第89話 魔力譲渡

「いやいやいけるって! お前魔法の才能あるじゃん!」

「えっへん! じゃなっくて! 実は私、初級魔法しか使えないんですーっ!」


 ……。


「……え?」

「……あの時、4つの属性を同時に使えたのはいいんですけど……中級規模の魔法は使えなかったんですぅ……」


 火、水、風、地。それを同時展開していたのには驚いたが……。

 確かにあの時見たのは、いわば魔法として放つ直前の属性が付与されていたエネルギー塊。


「え、じゃあ……弱っちい魔法をちまちま打つだけ……?」

 ご丁寧に4属性揃えて。こいつ、どこまでウザさ特化なの……?


「はぃ~……加えて、私の魔力量も少ないみたいで……数発しか打てませんでした……」

「あー、うん。それは知ってるけど」

 だからこそあの指輪を思いついたんだけれども。


 何か、しょぼくれてるこいつ。おやつを貰えなかった小型犬みたいで可愛――おっと危ない。こいつが可愛いってことはありえない!


「んー。じゃあさ、試したいことがあるから適当に魔法を打ってみてよ!」

「……はぇ?」

「はよやれっ!」

「はっはいーっ! えいえいえーい! とっりゃーっ!」


 おぉ、あれは火属性初級魔法『ファイヤーボール』!

 そしてあれは水属性初級魔法『ウォータ』!

 お次のあれは風属性初級魔法『ウインド』!

 最後のあれは地属性初級魔法『マッドボール』!


「ぜぇ……ぜぇ……ど、どうですかーっ! 超絶美少女の超絶魔法は……ぜぇ……はぁ……」

 ……4発で終わり? 初級4発って……俺の生後3日より少ないんだが……?


「ぐもぉ?」

 推定伝説級のスーパーサウルスさんも、初級4発程度じゃ全く気にもしていない。

 ま、まぁ気を取り直して……!

 

「うむむむ……はぁっ! 『魔力譲渡』!」

「ふぇ? ぁっ……ぁああ~んっ! アレク様がっ! 入ってくるぅーーーっ!!!」

 どうしてこいつは普通でいられないのか。




 今回、こいつの話を聞いて思いついたのがこの『魔力譲渡』。

 文字通り、俺の魔力をこいつに譲渡して使えるようにイメージしてみたんだが、無事に成功したようだ!


「こっ! これならイケます! イキますっ! できちゃいますぅーーーっ! とりゃとりゃとりゃぁーっ!」

「おぉっ! 凄いじゃないか、4発どころの騒ぎじゃないぞ!」

 先程の自己最高の4発はとっくに超え、魔力を渡すそばから魔法を投げつけている!

 同時展開も8……いやもっとか? かなりの速さで魔法を展開しては放っている!


 いくら初級と言えど、数は暴力、敵も流石にうっとおしいだろう!


「ぐもももも……オォッ!?」

 何かうとおしいなぁ~……って顔から急に危機感を持つスーパーサウルス。


「うりゃとりゃそりゃえいえいおーっ!」

「……あー。あれ、4属性でも起こるんだ……」


 スーパーサウルスの顔目掛けて何度も放たれる4つの初級魔法。

 その数が100に届くかといった頃、それらがまとまりだし猛烈なエネルギーを生み出しつつあった。


 それは先日エリーが全部の魔道具を使ったことで引き起った、言ってみれば魔素の爆発。

 それよりも規模も威力も小さそうだが、それでもとんでもないエネルギーを感じる。どのくらいかと言うと――。


「ぐもっ! ぐもぉっ!」

 スーパーさんが泣いて許しを請うくらい。


「えいえいえーい! うっりゃーっ!」

 こいつは全く気が付いていない。


 ……俺だけ結界張っておこう。




 ――ついに膨大なエネルギーが臨界を突破、爆音を轟かせながら猛烈な衝撃を撒き散らす!




「ぐも――っ!」

「わぁー」

「ぺぎゃっ!」


 そしてスーパーさんは付け根からその長い首を綺麗に消失させ、聖奴隷は壁際まで吹っ飛んだ。


「よし、今の技は『元素爆発・四重奏』と名付けよう!」

 おっしゃれ~!


「……今は技の名前なんかより、『大丈夫か俺のマイスイートスレイブ! 愛してるぞ!』って駆けつけるところでは?」

 思ったより無事そうで残念。何だよ、俺のマイスイートスレイブって。うざっ。




 さて、無事に討伐できたようなので本来の目的である魔石を確認!


「はぇ~、これがSS魔石ですかぁ~! 前の手が6本のやつのより大きいですねぇ~!」

「うむ。これを残り5個、つまりさっきのを後5回やるのだ!」

 わかる、わかるぞ! めんどくさいだろう! しかし俺がやると最早単純作業と化してしまうのでもっとやる気になれない!


「それはいいんですけど~、魔法楽しいですし……ちなみに、私へのご褒美は……?」

「? お前のものは俺のものだろ?」

「ですよね~……」

 あたり前田の!


「ち、ちなみに……こちらの宝箱の中身は~……?」

「? エリーへのお土産だろ?」

「……ぐすん」


 お預け食らったうえに何も貰えなかった犬のような表情。

 安心しろ、後でビーフジャーキーやるから!


 ◆◇◆◇


 その後、何とかセイスに言われたSS魔石を10個確保。

 お腹が減ったので最高級のビーフステーキを食べに行こうと思います。


 ……その程度で目をキラキラさせて喜んでいる姿はまさにチワワ!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る