第108話 警告無視
「さぁ、大会2日目もいよいよ最終戦! 本日も……ほとんど戦いはありませんでしたが……」
急に飛んだって?
だって司会の姉ちゃんの言う通り、ほとんど不戦勝だったんだもの……。
ドルギマス派の方はともかく、タイグルまで不戦敗とは思わなかったが。
そんなことするような奴には見えなかったんだけど……。
「さぁ、最初の選手はこの方! 初戦は目にも留まらぬ早業で対戦相手を瞬殺! 謎の男、シッサアーノ! 対するは……神々しき盾を持つ男! アレキサンダー!」
う~ん、どうにも気になるなぁ……。
「両者見合って……ファイッ!」
「――疾っ! ――ガハッ!」
「……あ」
しまった、考え事してたから無意識に殴っちゃった。
恐らく、一般的には目にも留まらぬ速さで俺の横から近づき、手に持ったナイフで……ってとこだったんだろうけど。
顎を強打された対戦相手は、ピクピクして動かなくなってしまった。
「……え? 終わり? ……しょ、勝者……アレキサンダー選手」
◆◇◆◇
「セイスめ……どこ行きやがった?」
何とも言えない2日目も終わり、セイスとともに飯でも食おうと思ってたのだが……姿が見えない。
「しょうがない、1人で行くか……」
そう思い、1人町を行く。
「おいっ! 聞いたかよ! タイグルの旦那の話っ!」
そこに覚えのある名前が聞こえて来た。
「あぁ……何でも昨日、何者かに襲われたらしいな……今日の対戦、楽しみだったのに」
「本当によう! それに……何者かって言ってもよぉ……」
「噂じゃ、ドルギマスの仕業らしいぜ! セーヌ・カイマーもやつの使い走りみてぇだしさ」
「ドルギマスだと!? 誰だそりゃ……」
「前ギルマスだよ。選挙に負けて、その腹いせにカイマーをなんとしても優勝させたいらしい」
「けっ! 何が『確かな信頼』だ!」
うむ、セイスによる対応が機能しているようだ。
セイスの対応、それは何のこともない。ただ事実を広めているだけ。
今はまだ何が変わるって訳ではないが、俺が勝てば全て良くなるだろう。
それよりも……。
「タイグル……」
お前の仇、討ってやんよ!
◆◇◆◇
「さぁさぁ大会3日目! 本日は第3回戦、それに続いて第4回戦が行われます!」
対戦数が少ないからね、しょうがない。
「つまり! 今日でこの冒険者ナンバーワン決定闘技大会ファイナリストが決まるのです! 個人的には『アレきゅん』を推して行きたいところーっ!」
「ちょっ!」
いきなりなんやい! よし、今夜はエキシビションマッチだぞ! 司会の姉ちゃん!
「それでは! え、何? ……え?」
おや、司会の姉ちゃんが大会役員っぽい人から何やら耳打ちを受けている。
「さぁみなさん! ブーイングの用意をお願いします! ただいま入った情報によりますと……カイマーの対戦相手である3選手全員が棄権するとのこと! これにより! カイマーの決勝進出が決定しました!」
一瞬静まり返る会場。そして――。
「ふざけんなっ!」
「カイマー見損なったぞぉっ!」
「ドルギマスの犬になりやがって! いや犬に失礼だった!」
会場から非難轟々。そりゃそうだ。まぁ、カイマーがやつの手先って証拠はないんだけど!
「いったんお静かに願います! では……惜しくも決勝進出となってしまったカイマー選手に一言頂戴します!」
「……うむ。私は、私の信じるもののため戦っている。そのためならどんな手段も厭わない! 文句があるならかかってこい!」
おぉ、不正に関与してる風なことは認めたか。そこだけは男らしいな。
「かっこいいこと言ってる風ですが、結局選挙で負けたドルギマスの腹いせに協力してる不正野郎ってことですね! どうもありがとうございました!」
司会の姉ちゃん……大丈夫か? いい女過ぎるぞ!
後でプレゼント送っておこう。
「では気を取り直して! 本日最初の対戦カードは……ミィ選手! 彼女もここまで不戦勝で勝ち上がりましたが! 何と対戦相手だったタイグル選手が何者かに襲われ、出場できない状態となってしまっていたようです!」
「にゃぁ~ん! タイグルさんの分まで頑張るにゃん!」
はわわわわぁ~! 萌えていいのか怒っていいのかわからんん~!
「続きまして対戦者! スゲスカ選手! 第1試合、第2試合とも相手の選手をボコボコにしてしまいました! 実力は折り紙付き! ミィ選手は大丈夫なのかーっ!?」
「「「ミィちゃーん! 頑張ってー!」」」
会場からミィちゃんを応援する声が……いや、団だ! 応援団が出来上がってる!
「では……両者準備はいいですね……ファァィッ!」
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