて一思いにと思い、極大の炎属性を――。



「お待ちください坊ちゃま。先に内臓を取り出さないと、生臭くて食べられません」

「確かに」

「ぴよよっ!?」


「何だかもう懐かしいなぁ~! よく捕まえた魔物を血抜きをして食べたっけ~」

「ぴよよよっ!?」

 さすが冒険者生活の長いアラアラ! あれ? 俺らもそのはずなんだが……。


「ぴよっ!? ぴよよっ! ぴよよっ!」

「アレク! ぴよちゃんがお願いがあるそうですわ!」

「なんだ? 焼き加減の話か?」

「ぴー! ぴー!」

 しまいには大泣きしだしたひよこ。


「何でも、『一度ママのところに連れてって!』だそうですわ!」

「何だ、遺言を遺したいのか。それとも、ママなら俺に勝てると……?」

「ぴっ! ぴっ! ぴよぴよぴーっ!」

「違うみたいですの! 『ママとお話して、大丈夫なようにするから!』と言ってますわ!」

 ふむ。


「まぁ、そういう事ならいいだろう。お前みたいのがまた来てもめんどくさいし」

 俺も鬼じゃないからね! 平和的に解決するならそれでいいさ。


「『転移』」


 ◆◇◆◇


「――そう、そういうことですか……なるほど……わかりました」

 わかりません。


 ひよこに案内されてついた場所にはさらに大きなひよこがいた。

 いきなり『人の子が何の用ですか!』と襲い掛かってきたので焼き鳥にしようとしたら、小さいひよこがでかいひよこにぴよぴよ言ってでかいひよこが落ち着いて小さいひよこが事情を説明してる様子で……わかりにくっ!


「ぴよぴよ言ってるばかりでわかんないんだけど?」

「――この子はまだ小さく、経験も足りないために人の言葉を話せません」

「ぴよぴぃ……」

 何だか親鳥に甘えてる雛みたいで可愛いな。どっちもひよこだけど。


「――事情は全てわかりました。では、こうしましょう。人の子が持って行った世界樹、あなたはそれを近くで見守りなさい」

「ぴっ!? ぴよっぴよっぴよっ!」

 は? どういうこと?


「彼を殺せないのならそうするしかないでしょう。それに、これもあなたにとっていい経験になる、そう世界樹も言っています」

「ぴーっ! ぴーっ!」

 大泣きする小さいひよこ。


「大丈夫、母はいつでもあなたのことを思ってますよ」

「ぴぃ……ぴぃ……」

 がしっと抱擁っぽいことをするひよこ共。




「それでは……アレクさん。この子を、どうぞよろしくお願いしますね」

「え? 嫌ですけど……」

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