第80話 特訓の合間に(アラアラ)
エリーとの訓練からさらに数日後。
メイちゃんはモーリーたちへの指導、エリーとクネクネはダンジョン探索。
アンジェは後衛組と一緒に魔法制御の特訓をしている。
「アラアラよ、調子はどうだい?」
「アレクちゃま~! おっぱい飲む?」
「飲む」
……。
…………。
………………。
「さて、調子はどうだい?」
「ん~、実はねぇ~……あんまり楽しくないんだぁ」
おっと、さすがに毎日同じ事を繰り返させてしまったか?
「『おうまさん』の時と同じでねぇ~、ブッディも良く怪我してたから~」
あー……ブッディは『苦難こそ成長の糧!』とか言ってワザと攻撃受けるような変態だったからなぁ~。
支援バフも最低限だったようだし。
「ふむ、それはすまないね」
「ううん~、アレクちゃまと一緒にいれるのは嬉しいから~!」
これは嬉しいことを言ってくれる。
けど、だからこそ何かしてあげたいが……そうだ!
「だったらさ、回復のタイミングを計ってみない?」
「タイミング?」
「そ。今まで怪我を確認してから回復魔法を使っていたでしょ? そうじゃなくて攻撃を受けた瞬間に回復するようにしたら、戦いの幅が広がると思う!」
いわゆる置きヒールってやつだ! 幸い、ここでは被検体に困らないからな!
「ん~、難しそうねぇ~。けど、お姉さん頑張ってみるよ~!」
「ああ! 俺も協力するから、頑張ってみよー!」
アラアラはぽわぽわしてるからな、結構難しいだろうけど挑戦してみようじゃないか。
◆◇◆◇
「『上級回復』~! だめ~、早かった~……」
アラアラは回復魔法そのものの強度は高い。確実にブッディのせいだろう。
しかし、やはりと言うか何というか、タイミング的には上手くない。
まぁ、ほとんどの回復職はそうなんだけどね。
だからこそ、差を付けられると踏んだ訳だ!
「『上級回復』~。あー、今度は遅かったぁ……」
一応防御系の支援魔法も使用しているため、エリーのときのような惨状にはなっていない。
モーリーたちは最早心を無にして敵に向かっているようだ。
多少ダメージを受けたからと言って攻撃や防御、仲間のフォローを絶やすことはない。
「む~、やっぱり難しいよぉ~!」
むむむ、どうしたらいいか……こればっかりは経験していくしかないか?
「どうすればいいかなぁ……敵さんの攻撃も全然見えなくて気付いたら攻撃が終わっちゃってるし~……」
……お?
「アラアラよ、もしかして身体強化使ってない?」
「? 使ってないよ~」
おぉ、何とかなるかもしれん!
「それはいかんぞ! 後衛と言えど、いつ敵の攻撃を受けるかわからんからな! そしてその強化を感覚や視覚に充てるように意識してみるんだ!」
「で、でもアレクちゃま……私、魔法の併用は2つしかできないよ~……これでも頑張ったんだけどぉ」
それこそいかん! 『並列思考』、『身体強化』、『結界』、『飛行』は最低限としてそれから――!
「あー、けふん。アレクさんよ、一応言っておくが一般人は魔法は1つずつしか使えないぞ?」
「……え?」
心を失っていたハズのモーリーが会話に入ってくる。
「やはり知らなかった、か。俺たちベテランの前衛は『身体強化』は慣れているから常時発動できるし、それに加えて簡単な魔法を使う余裕がある。しかし、後衛の使用する高威力の魔法ともなるとそうはいかん。集中して魔素を練る必要があるからだ。いかに発動しやすい『身体強化』とて、なかなかできる者はいない」
こりゃびっくり! そんなこと全く気付かなかった!
……そう言われればトロイアや『おうまさん』も魔法の同時使用数が少ないな。
今まで見た限りでは魔族の王、ゼアは結構使っていたが。
「だから、その嬢ちゃんみたいに高レベルの『防御上昇』を使いながら『回復』を使えるだけでかなりの使い手ってことだ」
そう言ってモーリーは再びヘカトン先生の所へと向かう。
「……アレクちゃま~……ごめんね~……?」
「……アラアラが今までよく頑張ってきたのは知ってる」
そう言って、魔石に『上級回復』を込めたものを渡す。
「しばらくは『支援魔法』と『身体強化』を使いながら、『回復』の魔道具を使ってみようか」
回復力には問題ないし、こうしていればいずれ『身体強化』の発動も無意識にできてくるだろう。
「うん!」
その後、数回に1回は成功するのを嬉しそうにしているアラアラを見てほっとしたのだった。
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