第106話 『シュバルツ・エンデ』

 リザ姐とタイグルのおかげでどうにか盛り返した闘技大会。

 彼女らは今頃どこかの宿で第2ラウンドを繰り広げているところだろう。


 その後も大小あれど、懸命に戦う冒険者たちの姿が見られた。

 そしていよいよ、俺の出番である。


「こうも露骨な対戦の組み合わせだとなー」

「アレきゅん! わ~たし、本気でいくか~らね!」


 そう、俺の対戦相手はカオルコ。ランキング2位と3位の激突である。


 ランクBだけど未知数の俺、それと優勝候補でもあるカオルコをまずはぶつける。

 そして次の対戦相手は恐らく息のかかった実力者……。


 ドルギマスの考えが露骨すぎて、ねぇ~……。


「さぁさぁ! 熱くなってきた闘技大会初日もいよいよ最後の対戦となりました! まずはランキング第3位! この方も優勝候補、実力は実質2位か!? なんとソロでSランクまで昇りつめた女傑! 狙った獲物は逃がさない! 『百発百中』のカオルコーっ!」


 カオルコの紹介に会場も沸き立っている様子。

 集中してるからあまり声が聞こえないけども。


「続いての選手は……ランキング2位! しかしランクB! 疑惑だらけの今大会! 見せて見ろお前の底意地ぃっ! アレキサンダー!」

「きゃー! アレクー、頑張ってですのーっ!」

「坊ちゃま! 頑張ってー!」

「アレクちゃま! 勝ったらご褒美あげるからねぇ~!」

「ま、負けるなんてないわよね……? ア、アレクー! 雰囲気に飲まれちゃだめよーっ!」

 おぉ! 我が愛しの嫁たちの声援が聞こえるぞ!


 これで我が負ける要素なし!


「時にカオルコや」

「な、何よ! もう戦いは始ま~るんだよっ!? 今は敵同士な~んだからっ!」

「先手は譲る……思いっきり派手なの頼むぞ!」

「……舐めてるって訳じゃ~なさそうね! いいわっ!」


「みなさん聞こえたでしょうか! アレキサンダー選手の余裕に溢れた言葉を! 開幕から瞬き禁止だぁーっ! 両者見合って……ファイっ!」




「マナよ、命の源よ! わた~しのお願いを聞いて! 炎と水、荒れ狂う力、内に秘め、幾筋もの光線となって……」

 長い長い! こんなん実戦で使えないだろう!

 しかし長い詠唱に比例し、魔力も相当込められている! これは極級か!?


「超級二重魔法! 『天駆螺旋炎氷龍波』!」

 おぉ、極級ではないが超級のダブルキャスト! 技名が日本好きのそれっぽい!


「何と超級の二重詠唱魔法! 炎と氷のドラゴンを模した高密度の魔力! 大丈夫かアレキサンダー選手ーっ!」

 司会の姉ちゃんの言葉とともに、2体の龍が俺に襲い掛かってくる!


 俺は空中に『レビテーション』をして――。


「あぁっと! 飛んだアレキサンダー選手を龍が追うっ! さすが『百発百中』! ってゆか飛ぶのもすごくない!?」

「無駄~ね! アレきゅん! ジ・エンドだ~よ!!!」


 そして2匹の龍がその咢を大きく開け――!


「来いっ! ――っ!」




「こ、これは一体……? カオルコ選手の龍がアレキサンダー選手に激突! しかしその瞬間……アレキサンダー選手が何かを叫び……あっ! ようやく見えてきました!」

 巻きあがった砂埃が晴れ、そこに現れたのは……。


「な、なんという……アレキサンダー選手は無事です、傷1つありません……そして、その手には――」


 ◆◇◆◇


「核になる物を寄越せ、小僧」


 先日、改めて武器の作成を依頼したときにへパイトスに言われたことを思い返す。


「核?」

「そうじゃ。当然強い力を持った物じゃ。できれば小僧と馴染みのある物がいい」

「そう言われてもなぁーあまり物に執着してこなかったからなぁー……」


 しかしその時。『収納』にしまってあるはずの、ヘルンの核が呼んでいる気がしたので取り出してみた。


「……? ラ・ヘル……いや、ヘルン?」

「……ほう。強い魔力だ。繋がりは未だ薄いが……意思? 残留思念か? 非情に希薄だが……小僧の力になりたい、そう言っているようだ」

「じゃあ、これで!」

「即答て……まぁいいじゃろう。それと……名前を考えとけよ」

「名前?」

「そうじゃ。名前を付けることで物にも魂が、新たな魂が宿り、持ち主との繋がりを強くしてくれる」

「……ん~、どうしよっかなぁ……」

「この核と縁の深いものにちなんだ名前だと尚良いぞ。ま、武器ができるまでに考えておけ!」


 ◆◇◆◇


「なんて、禍々しくも……神々しい……ご覧ください! アレキサンダー選手を守る大盾を! その神々しさを!」


「かつて命果てるまで主君を守り抜いた守護者! 『シュバルツ・エンデ』!」


 司会の姉ちゃんのリクエストに答え、会場に見せびらかす。

 神に作らせた本物の神器だぜー! どうだ羨ましいだろー!




 ヘルンが残した黒と白が混ざった核。そのうちの黒の部分を大盾にして貰った。


 盾とくれば、付ける名前は決まったようなもの。

 強大な魔法にも怯まず、守るべきものの前に立ちはだかった彼の戦士。


 盾も気に入ってくれたようで、何となく繋がった気がする。




「カオルコ選手の超級二重詠唱魔法も素晴らしかったですが……アレキサンダー選手の『シュバルツ・エンデ』! ビクともしていません!」

「……ちょっとアレきゅん! わ~たし、完全に噛ませ犬じゃ~ないっ!」

 はっはっはーっ! すまないな!


「うむ。さぁ、存分に噛みつくが良い!」

「言ったなぁ~! マナよマナよマナよ! 炎と氷! た~くさん!」


 カオルコが無数の炎と氷の初級魔法を展開し、俺に投げつける!


「はっはっは~! 無駄よ、無駄無駄っ!」

 しかし俺の盾、そこから展開される魔力障壁に全て阻まれる。


 どうやらこの盾は『結界』などの効果を高めてくれるようだ。

 素晴らしい!


「ぐぬぬぬ~!」

「ふははははっ! どうした! もう終わりかっ!?」

 やがて魔力も尽きたか、カオルコがへたり込む。


「『百発百中』、当たっても効果がなければ意味はなし!」

「……悔しいけど、わ~たしの負けね……最初のを防がれた時点で勝ち目、ないないだよ~」

 まぁ、これだと可哀そうだから後でアドバイスをあげようじゃないか!


「勝者! アレキサンダー選手! 初日最終戦はランクBがランクSに勝つという、番狂わせとなりましたっ!!!」

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