第84話 Sランク冒険者の誕生
「Sランクダンジョンへの挑戦を受け付けました。成功証明はSランクの魔石となりますのでお忘れなく」
「わかっている」
モーリーがリビランスにある冒険者ギルドで受付するのを離れたところで聞いてる俺。
ランクの査定に反映したい場合は、このように受付をしておく必要があるんだってさ。
めんどくさっ!
ちなみに、メイちゃんたちはハンダートのエロフランドで過ごすんだそうな。
なにやらアンジェが張り切っている様子だったのが気になります。
「思ったんだけどさ、ダンジョン周回する必要なくない?」
挑戦の報告だけしといて、どっかでSランクの魔石を用意すればいいんじゃね?
てか、『質実剛健』の奴らは先日のヘカトンさんの件で魔石10個あるし!
「……実はその通りではある。現にAランクの称号を持つお貴族様の何人かはそうしていると聞いたことがある」
「んじゃあ――!」
「しかしだ! 俺はそんな不正まがいのことはしたくない! ちゃんとした実績と実力を以て認められ――」
ちっ、こいつもめんどくせぇ……。
「いいか諸君。時に君らは過大な評価を享受する機会があるだろう! 自分の身の丈には合わないと嘆くこともある! しかし理解しなければならない! 良き評価を受けられると言うのは非常に幸運であるということを! 自分の実力に合わない? ならば、それを目標に! 全力で近づいて行けばよかろうなのだ! いつしか過大な評価に恥じない自分になればいいだけなのだ!」
「……お前に逆らえないということはわかったよ、わかってたよ……」
うむ、良きにはからえ!
「だ、だが! せめて1度だけでもクリアさせてくれ!」
「……まぁ、いいけど」
律儀な奴だ。あ、だからこそこいつに例の件を頼んだんだっけ。
……あれ? でもひょっとして、これが可能ならこいつらを鍛えなくてもよかったんじゃ……いや、やめておこう。
この世に無駄なことなんて1つもないのだからちくしょう!
「じゃあ、あたいらはこの辺で――」
「あ、ちょっと待って『百合』の2人! ここ、A―3以上じゃないと店とか利用できないぞ!」
そう、リビランスの町の北区は効率化と言う名目の元、それ以下の利用を制限している。ギルドも魔道具屋も武器防具の店も。
「えっ!? そうなの!?」
「そうだよ、めんどいだろ? それに、お前らを巻き込んじゃったお詫びもしたいからさ、別の町に行かないか?」
言ってることが完全にナンパ野郎のそれ。
別に他意はありません。百合の間に入るほど野暮ではないのだ!
「……ビアちゃん、何だか怪しいよぉ~……?」
失礼な! レーズンには何もやらんぞ!
「まぁまぁ! アレクが何かしそうだったらメイさんに頼めばいいじゃん!」
俺は呼び捨てでメイちゃんはさん付け。
……うん、獣人差別をしていないと前向きに捉えようじゃないか……。
「う~ん……まぁ、アレクさんだったらいっか!」
おぉ! 絶対に勘違いしそうになる発言頂きました!
女子って無意識にこういうこと言うから怖いよなぁー。
「んじゃ、サクッと行こうか!」
目的はゼンリョー国。そこで適当なSランク相当の何かを買ってやればいいだろう。
そう言えばビアは大盾から小盾に切り替えて間もないから、その辺のいいもんでも買ってやろう。
その後適当に買い物したり飯を食ったりして『ニ輪の百合』とはそのまま別れた。
ついでにリョーゼンでしばらく活動するんだとか。
ここの人達は気のいい奴が多いから、女子2人でも問題は起こりにくいだろう。
その気のいい奴らのせいで、しばらくは『姫以外の女を2人も連れ歩いていた』『貢物をしていた』などの噂が流れていたが……。
お前ら、俺の事を兄貴って慕ってたくせに……。
◆◇◆◇
「『質実剛健』のみなさま、既定数Sランクダンジョンの攻略を確認しました! おめでとうございます、Sランクに昇格です!」
選挙日まで残り2日程。
さすがに1度に魔石を提出するのは、と言うことで1日置きに提出していた『質実剛健』。
結局Sランクダンジョンも1日で攻略できていたみたいで、既定数しっかりクリアしていた。これで彼らも後腐れはないだろう。
「おぉ……流石に感無量だな……」
「あぁ、モーリー! 俺たち、遂にやったんだな!」
「冒険者の憧れ……Sランク!」
「あんたに付いてきてよかったぜっ!」
大号泣の彼ら。まぁ無理もないか、公式には最強と言われているSランク冒険者だもの。
「おまえら……! ありがとなっ!」
わぁームサイ男たちが抱き合ってるー目が腐るー。
「アレ――」
俺に向かって喋り出そうとするモーリーを『静寂』の魔法で黙らせ、視線を入口の方に向ける。
来たよ、来た。噂通り、欲望に塗れた汚い顔とオーラをしてやがる。
どうやらドストレスはの企みはうまくいっていたようで、現在も奴の隣にいる。
誰とも言われなくてもわかる、こいつが現ギルドマスター! 弱者の利益を貪る糞野郎!
「ほっほっほ。この目でSランク冒険者の誕生に立ち会えるとは。何とも運がいい」
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