第106.5話 幕間 初戦が終わって

「どうだ、カイマーよ。この大会、優勝できそうか?」


 冒険者のナンバーワンを決めると銘打ったこの催し。

 ドルギマスにとっては、最後の返り咲くチャンスだった。


 屈辱的な選挙での敗北。


 それに加え、亜人を蹴落とすために行った『ヒトキャンペーン』。結果は芳しくなかった上に財産も大幅に減らしてしまう。

 それどころか、結果的にギルドとしての月の依頼達成数を過去最高のものにするための後押しとなってしまったことも否めない。


 つまり、ドルギマスにとってはもう後がない戦いだった。

 故に、彼にできることは何でもやった。




「どうでしょうね……」

「優勝してくれなければ困るぞ! 残り少ない財産から冒険者を雇い、暗殺者も雇い、対戦の組み合わせも露骨にいじっておるのだ!」

 全てはこのセーヌ・カイマーをSSランクとし、その名誉を王から下賜される際に直言するため。


 世話になったドルギマスを再びギルドマスターに! 亜人はやはり差別すべき!


 史上初のSSランク冒険者の言葉なら、いかに冒険者ギルドに不干渉のリビランス王と言えど、無視はできまい。

 一国の王の発言ともあれば、政治不干渉の冒険者ギルドと言えど……。


 そのような思惑を、ドルギマスは持っていた。


「Sランク、『百発百中』を破ったあの男が持つ盾……あれは正直やっかいかと」

「ふむ、あれか。さすがにわしにもあの盾の秘めたる力を感じたぞぃ」

 実際にはドルギマスが感じた力など、端の端でしかないのだが。


「魔力を通すだけで、2つの超級魔法を無傷でやり過ごせる盾。某には突破できるビジョンが浮かびませぬ」

「何を弱気な……いや、ならば! お前が使えばよい!」

 実にいいアイデアが浮かんだかのように言うドルギマス。


「……と、言うと?」

「……あの男は、今夜女に溺れて酔いつぶれ、大事な大事な盾を無くしてしまう。そして偶々お主が拾った。そうであろう?」

 机上の空論、しかし既に策は成ったかのように酔いしれるドルギマス。


「……ふふっ! 某が彼の神々しき盾を! これは胸が高まりますなぁっ!」

「そうであろうそうであろう!」


 セーヌ・カイマーも所詮はただの冒険者。善悪の判断もつかない、しょうもない餌に食いつく小物であった。


「そういえば……タイグルの方も予定通り襲っておけ。誰にも現場を見られるなよ!」

「承知!」


 ◆◇◆◇


「きゃ~ん♡ アレキサンダー様かっこいい飲みっぷり! さっすがぁ~♡」

「そ、そう? じゃあもう一杯飲んじゃおっかなぁ~っ!」


 アレキサンダーは酔っていた。

 ドルギマス配下の娼婦に声を掛けられ、調子よくおだてられ……既にベロンベロンだった。


「ね~ぇ、アレクさまぁ♡ 大会で見せたあの盾、見たいなぁ~♡」

 チョロいと踏んだ娼婦は一気に勝負をかける。


「え? 別にいいよ~」

 そう言って盾を出すアレク。

 心なしか盾も呆れてるようだ。


「わぁっ! かっこいい!」

「でしょー! 普段は核の状態になってて、呼びかけたら形状を変えて……あ、核ってのはこの俺の周りを浮いてる丸い――」

 自慢の武器の説明を早口に語るアレク。

 しかし悲しいかな、娼婦はまったく理解できていないし、興味もない。


「これ、触っても――アバババババババッ!」

「あっ」

 返事を待たず、盾に触れようとした娼婦。しかし触れた瞬間、電撃が走ったかのような衝撃が娼婦を襲った。


「……あっちゃー、ダメだよ勝手に触ったら。エリーと似たようなことしても、可愛くないんだからね!」

 誰だよエリーって。

 そう思いながら娼婦の意識は闇に落ちて行った。


「あ~あ、寝ちゃった。『小回復』! おやっさん、勘定はこの子にツケといてね! 回復代ってことで!」

「あいよっ! 毎度ありっ!」

 アレクが大量に飲んだ酒、その代金はこの娼婦の雇い主であるドルギマスが払う事となった。


「さて、エリーの事考えたら会いたくなっちゃったな! 寝てるかな? 寝てるよね! 『転移』!」




 この夜一番の被害者は誰であろうか。


 闇討ちされたタイグルか。

 盾に勝手に触れて気絶した娼婦か。

 企み事が上手く行かないどころか、何故か酒代を払うことになったドルギマスか。


 それとも――。


「やーですわぁっ! アレクくちゃいですのー! つんつんしないでぇーっ! ですのっ!」

 気持ちよく寝ていたところ、酔っ払いに起こされてしまったどこぞのご令嬢、かもしれない。

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