第87.5話 幕間 セイス
――ギルドマスター選挙2日前。
「私の横にいるこのセイスさんの助力により、今回の選挙では必ず勝てるはずです!」
ここは南区にある冒険者ギルド、その近くにある集会場。
南区は冒険者の底辺、獣人やエルフなどの亜人の活動も認められていた。
そのためこの広場には現在、ランクを問わず多くの亜人が集まっていた。
目的は、ギルドマスター選挙立候補者であるスフォークによる説明を聞くためである。
「しかし! 本当の戦いは選挙の後にあります! 人々の目は簡単には変わらない。まだまだ辛く苦しい思いをするでしょう」
「「「……」」」
固唾を飲んで傾聴する多くの亜人達。
「しかし、今がチャンスなんです! これからの亜人の評価は、あなた達に懸かっている! もちろん有権者だけではありません。冒険者活動をするあなた達一人一人が主役です! 信頼を勝ち取るという強い気持ちを、今までの悔しさを忘れずにが頑張って頂きたい! そしてこのことを、今ここにはいない大陸中の同士に伝えて欲しい!」
「いよいよ……俺たちも、平等に仕事ができるのかな」
「これで、報酬を減らされることも無くなるの?」
「もうドブの掃除ばっかりはいやだよ!」
今まで受けて来た不遇の日々。
これを終わらせることができるのであれば、彼らは何だってやるだろう。
この機会を与えてくれたスフォーク……そして、彼の隣にいるセイスに注目が集まる。
そして、セイスはと言うと――。
「(できれば、我が主アレク様にもこの場にいて欲しかったのですが……仕方ありません。来なかったことを後悔させてあげましょう)」
何やら企んでいた。
「では、セイスさんからもご説明をお願いします!」
「セイスと申します。私は、我が主アレキサンダー様の命によりこの場に、いえスフォークさんにお力添えをしております。彼はヒトでありながら、亜人の境遇を案じ、不幸な現状を打破することを望んでいます」
「アレキサンダー……」
「彼が……今回の立役者ってこと?」
「その通りです! 私は彼の指示を実行しているに過ぎません。今回のギルドマスター選挙を勝ち、亜人の権利を掴み取ることこそがアレク様の望みです!」
「おぉ……アレク……いや、アレク様!」
「アレク様! 一目だけでもお会いしたい!」
「我が主は自身が表に出ることを今はまだ良しとしていません。しかし、皆様には覚えておいて欲しい。我々亜人を想い、そして世界を変えていく男、アレク様を!」
「アレク様! この恩は絶対忘れないぜっ!」
「アレク様! アレク様!」
「いつか必ず……お力になるんだ!」
「(ふぅ。これでいいでしょう。しかし、まだまだ足りない!)」
お忘れであろうがこのセイスと言う男、クールな頭脳にホットな心の持ち主である!
つまり――。
「(大恩に報いるため! 我が全力を以て! 主を侮辱したクイードァの愚民どもを見返し、必ずや世界中に主の名声を轟かせるのです!)」
◆◇◆◇
犬系獣人、セイスは齢11にして天命を知った。
かつて、幼きメイディが同じ孤児院の子どもにいじめられていた、あの日――。
『返してっ! わたしのお人形!』
『うるせぇ! 犬っころのくせに人間様に逆らうんじゃねぇっ!』
悲痛な声に、窓の外を見るセイス少年。
「(かわいそうに……けど、僕には……何もできない)」
日常的に起こっている獣人へのいじめ。
あの少女を庇えば今度は自分も被害に遭う。特に力も強くない自分にはどうすることもできない。そう思っていた――。
『おい』
――彼に逢うまでは。
『ここにいる獣人の子全員、俺が引きとる!』
『獣人だからって俺は差別しない!』
『適切な訓練を受けさせて立派な人材に育てる! だからお前ら! 俺について来てくれ!』
身体が、魂が震えるのを感じた。
ヒトでありながら獣人を差別しない。それどころか、力を……役割を与えてくれる。
「(違う……希望だ。これが、希望なんだ! 彼は僕たちに希望をくれた!)」
親に捨てられ、孤児院ではいじめられ、仲間を庇うこともできず、そしていずれは――。
そんなセイス少年の心に、暗い闇の中に突如差し込んだ眩い光。
「(この光について行けば……いや違う! 僕は、この光のために!)」
◆◇◆◇
「(アレク様。私はあの日、たった1人の幼い子すら助ける力も、勇気もありませんでした)」
そして眼下に広がる大勢の獣人やエルフ、その他の同胞を見つめる。
「(……あなたがくれたこの力、命尽き果てるその時まで!)」
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