第107話 ひたむき

「本日もやって参りましょう! 冒険者ナンバーワン決定闘技大会2日目! その前に! みなさんもご覧頂けたでしょうか!?」


 1日目が終わり、大会2日目。本日は第2回戦が行われる。

 その会場に、これ見よがしにとある看板が設置されていた。


「『これ以上大会を汚す者、必ず天罰を下す。これは最終通告である』! この看板は一体だれが!? 『汚す者』の方々は是非ともお気を付けください!」

 司会の姉ちゃんがそれを読み上げながら、カイマー達の方を見やる。

 なかなか肝の座った姉ちゃんじゃないか。


「主よ、あれは一体何の意味が?」

「慈悲だよ、一応ね」

 そう、あれは俺が設置した。朝早く来てせこせこと。

 最初の通告が最終ですまないとは思っている。


「あまり意味がないように感じますが……」

「まぁね~。でもさ、一応保険が欲しいのよ。『俺は警告したからな』って」

 いかにも日本人的!


「はぁ……」


 ちなみに、昨日の反省からかメイちゃんたちはいない。

 俺も決勝だけでいいかなーなんて思ってる。


 あ、タイグルとの戦いは見て欲しいかも!




「さぁ! 気を取り直して……第2回戦目! その緒戦は……セーヌ・カイマー! そして……ヒッター・ムッキー選手!」


 残念ながら、その実力差は歴然としており、結果は目に見えている。

 会場中も、既に期待ではなく、憐れみの気持ちが渦巻いている。


「ヒッター選手、めちゃくちゃ震えていますが……大丈夫ですか?」

 司会の姉ちゃんも思わずといった様子で声を掛ける。


「だっ! だだだっ! 大丈夫でっす!」

 リスちゃん! よく頑張った! ここまで来ただけで優勝だよもう!


「……では……両者見合って……ファィッ!」

 そして開戦の合図。


「小娘よ。去ねっ! ここは貴様のような軟弱者が来る場ではない!」

 不正に勝ち上がろうとしてるお前が言うなや!


 しかし――。


「うひぃっ……ぅぅぅ~……ぁっ……」


 チョロチョロチョロ……。


「おっと! 野郎ども見るんじゃねー! 今すぐ目を閉じないと潰しに行くからなーっ!」

 そのあまりの圧に、リスちゃんが漏らしてしまった……。

 ちょっと興奮するかもしれん。


「大丈夫ですかヒッター選手!? このまま降参されても――」




「――っ! がっ頑張るもんっ!!!」


 会場に響き渡る大きな声。

 まるで不安を誤魔化すように、しかし確たる決意を滲ませる!


「い、今まで支えてくれたみんなや……じゅ獣人でも……こんな私でも! 頑張れるようにしてくれた人のためにも! 頑張るもんっ!」


「――ッ!!! 皆の者刮目せよ! 誇り高き戦士の姿を! これが冒険者だ! 瞬きせずに刮目せよーっ!!!」

 見るなと言ったり、見ろと言ったり。難しいことを言う司会の姉ちゃん。


 しかし……姉ちゃんの言う通りだ。

 すまない、ヒッター。勝負が決まってるだなんて言って……。

 

「あの娘……」

「あぁ、応援したくなるな!」

 隣に座っているセイスも胸を打たれた様子。


「ママママナよ……お願い……お願い……っ」

「……」

 ヒッターが魔力を練るが……ダメだ、恐怖からか全然練れていない!


「お願い……お願いだよぉ……っ」

「……無駄なことよ」

 だめだ、一向に発動する様子がない!


「うぅ~……マナよっ! マナよっ!」

「いい加減――っ」

 その時――っ!



「頑張れっ! ヒッター!」

「怖くないぞっ! 俺たちがついている!」

 会場から声援が!


「ヒッターちゃん! 私たちが一緒よっ!」

「頑張れー! 頑張れー!」


 会場にいる獣人が、亜人が、そして……ヒトが!


「さぁ、アレク様も一緒に!」

「あぁっ! 負けるなヒッター! 俺が……俺たちがついてるぞーっ!」

 セイスに促され、俺も声援を飛ばす。


「み、みんな……っ! それにあれは……セイス様に……アレク様っ!」

「……む?」

 みんなの声援を受け、ヒッターの震えが止まる!


「マナよ! お願い! みんなの想い! 形になって! 『ファイヤーボール』!」


 それは初級魔法のファイヤーボール。

 だけれど、今まで見たどのファイヤーボールよりも澄んだ魔力をしていた。


「いっけぇーっ!」

 魂から来るような叫びとともにヒッターちゃんが魔法を放つ!


 しかし……。


「……ふん。所詮この程度、か。まさか初級魔法とは」

 魔法をたやすく弾くカイマー、そして――。


「ぁ……」

 当身一閃、ヒッターちゃんは気絶してしまった。




「――っ! 勝者カイマー! しかし! ヒッターちゃんは負けなかった! 自分にも、強大な相手にも! この戦いは彼女にとって大きな財産となるでしょう! 今一度、大きな声援をお願いします!!!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る