第90話 塩漬け依頼

「確かに、SSランクの魔石の納品を確認しました」


 セイスである。

 可愛い受付嬢さんではないのが残念なところ。


「……ちなみに、1つおいくらで売れるの?」

「オークションですので確かなことは言えませんが、目標は1つあたり金貨100以上です」


 100枚。質素な生活を心がければ、100人が1年間暮らせる。

 それが10個あるから……。


「何に使うかくらい教えてね」

「もちろんですよ」

 自分には一切入ってこなそうなところが悲しい。


 ちなみに、以前からSSダンジョンには何回か行っているが、その時の物は全て指輪だったり魔道具だったりと姿を変えている。

 そんなものを十数個も付けているエリー。ちょっと怖くなってきたな。


「SSランクの魔石って、何に使うんだろうね」

「高ランクの物は大都市の防御用魔法陣の維持に使われるそうですが、SS魔石は今までほとんど出回っておりませんので、収集癖のあるお金持ちの方が買ってくれるかと」

 なるほど、とにかく現金が欲しいってことなのね。




「まーこの件はお前に任せるよ。魔石集めが終わったけど、次はどうする?」

「それでしたら――」


 ◆◇◆◇


「へぇ~、SSランク魔物って結構いるんだなぁ~」


 セイスから言われた次のお題、それは不可能とされている魔物の討伐である。


 これらの魔物はSランク以上、SSランクの依頼として長年成功者が現れずに放置されてきたものだ。

 放っておいても問題ないことから、今では誰にも見向きもされずにいつしか塩漬け依頼と揶揄されるようになったんだとか。


 先日セイスが言っていた、俺のトーナメント出場に関する目星とはこれのことらしい。

 つまり、SSランク依頼をクリアして実質無条件で参加資格を得よう作戦ってこと!




 それで今俺はその塩漬け依頼、主に討伐依頼書を見ている訳だが……。

「ふむふむ」


『狡猾なる捕食者、アトラク・ナクア。暗い谷底に巣を張り、獲物が通りかかるのを待ち伏せる。彼の吐き出す糸は至高の素材と言われているが、採取できた者はいない』

 お、これクネクネのことだ! ぷっ! あいつが狡猾なる捕食者って! ぷっ!


『生物の頂点、エンシェントドラゴン。高い山を転々としている。強力なブレスや魔法、高い知能を持ち人間の言葉も離せる。基本的には寝ており、近づかなければ危険はない』

 ……お? 何やら既視感を持ったぞ?


『無生物の頂点、エルダーリッチ。個体名ラ・ヘル。高い山々に囲まれた、昼でも日が差さない廃村に数百年前から巣食っている不死者の王の突然変異体。村に近付かなければ危険はない』

 おー、これなんかいいかも。


 他にも、『世界樹の守護者 カラドリウス』、『最悪の災害 ボルケーノスライム』、『正体不明 アンノウン』などなど、結構いるな。

 個体名がついているのは、同種の突然変異体、所謂ネームドモンスターらしい。

 ところで、守護者って倒していいの?


 とりあえずサラッと見た中ではこの『エルダーリッチ』が無難な気がする。

 アンデッドみたいなのの浄化は以前経験しましたし!


 と言うことで、こいつに決定!


 ◆◇◆◇


「この先、半日ほど歩いた先にある廃村、そこに『ラ・ヘル』がいます」


 高速飛行により、最寄りの町の冒険者ギルドにて受付する。

 ここで受付しないと依頼を受けたことにならないらしい。達成の報告もここだけなんだとか。


「一応、エルダーリッチの特徴を教えて貰えます?」

 情報収集大事!


「基本的には種族全体が魔法に優れた存在ですが、『ラ・ヘル』の場合は死霊術の効果が高く、何百もの死霊を強化して操っています」

「なるほど。つまりスケルトンやレイス等の大群と敵対することになる、と?」

「そうですね。それと、エルダーリッチは胸にあるコアが弱点と言われています。恐らく『ラ・ヘル』もそうではないかと思われます」

「ふむふむ、お胸ね」

 基本方針は『ド』の時と同じように、まずは周囲の雑魚を一掃してから弱点を狙っていく感じで言いだろう。


「今回は新ギルドマスターからの推薦と言うことで特別に受注致しますが、『ラ・ヘル』は非常に危険です。どうか、お気をつけてください」

「はーい、ありがとね」

 さて、行きますか!


「それと、依頼達成できたかどうかに関わらず、必ず当ギルドに直接ご報告をお願いします」

「? わかったよ」

 受注の件もそうだけど、やけにここでのやり取りに拘るな。何か理由でもあんのかしら。




「どうか、『ラ・ヘル』さんに安らかな眠りを……」

 最後にぼそっと聞こえた受付嬢の呟きに、何やらめんどくささを感じるのであった。

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