第87話 モーリーの演説

「……あー、俺は『質実剛健』のモーリーだ。先日Sランクになった……見知った顔もたくさんいるな」


 モーリーの登場に再び会場が騒めき出す。


「モーリーじゃねぇか! あいつSランクになったのかよ!」

「俺、あいつに何度も助けて貰ったことがあるんだ……」

「私たちも……!」

「おいモーリー! 俺たちはお前にして貰ったこと忘れてねぇぞぉーっ! ありがとなー!」


 目論見通り、会場には彼を慕っていた人間も少なくはないようだ。


「あー、俺もお前らの事忘れたことはねぇよ。まぁ、今日は……まずは俺の話を聞いてくれ」


「おう! さっさと終わらして飲み行こうぜー!」

「ドルギマスに投票すりゃいいのかー?」

 会場は既に選挙のことなどどうでもいいかのように盛り上がっている。


「……俺は、正直選挙にぁ興味ねぇ。この話も最初は断ろうと思っていた。正直2人の候補者の言い分もよくわからん!」

「俺もだぜーっ! ぎゃっはっはー!」

「いいから早く飲み行こうぜー!」

 ……ま、冒険者なんてこんなもんだろう!


「だが……俺にも獣人の友がいて、獣人に世話になったことがある。もちろん、他の種族にもな」


「「「……え?」」」


 思いもよらぬ言葉、これではまるでスフォークに賛同する流れではないか……と。

 会場中がそう感じたのか、モーリーの次の言葉に耳を傾ける。


「知っての通り、亜人には生き辛い世の中だ。冒険者ギルドでも報酬を不当に減らされたり、昇格できないなどの話はしょっちゅう聞く。一介の冒険者である俺にはどうしようもない、どうもできない。そんな悔しい思いと申し訳なさを感じて来た」

「「「……」」」」


 会場にいる人々の表情は様々だ。

 嫌悪感を示す顔、同じく歯がゆい思いをしてきたという顔、そして……決意が込められた顔。


「だが! 聞けばこのスフォークはそれを改善しようとしている! こいつは俺にはできないことを、前代未聞のことに挑戦しようとしている! なら俺はスフォークを応援するぜ!」


 そして同時に変装用魔道具を解除する獣人たち。


「――っ!? おまえ、獣人だったのかよ……」

「……騙しててすまない。だが、こうする他なかったんだ……!」

「この国は……この世界は俺たちには生き辛すぎる……わかってくれ……」

 近しい者たちへと弁明する獣人たち。


「……騙されていてショックな奴もいるだろう。しかし、それは誰のせいだ? 獣人のせいか!?」

「「「……」」」


「違うだろうっ! そうせざるを得ないこの世界のせいだっ! 亜人は悪くねぇっ!!!」

「「「……」」」」


「だから、俺たちが変えてやろうぜ! 難しい話だが! だからこそ挑戦しようじゃねぇか! 俺たちは冒険者だ! 今こそ未知と自由と困難を愛する冒険者魂、みせてやろうぜ!!!」

「「「うぉおおおおおーーー!!!」」」




「では応援演説は終了とさせて頂きます! 誰の応援だったのかはわかりますよね! ミィちゃん、私もあなたとスフォークさんを応援するから!」

 おい司会! 最後まで頑張れよ! 気持ちはわかるけど! あとミィちゃんのこと紹介して!


「最後に、もう一度候補者の方から一言、本当に一言だけお願いします。では……ドルギマスさんからどうぞ」

 あかんあかん、『静寂』と『拘束』を解除しなきゃ……。


 そう、俺はモーリーの邪魔をしそうなやつをこうして止めていたのだ!

 影の功労者とは俺の事!


「――っ! しゃ、しゃべれ……おい、こんな選挙は無効だ!」

「はい、ありがとうございました! 一言ですので! これで終わりです!」

「なぁっ!?」

 ひでぇ。まぁ、聞く価値もないだろうが。


「では、続いてスフォークさん! どうぞ!」

「みなさん、それに『おうまさん』や、『質実剛健』のみなさま、今日は本当に……うぉぉおおお~ん! 私は! 私は! 命も惜しまず頑張っていきます!」

 スフォークもよかったな、長年の苦労が報われそうで。


 ま、これからが本当の勝負だろうから頑張って欲しい。

 ……いや、本当の勝負の舞台に立てたことが奇跡なんだな……。


 その奇跡の立役者となった我々を敬い奉るがよい! は~っはっはっは!


「……ドストレスちゃん……どこに……話が違う……」

 遠くに聞こえる汚物の声。よかった、ドストレスもうまく逃げられてようだ。


 ◆◇◆◇


 投票結果、スフォーク398票、ドルギマス86票! これで晴れてスフォークがギルドマスターだ!


 しかし概ね2割のドギルマス票。これをしかたないとみるか、不穏分子の数と見るか。

 確実にこの2割は獣人を始めとした亜人を毛嫌いしていることだろう。


 まぁ、俺の仕事は終わった! 後は頑張りたまえ!




「なぜあんな演説に……それに、私はヤハに頼んだでしょう!?」

「それは~……アレクちゃまが聞いてると思って~……」

 スフォークへの応援ライブのはずが惚気話披露会となってしまったことを『おうまさん』たちに説教するセイス。


「す、すまん! けど、アラアラに頼まれてさ、相当!」

「よ、良かれと思って候」

「あ、新たなる価値観の創造」

 韻を踏むな、韻を。ライブはとっくに終わってるんだぞ! しっかり謝れ、本当!


 何はともあれ、『おうまさん』も今までお疲れ様!

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