第81話 特訓の合間に(複合魔法)


 メイちゃんはモーリーたちへの指導、エリーは宝石類やらを眺めてて、クネクネは端っこでプルプルしている。またもやうんこだろう。

 アラアラは置きヒールの練習をし、アンジェは魔法制御の特訓をしている。




「(しかし……アンジェは魔法の才能がないな!)」

 一向に上達をしないアンジェ。マジで才能がない。

 魔力量は人並みにはあるんだけどなぁ……。


「ううう~……」

 本人もわかっているようで、涙目を浮かべながら悔しがっている。

 

「……アンジェ、今までよく頑張ったね。けど……もう終わりにしようか」

「――っ! 待ってっ! まだ――っ」

「見てください! 見てくださいアレク様っ! ついにっ! ついにっできましたよぉーっ!」

 聖奴隷め、何だよアンジェと会話してたのに……。


 見ると、聖奴隷の周囲に小さな4つの魔法が展開されている。

 まだ『アースランス』などの魔法ではなく、属性が込められたエネルギー状のものではあるが確かに属性魔法である。


 これは凄いっ! 4属性の同時使用! やはりエルフ、案外魔法の才能は聖奴隷が一番あるのかも?


「火、水、風、地。それぞれの属性のエネルギー玉ってところか……本当にすごいなっ!」

「へっへーっ! どうですかアレク様! 私に惚れちゃいました? 惚れ直しちゃいましたーっ!? たはーっ、困っちゃうなぁーっ!」

 ……やっぱりうざっ! こいつも、これがなきゃなぁ……。


「――っ」

「ふふ。素晴らしいですミントさん。あなたも頑張っていましたものね」

「ありがとうございますメイさん! さぁっ! 今日は一緒にアレク様をひぃひぃ言わしてやりましょう! 遂に私も――」

 どういう方法でひぃひぃ言わせるつもりなのか。奴隷による下剋上ならば容赦はせぬぞ!


「それくらい私にもできますわ!」


 突然エリーが対抗心を燃やし出し、眺めていた指輪型魔道具を全て同時に発動する。


「ちょっと待って! それ全部『極大魔法』だから!」

 こんな狭いところで発動したらやばすぎっ!

 焦りながらも、火、水、風、地、光、闇に加え、派生先である氷や雷の『極大魔法』の展開先を結界で閉じ込める。


 そして不意に発動する意識の加速、いや走馬灯!

 なにこれ!? そんなにヤバいの!?


 引き延ばされた時の中で、結界の強度を上げながらその内を良く観察してみる。

 風が火を、火が水を、水が地を、地が風を……そして光と闇が互いに反発して……膨大なエネルギーを生じさせて……。


 各属性の相乗効果? 相克効果か? とにかく『極級』、いやそれ以上のエネルギーが膨張し続けている!

 



 コレ絶対ヤバい奴だ!


「『亜空切断』(ディメンジョン・ブレイク)! ×たくさん!」

 次元を切り裂く魔法で結界ごと隔離するが……ダメだ、これじゃ防げないっ! この存在感はこちらに届く!

 考えろ……考えるんだ……じゃなきゃ多分全てが吹っ飛ぶっ!


「……これしかない、か」


 既に展開された魔法に『転移』は可能か否か。試したこともなかったが、できると確信している。じゃなきゃ死ぬ。


「『次元門』!」

 対象を巻き込むように彼の地に通じる門を展開! 行き先は――。


「すまねぇ、『ド』。まぁ、不滅らしいし大丈夫でしょう!」


 無事に転送が完了したことを確認し、『意識の加速』も解除する。


「……」

「……」

「……」

「……」


 メイちゃんが冷や汗を、エリーが呆然と、アラアラが涙を流し、聖奴隷は気絶している。


「「「「……」」」」


 その他『質実剛健』たちどころか、ヘカトン先生まで動きを止めてこちらを見ている。



「……あ、危なかったなぁっ! だめだぞエリー、こんなことしちゃ!」

「……え、えぇっ! みなさん申し訳ございませんでしたわ! 私としたことがうっかり! ですわ!」


 うっかりでとんでもないことが起こりそうだったんだが……後で改めてエリーには気を付けるように言っておこう。

 ついでに、『ド』の世界がどうなったのか確認しておかなければ……。


「ミ、ミントさんもエリー様も、多属性の魔法使用にはお気を付けください、ね?」

 再起動したメイちゃんが2人に釘を刺す。


 ところで……聖奴隷の名前って、ミントなのか……。

 名前までうざいな。


 昔実家で母親が庭にミントを植えたらものすごく大変になったことを思い出すなぁ……。

 未だどこか呆然としている頭を、そんなどうでもいいことがよぎった。




「……色々と突っ込みたいことはあるが……今のは魔法、か? いろんな属性が見えた気がするが……」

 数十秒後、ようやく動きを取り戻したモーリーがヘカトン先生に殴られながら喋り出す。


「いえ、魔道具ですわ! アレクに貰ったんですの!」

 諸事情でプレゼントした十数個の指輪、それぞれ全てに何かしらの『極大』相当の魔法が込められている。


「……魔道具はな、使用方法とか込める魔力量とかな、物によって違うんだよ……わかるだろう?」

「? えぇ、それはもちろんですわ! だから1つ1つ――」

「それが普通はできねぇって言ってんだよっ! 楽器を弾きながら歌って踊るようなもんだ! 魔法と同じだよ!」

 何だか優雅な例え方してきたぞ。アラアラの時には丁寧に説明していたが、お嬢様然としたエリーに向けた説明なのだろうか。

 って言うか、魔道具もそうなのか。


「そ、そうなんですの……」

「だから……まぁ、人前で使うときはバレねぇように、な。余計な騒ぎになるぜ?」


 他にも色々言いたいことがあるだろうに、結局は他人へのアドバイス。

 こいつ、マジでいいやつだな!



「……ぐすっ」

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