第83話 モーリー達に望むこと
「くたばれ! この巨人野郎!」
モーリーたちを鍛え始めてから3週間がたった。
まぁ、元々地力のあるやつらではあったんだろうし、本人たちも言っていたが燻っていた思いもあったのだろう。
めきめきと実力を伸ばしている。
モーリーを始め、前衛組の身体強化は実に滑らか。それでいて補助に中級魔法を無詠唱で使いこなせていた。
特に『百合』の前衛担当であるビアは風魔法を適宜使い、敵の攻撃は掠ってもいない。
後衛組も成長した。中級までの無詠唱に加え、密度が違う。その威力は上級にも引けを取らないだろう。
同じく『百合』のレーズンは詠唱に頼る部分はまだあるものの、超級まで使いこなせている。
聞くところによると『百合』は2人とも15歳、『質実剛健』はみんな20代後半とのこと。
やはり魔法の習得は若い方が伸びやすいんだろうか。
「豪炎の爆発よ! 『超級火炎魔法』!(フレア)」
「グオォォ……」
前衛が上手く敵を足止めし、後衛が止めを刺す。
「よっしゃーっ! ヘカトンケイル討伐10体目だぜっ!」
よし、これなら誰もがSランク冒険者を名乗っても問題ないレベルだ。
さぁ、ようやくここまで持ってくることができた。ここいらできちんと事情を説明してやろうと思う。
今までしなかったのは決して面倒くさいからではない!
ヘカトンさんを倒せるようにならなければ、説明しても意味なかっただろうし!
◆◇◆◇
「実は、お前らを鍛えたのにはちゃんと理由がある」
「……ようやく、聞けるのか」
「ここまで長かったな……」
「あたいたちも巻き込まれた理由、ちゃんとあるんだろうね?」
すまん、君らについては完全にオマケである。
「ギルマスの選挙があるのは知ってるか?」
「あぁ。けど、俺らにゃぁ正直関係ねぇと思ってる。俺たちはこれまで通り、できることをやっていくだけだ」
そりゃそうだろうなぁ。
こいつらはそうやって今まで『上級の壁』と言われるオーガに挑戦する後輩に助言を送る、という選択をしてきたんだ。
ギルドが手を差し出そうとしないところに、勝手に手を差し出していく。
自分たちの利益よりも、後輩のために、と。
「……本当に関係ない、か? 他にも苦しんでいる仲間が、後輩がいたとしても?」
「何だ、何が言いたい?」
俺はメイちゃんにアイコンタクトを送る。今日も可愛いね。
「かしこまりました」
そして、獣人の特徴を隠す魔道具を解除する。ジトーっと見つめ返されながら。
「なっ! 嬢ちゃんは獣人だったのかっ!」
驚いている様子だが、そこには侮蔑も嫌悪感も感じられない。
他の面々も同じようだ。
良かった、ここで躓く可能性もゼロではなかったからな。
「姿を変えていたのは悪かった。だが……わかるだろう?」
「あぁ、俺の知り合いにも似たような奴が何人もいる。大変だったな」
「いえ、私は坊ちゃまに大切にされているので何も」
「……そうか」
ふむ。やはり、こいつは……。
「実は、上手く行けば今回の選挙でお前が演説する機会が設けられる」
「……そうか」
おや、思ったほど驚かないな。予想がついたか?
「冒険者にも多くの獣人がいる。運よく姿を変えられるものは変え、できない者は――」
「不当な扱いを受けている、か……」
わかってはいる、わかってはいたが……そんな苦虫を嚙みつぶしたような表情をするモーリー。
「まっ! ここまで言っておいてなんだけど、お前はお前の思うがままを話せばいい!」
セイスには、旧マスターを裏切るように伝えろと言われたが、大丈夫だろう。
こいつ小細工とか苦手そうだし。
「では早速! 総仕上げにして本来の目的であるSランクダンジョン周回をしていきたいと思います! 最低周回数はSランクに昇格するまでです!」
「あぁ……あ?」
「……へ?」
「ちょっ、ちょっと待ってくれ! それって最低でも5回だぞ……?」
大事な話が終わったと感じたのか、他の『質実剛健』メンバーも騒ぎ出す。
「いやだって。それが必要最低条件だもの。いいから、やれ!」
「「「はいっ!」」」
よしよし、いい感じに訓練されたな!
「……ところで、あたいたち『百合』がここにいる理由は……?」
「……ないっ!」
言い訳も思いつかないっ!
「ふぇ~ん! やっぱり男の人こわいよぉ~っ!」
「ごめんよレーズン! あたいが守ってやれなくてっ!」
ガシッと抱き合う2人。やはり、ビアとレーズンは……。
うむ、良きかなっ!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます