第82話 特訓の合間に(アンジェ)
「……ぐすっ……うぅっ!」
俺たちが騒いだり呆然としたりする中、1人変わらず魔法制御の練習をしていたアンジェ。
大粒の涙が、鼻水が垂れるのも気にせず、今も制御に集中している。
しかしその制御は相変わらず甘く、むらがあったり制御から離れて霧消してしまっている。
「ふぐぅっ……うぅ!」
「……」
……こんなに頑張っている彼女に、なんと声を掛けるべきか……。
最初は物のついでとばかりに連れて来て、本人もそんなに乗り気じゃなかった気もするが、まさかここまでやるとは。
「……おい、嬢ちゃん。もうやめたらどうだ? はっきり言って、嬢ちゃんには魔法の才能がない」
おいてめぇ糞モーリー野郎! うちのアンジェが頑張ってんだろうがぁっ!
「――っ! ぞんだごど、ばがっでまずよぉっ! けど、ばだじだっでっ!」
「……」
「ばだじだっで、アレグのやぐにだぢたいんでずぅ! うわぁーーーん!!!」
「――っ! アンジェ!」
慟哭し、走り出してしまうアンジェ。
さすがに1人にはさせておけないと、後を追う。
「はぁ、はぁ……うわぁーーーん!」
「……」
しばらく走って息が切れたのか、うずくまって泣き出すアンジェ。
その肩をそっと抱く。
「……」
「ひっぐ、ひっぐ……」
どうしよう、何を言えば彼女は落ち着く? 納得する?
「……」
「……ぐすっ」
だめだ、何も浮かばない。
「……アレク。私には、魔法の才能がありませんでした……ぐすっ」
「……そう、みたいだね」
「アレクが必要だとっ、私に求めるなら、そう思って頑張ったけれど……ぐすっ」
「……」
い、言えない! 別にそこまで深く考えていた訳じゃないなんて!
……いや、言うか。
「正直、アンジェに魔法は期待していない!」
「…………んへぇ?」
全く思いもよらなかったであろう言葉に呆然とアホの子がするようなお顔をするアンジェ。
そんな顔エリーでも滅多にしないぞ!
「だってそうだろう! その年になるまで碌に魔法が使えなかったんだから!」
「――っ! そんなこと! 詠唱すれば中級くらいなら使えますよっ!」
「ご丁寧に詠唱までして中級って! 言えよ! 最初から言えよ!」
マジで時間の無駄だったじゃないか!
「何も聞かずにいきなり溺れさせたじゃないですか!」
「確かに!」
「うぅ……何で私がこんな目に……せっかく、アレクに恩返しができると思ったのに……」
あら、いじらしいことを考えてるのね。
「まぁ、魔法には期待していないけど……それ以外には期待しているよ」
「……私なんかに、何を期待しているのですか? 魔法も碌に使えない私なんかに」
いかん、完全に折れてる。自信が根元から、ぽっきりと。
「う、うむ。それはだな……それは……!」
……何だろ?
「アンジェさん、私はあなたが羨ましい」
「メイさん? あなたみたいな方が、どうしてですか?」
おぉ、どこからともなくメイさんが! 頼んますメイさん!
「私やエリー様は坊ちゃまとともに戦いに赴きます。時に疲弊し、時に辛い思いをし……それを分かち合うことは確かにできます」
「……えぇ、私にはそれが羨ましいです」
……あまりそう言ったことはなかったような。うん、黙ってますね。
「しかし、それら全てを包み込み、安息を与えることは同時にはできません。『おかえり』と、そう言えるアンジェさんが私には羨ましいのです」
「……『おかえり』、ですか……」
「えぇ。傷つき疲れ果てた坊ちゃまを温かく迎える。これも立派な“力”なのではないでしょうか?」
「アンジェと、その温もりが待つ家、それを思うだけで勇気が湧いてくるよ」
ジトーっと見てくるメイちゃん。何だよ、間違ってないだろ!
「そう、ですか……そうですね! わかりました! 私はアレクが心安らげる居場所を作ります!」
「あぁ、頼む。それと、魔法の訓練もゆっくりでいいからさ、焦らず暇なときにでもやってなよ」
そうします、と言って元の場所に駆けて行くアンジェを見送る。
「1つ、いえ合計で4つ……」
「何でも言う事聞く、だろ! わかってるよ! 助かったよ!」
しかし感じる敗北感! や、実際助かったんだけども。
「……羨ましいのは本当です。私も、どっちの道に進むか迷っていた時期があります」
「一緒に戦うか、居場所を守るか?」
そっか、そんなことを考えていたことがあったんだ。
「ですが、坊ちゃまのことを思うと溢れ出るこの力が、一緒に戦うべきだと言っている気がしまして」
「……ありがとう」
それってポジティブな想いだよね? ストレスとか怒りとかじゃないよね!?
「ふふ。さぁ? どちらでしょう」
「……心を読まないで頂きたい」
またしても感じる敗北感。きっと一生、死んでもメイちゃんには勝てないのでしょうね。
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