第85話 ドルギマス

「ほっほっほ。この目でSランク冒険者の誕生に立ち会えるとは。何とも運がいい」

「……あんたは?」

 大丈夫そうなのを確認し、モーリーの『静寂』を解除する。


 奴の出てくるタイミングが良いな、ドストレスが図っていたのか?


「わしは冒険者ギルドの総合ギルドマスターであるドルギマスだ。わしの顔も知らんとはのぅ。ドストレスちゃ~ん、本当にこいつらがいいのかの~ん?」

 うげーっ! 鳥肌立った!

 ドストレスに話しかけるときの猫なで声。これだけでご飯3杯分は吐けそうだ。


「そうですよ、おじ様♡ こちらの、『質実剛健』の方々は後輩冒険者に慕われていてぇ、私も昔お世話になったんですぅ♡」

 おぉ、よくぞその汚物の隣にいて吐かないでいられるなぁ! さすがはドストレス!


「ほぉほぉ~。こいつらを明後日の選挙での後継人に指名すれば、本当にわしのモノになってくれるんじゃろ~の?」

「もっちろん♡ でもおじ様、そんなことここで言っちゃっていいのぉ~?」

「おっとこれは失言。みなのもの、今聞いたことは忘れておくれ。ほ~れ!」

 そう言って銀貨を撒き散らす汚物。


「うっひょーさすがギルマス! 太っ腹だぜぇっ!」

「拾え拾え~!」


 なるほどなるほど。

 こいつは今までもこうやって金で物を言わせて来たのだろう。獣人や弱者から啜り取った金で。


 今金を拾っている冒険者も、大したことなさそうだな。

 ここにはA―3ランク以上しかいないはずなのに。


「さ、話は聞いていたかな『質実剛健』の諸君。わしは明後日に行われる選挙の応援者として君らを指名しようと思う」

「……俺たちでいいのか?」

「かまわんよ。なぁに、相手は薄汚い獣人を手厚く扱えと宣う雑魚じゃ。報酬も弾むし、いい話じゃぞ。わしからのSランク昇格の祝いとでも思うがよいわ」

「……報酬はいらない。だがその話、引き受けよう。勘違いした奴に鉄槌を下すためにな」


 周囲の冒険者の何人かが息を飲んだ。モーリーたちの知り合いか何かか?

 あの汚物の味方をすると聞いてショックを受けたのかも知れん。


「ほっほ、まだまだ青いな。金はいくらあってもいいもんじゃぞ~! このように若い女子も手に入る!」

「やぁ~ん♡ おじ様のえっち♡ こんなところでお尻触らないでぇ~♡」


 ――っ!!!




 ……ダメだ、これ以上は見ていられない。

 そう思い、静かに冒険者ギルドを出て当てもなく歩き回る。


 いくら任務だからって辛いだろうに……ドス、トレス……。


「おや、その様子だとお会いしたようですね」

「……セイス、か。悪いが今は気分が悪い」

 どこからともなくセイスが現れ、声をかけてくる。


「そうでしょうね。しかし、忘れないでください。これは獣人の未来を変える戦いだという事、そしてドストレスは誇りを持ってこの任務にあたっていることを」

「――っ! そうだよ! そうだけどっ! 俺はお前らが――っ!」

「わかっていますよ、我が主よ。そんなあなただからこそ、我々は忠誠を誓う、誇りを持てる。以前クワトも同じようなことを言っていましたね」

「そんなものいら――」

「クワトは今でも時折零します。あの時、アレク様と最後までご一緒できなかった悔しさを」

「――っ!」

 それは……クワトのことが大事だったから……あんなこと、知らない方がいいと思って……。


「アレク様、どうか我々に生きる意味を。主とともに戦える喜びを」

「…………オレ、オマエ、キライ!」


 きめた! きょうはもうくねくねとあそぶ! もふもふする!

 まってろーくねくねー!


「……行ってしまいましたか。この後スフォークによる支援者への説明会があるので出席して欲しかったのですが……」


 最後に何か聞こえたけど、知らん!


 ◆◇◆◇


「キュッ! キュウ?(アレク! どうしたのー?)」

「わぁーい! くねくねはもふもふだぁ!」

 もふもふもふもふ。


「キュッ! キュッ!(もしかして! 今日は一緒に遊ぶのー!?)」

「くねくねのおなかはぷにぷにできもちいいなぁ~!」

 プニプニプニプニ。


「キュッ! キューッ!(やぁーん! アレクのえっちー!)」

「よし、なでなでしてやろう! よーしよしよし」

 よしよしよしよし。


「キュゥ~(はぇ~気持ちいよぉ~)」

「はぁ~いいなぁくねくねはかわいいなぁ~」

 すりすりすりすりすり。


「……キュウ~……(……アレク、大好きぃ~……)」

「んー! くねくねだいすきっ!」


 ……。


 …………。


 ………………。


 よしっ! メンタル、リセットォーッ!!!

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