第109話 下衆の極み

「では……両者準備はいいですね……ファァィッ!」


「にゃーっ! 『身体強――』」

「おせぇよ! 駄猫がっ!」


 開始と同時にスゲスカがミィちゃんに詰め寄り、あっと言う間に組み伏せてしまった。


「にゃっ! 離してーっ! ――え?」

 そして……スゲスカはミィちゃんのワンピースのような衣服を引き裂いた。


「にゃにゃにゃ! にゃにをーっ!」

 露になる乳房に、顔を真っ赤にして必死に隠すミィちゃん。


「ひゃっはーっ! どうだ! たくさんの奴らに裸を見られる気分はよう!」

「うぐぅ……」

 上半身だけとは言え、それでも筆舌に尽くしがたい思いだろう……。


「てめぇースゲスカやめろや!」

「今すぐミィちゃんから離れろーっ!」

 会場も、ただただスゲスカへの怒りに溢れている。


「スゲスカ選手! 故意に相手を辱める行為はやめて――」

「あん!? そんなことルールで禁止されてねぇだろうがよぉっ! それにオークちゃんやゴブリンちゃんにも同じこと言うのかぁっ!? ああっ!?」

 確かに冒険者をやってれば、こんなことはよくある話だ……。

 だが、それとこれとは――っ!


「私は……私は大丈夫! お店でも裸に――」

「あん? てめぇ、娼婦か! だったらよぉ――」

 だから! それとこれとは――っ!




「大勢の前で犯してやるぜぇっ!!!」

 

 あまりのことに、言葉を失う会場。


「やってみろ! 私は屈しない! お前なんかに降参なんかしない! 私も……私も! ヒッターちゃんみたいに頑張るんだからぁっ!」


 ……何が彼女をここまで突き動かすのか。

 決まっている。獣人の権利を……平等を……!


「ミィちゃんもう降参してくれーっ!」

「しょっ、勝負あ――」

「だめっ! まだっ! ぐすっ! 私は負げないっ!」

 恐怖に耐え、それでも降参をしないミィちゃん。司会の勝利宣言を遮り、尚も力強く卑劣なヒトを睨み続ける。


「ひゃっはっはぁっ! そんなにお望みなら……くれてやるぜぇっ!!!」

 そして、ついに一物を取り出す下衆野郎。


 その瞬間――。


 グチャッ。


「ひゃっはっは……はぇ?」

 万の力を込め、汚物を圧し潰す。


「~~~っ!? ――っ!?」

「――っ! 会場の外から出場者が助太刀しても問題ない、そんな当然誰もしないであろうこと! ルールには載っていませんから!」

 お、セイスよフォローありがとな。


「ギィヤァァァァッーーーっ!!!」

 数瞬遅れて下衆野郎の悲鳴が響き渡る。ゴブリンちゃんより汚い悲鳴だな。

 ついでに2度と再生できないように、汚物の汚物を燃やし尽くしてやろう。


「また! 強姦未遂という犯罪者を、現行犯として一般人が裁くことも問題ありません!」

 さすがセイス、法律にも詳しい。


「ですがアレク様! その裁きに死刑までは認められていません! 何卒! 何卒っご自制ください!!!」

 ……。


「アレキサンダー様……アレク、さま。申し訳……申し訳っありません……うわぁぁぁ~ん!」

 ミィちゃん……。


 衣服は破られ、下半身は何とか下着で隠れている状態の彼女。

 この子をどうにかする方が先だ……。


「……」

 司会の姉ちゃんも、下衆野郎を制止しに来たであろう大会役員も足を止め、呆然と見ている。


「司会さん、勝ちはあの下衆に」

「――っ! しょ、勝者……あっちの下衆野郎……」

 会場も未だ静まり返ったまま、いたるところからすすり泣くが聞こえる。




「お前ら泣くなよ!!!」

 司会の拡声器を借り、会場に向かって叫ぶ。


「最後まで卑劣な下衆野郎に屈しなかった! どう見てもミィちゃんの勝ちだろう! だからお前ら――」

「……そうだ! ミィちゃんの勝ちだ!」

「おぉ……ミィちゃん! アレキサンダーの言う通りだ!」

「ミィちゃん! アレク様っ!」


「祝福しろっ!!!」




 会場を、咽び泣く声とともに、ミィちゃんの健闘を讃える声が響き渡った。

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