第105話 思ったよりぷにぷにしている


「続いて第10試合! いい加減まともに戦って欲しいところです!」

 それな。


「すぅ~……すぅ~……」

 エリーも飽きて寝ちゃってる。

 ほっぺたをつんつんしても起きない。


 ちなみに、他の3人はとっくにハンダートに行ってる。

 俺の対戦が近づいたらもう一度来てくれだって。




「1人目の選手! リザ選手! 彼女はつい先日まで亜人であることを隠し活動していたドラゴニュートさんです! 凛々しくてかっこいい!」

 司会さんや、もろに感情がはいってるぞい。


「続いて2人目! 同じく姿を変えていたランクA冒険者! タイグル選手! 何かこっちのブロック亜人さん多くないですか!?」

「こっちのブロックは、亜人派同士ぶつかり合えってか?」

「そのようですね」

 はー。本当に腹立たしいな。法に触れないであいつらを懲らしめる方法はないものか……。


「さぁさぁ! 両者見合って……ファィッ!」


 その瞬間! 今までのクソみたいな空気を吹き飛ばす衝撃が会場を襲う!


「ななななぁっ!? うひゃーっ!」


 開幕と同時に勢いよく駆け出した両者! ぶつかる拳と拳! 否! 気合と気合!


「ぐぉぉおーーーんっ!!! なかなかやるねぇっ! あんたっ!」

「がぁあああーーーっ!!! そっちもなっ! 糞見てぇな奴らばかりだと思ったが……これなら楽しめそうだぜェッ!!!」


 おぉっ! フラストレーションが溜まっていたのは俺だけじゃないみたいだ!

 いいぞ! もっと熱くなれよっ!!!


「ならもっと熱くさせてやるよっ! 『豪炎』!」

 なんか同じこと言ってるリザ姐さんが炎のブレス!


「当たるかよっ! マナよ! 堅くなれ! 『金剛』! 」

 おぉっ! ブレスを回避して地魔法で身体を堅くした上での突進!


「くらえっ!」

「返り討ちだよっ!」


 衝突する拳と拳!

 再び会場を震わす衝撃破を巻き起こす!


「ちっ!」

「へっ! どうだいてぇだろっ!」

 どうやら『金剛』の分タイグルが押し勝ったようだ。

 中級ではあるが、詠唱もかなり省略している。かなりの実戦をこなしてきたのだろう。


 両者ともいったん退き、睨み合う。


「……何という……これぞ、私が求めていたもの……! みなさん! これです! これが真の戦い! 真の冒険者! 敵を前に尻尾巻いて逃げだした臆病者ども! 見ているかっ! 巻く尻尾すらない糞雑魚チキンどもめっ!」


「ブラボー! ブラーボー!」

 はっ!? しまったつい大声で叫んでしまった!

 しかし司会の姉ちゃんの言う通りだぜ!


「……うぉぉぉおおお! 2人ともいいぞーっ!」

「かっこいい!」

「司会の姉ちゃんの言う通りだーっ!」

 会場も大盛り上がりだ!


「ひゅーっ! 姉ちゃんも言うねぇっ!」

「おいタイグルとやら! よそ見しててもいいのか!?」

 言いながらリザ姐がタイグルに飛びかかる!


「――っぶね! 問題ねぇよっ!」

 タイグルも拳で応戦!


 三度ぶつかり合う拳! 不意を付いた分今度はタイグルが押され気味だ!

 しかもリザ姐には――っ!


「『豪炎』!」

「ぐぅぅっ!?」

 出たっ! ブレス攻撃!


「あーっと! 炎に焼かれるタイグル選手! 大丈夫なんでしょうか!?」

「ぐぅおん!」

「がはっ!?」

 しかしタイグルが炎から飛び出し、リザ姐の顔面を捉える!


「いやー! リザ姐っ!?」

 俺と同じような悲鳴がそこかしこで上がる。


「……くっくっ」

「……何笑ってやがる」

 顔面を強かに殴られ、大きく飛ばされたリザ姐。


「いやさ、あんたみたいな強い男に会ったのは久しぶりでね……こんなに強く殴られたのもねっ! 『炎渦』」

「うおっ!?」

 リザ姐がそう言うと同時に、再びブレスを吐く。

 今度は敵に直接向かうのではなく、闘技場をぐるっと囲むように。


「おおっと! これは闘技場が火の渦に! しかし安心してください! 私は『結界』などの各種魔道具に守られています!」

 そりゃよかった。


「ぐぉぉっ! あっちぃっ!?」

「はっ! どうだ! 私の炎は! 骨身に染みるだろうっ!」

 凄いな! ブレス、自由自在じゃないか! 無詠唱の魔法みたいにノータイムだし!


「――っ! いいぞ、そうこなくっちゃなぁっ! マナよ! 大地の力よ! 我の願いを聞き入れ、魂と身体を堅くしてくれ! 『金剛・改』!」

「くっ!?」

 タイグルが上級の硬化魔法でリザ姐に突っ込む!

 逃げてリザ姐っ!


「あーっと! リザ選手頭を庇い、ガードの構え! その上からタイグル選手のラッシュラーッシュ!」

「くらえっ!」

「ぐぅっ!?」

 どうして!? どうして逃げないのリザ姐!


「うらぁっ!」

「ぐはっ!」

 ついにはリザ姐が吹っ飛ばされてしまった。


「いっつぅ……容赦ないねぇ……あたいの、負けだよ」

「たりめぇだ! いい女には本気で行くのがポリシーだからよっ!」

 いや本気で殴りに行くのはどうかと思う。


「それに……あの状況で飛ばれてたら、負けたのは俺だ。そうだろう?」

「ふん、飛べることに気付いてたのかい。だけど、その気はなかったよ」

「あん? 何でだよ」

「いい男から逃げるなんて、女が廃るじゃないかい」


 ……何だこれ。


「ひゃーっ! いろんな意味で熱い戦いもこれで終了……いえ、むしろ始まりの予感! ともかく、勝者はタイグル選手ーっ!!!」

「「「うぉぉぉおおおーっ!」」」


 会場も大歓声、盛り上がったようで良かったですなぁ!

 

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