第110話 罰
「みなさま、大会の途中ですが……ここでルールの変更を――」
騒然となっていた会場。
小一時間程の休憩を挟み、ようやく落ち着きを取り戻してきた。
そこで試合再開と思いきや、司会の姉ちゃんがそんなことを言いだす。
いや、さっきの感じだとわかるけども。
ちょっと良心に頼り過ぎたところもあったよね。
「必要ない」
「はへ? でもでもアレきゅん、それだと多分あなたが――」
「必要ない。俺と戦いたい参加者は会場に来るがいい! 戦いを前に逃げだす臆病者どもでなければな!」
「はひぃっ! オラオラしたアレきゅんかっこいい! おらー! 大会に挑戦しておいて棄権した臆病者ども! 出て来いやぁーっ!」
突然始まるバトルロイヤル!
ルール変更にてんやわんやな今がこいつらを堂々とボコすチャンス!
「わー! 本当に出てきましたー! 恥も外聞も糞くらえ! タカットゥー選手やバダム選手らが対戦に名乗りを上げるっ! ……え? なになに?」
おっと、大会本部の役員さんから再び耳打ちをされる司会の姉ちゃん。さすがにダメでした?
「えー! 運営本部から今試合に限り許可が出ました! ただしアレキサンダー選手以外の13人の選手が勝てばその方の誰かが決勝に! さらにルール無用の大乱闘! それでいいですね!?」
「え? ルール無用?」
「え? ルール無用?」
「えぇ、ルール無用!」
俺が姉ちゃんに、姉ちゃんが本部に、そして本部からゴーサイン!
「はぁーーーっはっはっはっは! この俺にっ! ルール無用っ!」
ドルギマスが本部でにやけてるが……都合がいいのはこっちも同じ!
「では……アレきゅん、頑張って! ファァァィッ!!!」
「「「「マナよ」」」」
「「「うおーっ!」」」
雑魚共が一斉に詠唱を、そして前衛の奴らが前に詰めてくる!
「ふははははっ! バカめっ! 俺が飛べるのを見ていなかったかっ!」
『レビテーション』で飛びながら、加えて……ふむ。いいこと考えたぞ!
「『魔素鎮静化』!(サイレントフィールド!)」
周囲の魔素に働きかけて、敵方の魔法発動を阻害する。
実は王宮とかにも設置されている魔道具や魔法無効化の魔道具。
それを応用してみたぞ!
「なっ!?」
「魔法が発動しない!?」
「降りて来い!」
「卑怯だぞっ!」
どの口がっ!
「二度と喋れないようにしてやる! 『空間収納』! そして……針と糸!」
感謝しろ! エリーのお古の針で! クネクネの唾液たっぷりの糸をプレゼントしてやるんだからなぁっ!
「はっ?」
「伝説級の魔法……から針と糸?」
「使い方をレクチャーしてやるぞ!」
そう言って、『アクセラ』と『身体強化』を使いながら5人ほど同時に口を縫い付ける!
「はーっはっはっは! どうだ! これでお得意の降参もできまい!」
「――っ! むごむごっ!」
「むーっ! むーっ!」
血をだらだらと垂らしながら何やらもごもご言ってる雑魚共。
「ヤバい! 俺はこ――」
「俺もおり――」
「悪魔かこいつ! 俺もこ――」
言わせねぇよっ!
そして残り8人、きっちり縫い付けてやったぜ!
「「「んーっ! んーっ!」」」
「あぁ、すまない。実は俺、裁縫が苦手でね。とにかくめちゃくちゃに縫い付けるしかなかったんだ」
ジグザグきれいに縫えればかっこよかったんだが……残念!
縫い目はぐちゃぐちゃ、糸も切ってないから、何人かはちゅーしちゃってる。
「どれ! そう言えば初級魔法を笑っていたな! これでも笑っていられるか!?」
そう言って初級魔法『ロックブロウ』を放つ!
握り拳大の石を敵にぶつける魔法、それを何百と発動させる!
「んごーっ!?」
「~~~っ!!!」
全身をじわじわと石で殴られ続ける挑戦者たち。
「はっはっは! ひどい擦り傷じゃないか! 傷の手当は綺麗な水で洗浄することだ!」
そう言って巨大な『エレメントボール(水)』を作り出し、全員まとめて洗濯じゃぁっ!
「「「ゴボボゴボボボッ!?」」」
窒息しないように、適宜息継ぎさせてやる。
気絶しそうになったら回復回復!
「さあて、お次は――」
「……アレきゅん、やりすぎ」
……。
「「「……」」」
見ると、会場も若干引いている。
「……」
よくよく考えたら、こいつらがやったことは、1人を除き大会の棄権程度。
個人的に怒りは溜まっていたが、世間一般的には法を犯してる訳でもない。
もしかして、俺。やっちゃった?
「……てへっ☆」
「勝者、アレきゅん! もー! だめでしょー!」
◆◇◆◇
――ドルギマス視点――
「何なんじゃあいつ! 何なんじゃ! あんなバケモンっ勝てる訳が!」
「……ご安心を。我に秘策がありますぞ……!」
「カイマー……本当じゃろうなっ!? 負けは許されんのだぞ!」
「えぇ……代わりに、もしかしたら奴は死んでしまうかもしれませんが、ね」
「構わんっ! 優勝は優勝じゃ! 法など、わしがなんとでもしてやるっ!」
何としても! SS冒険者と言う名誉を引っ提げ、王に直言する機会をっ!
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