第104話 ドルギマスの暗躍

「まいった。降参だ」


 相撲型冒険者のリッキーがそう言った瞬間、会場中が静まり返った。


「……え? は? い、今なんて言いました……?」

 司会の姉ちゃんも困惑中。


「聞こえなかったのか亜人共の犬め。俺は棄権する」

「……」

 会場には聞こえない、司会の姉ちゃんに向けた声。

 しかし身体強化を施した俺には聞こえていた。


「……リッキー選手の危険により……勝者セーヌ・カイマー選手です!」

 その言葉に、会場中が我に返ったかのように騒ぎ出す。


「おいリッキーどういうことだよ!?」

「大穴狙いでお前に賭けてたんだぞ!」


「すまない! 頑張ってここまで来たのはいいが……カイマー殿の気迫に負けてしまった!」

 にこやかに会場に弁明するリッキー。


 なるほど……そう言う事、か。


「おいセイス」

「えぇ、これがドルギマスの企みでしょう。息のかかった者とカイマーとを対戦させ、何かと理由を付けて戦わず、そのまま決勝まで運ぶつもりでしょう」

 対戦相手の操作。恐らくセイスが言うようにセーヌは碌に戦うことはないだろう。


「こうなると、反対側にいる俺の方は逆にカイマー以外の強者が来そうだな!」

「……どうでしょう? 2位とは言え、主はBランクですから……」

 あ、はい、そうでしたね。




「さぁ、気を取り直して! 続いては元ランクCの冒険者、ヒッター・ムッキィ選手です! 彼女はこの期間中にランクCとBの依頼に何度も挑戦! 結果、32位ですが晴れて挑戦権を獲得しました!」

「がが、がんばりますっ!」

 おぉ、何とも愛くるしいリスみたいな……いや、本当にリスの獣人ちゃんだ!


「そして対戦相手は……Aランク冒険者バダム・ボンサー!」

 先程のリッキー同様、こちらも体格がいい。小柄なリスちゃんと比べると対格差だけで可哀そうだ。


「おっす! よろしくお頼み申す!」

「……ぴえ~ん」

 はわわわ……守ってあげてなきゃ!

 きっと会場中の男はそう思っているに違いない。


「それでは……ファイッ!」


「こなくそー! 頑張るもん!」

「おーっと! さっそくヒッター選手が距離を取る! バダム選手は静観の構え! ランク差と対格差がその余裕を生んでいるのかぁーっ!?」

 お、今度は開幕まいったは無い模様!

 会場もホッと一息。


「マナよ、私のお願いを聞いて! 風の力、幾重もの刃となって彼の者の元へと向かい、敵を切り刻め! 『ウインド・ダンス』」

「おーっと! これは風の中級魔法!」

 4本ほどの風の刃が敵に向かって飛んでった。


「……ふんっ!」

「何とっ! 纏っている魔力だけで『ウインド・ダンス』を打ち破りましたぁー! さすがはAランク! やはり実力差と体格差は覆せないのかぁーっ!」

 おぉ、『結界』も張らずに無効化するとは、やるじゃないか!

 体格差は関係ないけど。

 

「さぁ! ヒッター選手はここからどうするのかーっ!?

「ぐぬぬぬぅ~! かくなる上はーっ!」

「――まいった」


 ちょっ! 何でやっ!


「えっ? えー……」

「俺の降参だ! このヒッターという者、なかなか見どころがあるじゃないか! よって偉大な冒険者であるカイマー殿と対戦するという、またとない機会を譲りたいと思う!」

 う~ん、言ってることはいい感じっぽいけども……すっげぇモヤっとする。


「え? え? 私、勝っちゃったんですぅ?」

「……そ、そういうことなら……勝者、ヒッター選手!」

 司会の姉ちゃんがそうコールし、対戦は終わった。


「……これもドルギマスの指示か?」

「恐らく、そうでしょうね。ヒッター選手は実力的に問題にならないと判断し、敢えてここで棄権したのでしょう。バダムがカイマー戦で棄権するよりは自然、と言うところでしょうか」

 さすが解説のセイスさんかっけー。


 ◆◇◆◇


「ふわぁ~……たいくつですわぁ~……」

 エリーの呟きもその通り、ドルギマスの陰謀が正しく機能しているようで、どの試合も低ランク冒険者が駒を進めるか、開幕で降参するかのどちらか。

 会場もかなり白けたものとなってしまった。


「さて、いくつか取れる手段があるが聞きたい? 聞きたいよね!」

 せっかく俺がこそこそと頑張ってきた大会をめちゃくちゃにしやがって! 許さねぇっ!


「まず次元門を開いて魔物を大量に出現させる、次に降参した冒険者を血祭りにあげる、次にドルギマスを八つ裂きにする、次に――」

「全てアレク様が犯罪者となってしまいますのでおやめください。しかし……確かに何かしらの手段を講じなければですね」

 頼むぞセイスさん! あの糞豚汚物どもをなんとかしてくれぃ!




「さぁ! 続いての対戦です! 先程までの対戦カードはセーヌ・カイマー選手擁するブロック、ここからはもう片方の決勝出場者が決まっていきます! 恐らく対戦も盛り上がっていくでしょう!」

 司会の姉ちゃんも何となく察してる様子。


「まず1人目の出場者! 犬系の獣人! ランクはBだがその実力は未だ未知数! ウルブルス選手です! そして2人目も同じく獣人! ランクB! すばしっこさと魔性の瞳がチャームポイント! ミィ選手!」

「うぉぉぉ! ミィちゃぁーん!」

「頑張れー! ミィちゃーん!」

「「「ミィちゃん! ミィちゃん! ミィちゃん!」」」


 うおぉぉ! ミィちゃん! 圧倒的人気のミィちゃん! 頑張れミィちゃん!


「なんとこのミィ選手! 指名依頼の多さでランキング8位での出場となったようです! この声援もうなずけますねっ!」

「頑張るにゃん♪ 応援、よろしくにゃん♪」


 ずっきゅ~~~ん♠


 会場中の男どもが前かがみになったのを感じた。もちろん、俺も。


「ちっ、うざっ……さぁ! 両者見合って……ファィッ!」

「す、すまない……降参だっ!」

 うん、これはしょうがない。

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