第79話 特訓の合間に(メイとエリー)

 モーリーご一行を鍛え始めて数日が経った。

 我々のパーティもそれぞれ何かしらしている。


 エリーは宝石類やらを眺めてるし、クネクネは端っこでプルプルしている。多分うんこだろう。

 アラアラは支援魔法だったり、アンジェは溺れている。




 そんな中、メイちゃんはヘカトンケイルとスパーリング中である。


「坊ちゃま、そんなに見つめてきてどうしたのですか?」

「いや、メイちゃんは何をしてるのかなって」

 気になったのは、いつもなら一瞬でひき肉にしているのになぁってこと。


「? ……あぁ、今は素の身体能力を上げる目的で、『身体強化』のレベルを下げて戦っています」

「あぁ、なるほどね。ちなみに今はどの程度の強さ?」

「5割ほどですかね。なかなか難しいです」


 つまり、メイちゃん50%でモーリーご一行が太刀打ちできていないヘカトンケイルを相手どれる、と。

 やっぱメイちゃんつえぇー!


「ヘカトンケイルは今まで出会った中で2番目に堅い敵です。練習にちょうどいいですね。一番堅いのははここのボスですが」

 同じSランクでも強い部分は異なるってことね。




「――っ! しまったー、ヘカトンケイルが急に強くなった気がするー(チラチラ)」

 メイちゃんから何とも気の抜ける悲鳴が聞こえた。チラチラ見てくるし。


「ど、どしたの?」

「急にヘカトンケイルが強くなりましたー!」

 ヘカトンさんが、えっ急にどうしたのって顔してる気がする。


「このままじゃアレク様の大切な物である私の身体が傷物にー(チラチラ)」

 ヘカトンさんも、えっそんなことしないよって顔してる気がする。


 そう言えば、メイちゃんって強引な男キャラが好きだったなぁー。

 なんていつぞやのお願い事を思い出す。


「おのれヘカトンっ! 俺の大事なメイを傷つけやがってっ! 許さんっ!」

「グギャァッ!」


 ヘカトンさんは、解せぬといった表情で消し炭となった。


「……メイは俺が守る。だから俺の事だけ見ていろ!」

 ふっ、どうだ! なかなか恥ずかしいぞ!


「はぁぅっ! 坊ちゃまが無理して男らしく見せてるぅっ!」

 ……え?


「可愛いです、可愛いです坊ちゃま! さぁっ! ここは危ないですから今すぐ物陰に! 危険が危ないです!」

 え、そういう……? 男らしさを求めてたんじゃないのか……?


「わ、わー! 誰かに襲われるー! 誰か助けてー」

「坊ちゃま! 私が! 私が付いていますから安心して横になってください!」

 横て。




 聞かれるのも嫌なので、物陰からハンダートの自分の小屋に『転移』してから襲われました。

 特訓? まぁ大丈夫でしょう!


 ◆◇◆◇


 さらに数日後。


 メイちゃんはヘカトンケイルとスパーリング中、クネクネは端っこでプルプルしている。まだまだうんこだろう。

 アラアラは支援魔法だったり、アンジェは溺れている。



「エリー、モーリーに光魔法で『防御強化』をかけて貰っていい?」

 せっかくなのでエリーの光魔法の特訓でもしようかと思っての提案だったのだが……。


 何かエリーの顔が一瞬ぶれた気がする……?


「わかりましたわ!」

 ? 気のせいだったかな。


「おい、モーリー! バフが切り替わるから一応気を付けろ!」

 とは言え、普段のエリーのバフはかなり高レベル。

 強すぎることはあれど、不足するってことはないだろう。


「ん~、えーい! ですの!」

「ぐぎゃっ!?」


 そしてぐちゃぐちゃになるモーリー。


「わー! 回復回復! 『極大回復魔法エクストラヒール!』」

「あっちゃー、ですの!」


 なんでや! バフはかかっていたハズなのにヘカトンのパンチで一瞬でミンチになったぞ!?


「……エリー、もう1度頼める?」

 やっぱりエリーの顔がぶれた! 今度は見間違いじゃない!


「わかりましたわ! ……え~い!」

「ほぎゃっ!?」


 再びぐちゃぐちゃになるモーリー。


 回復してやり、俺の支援魔法をかけ直す。するとすぐにヘカトン先生の元へ駆け出すモーリー。

 あいつはあいつで極まってきたな……。


 しかし、今回の問題はエリーである。

 いったいなぜ? 俺やクネクネなどにかかる支援魔法は一級品なんだが……。


「エリー、もう1度――」

 そう言いながら、『アクセラ』で意識を加速してエリーを観察する。

 そこで見えたものは――。


 一瞬のうちに目まぐるしく表情を変えるエリー。

 嫌そうな顔、渋々受け入れる顔、疑問を浮かべる顔、いつものように明るい笑顔。


 意識を加速してようやくギリギリ判別できる程の速さで切り替わっていく!


「……エリー、支援魔法をお願いされた時何を考えたの?」

「もちろん! アレクのために頑張りますわ! ですわ!」

 いやいやいや、とてもそんな表情には見えなかったぞ。

 こいつ、過程(記憶)を吹っ飛ばして結論だけ覚えてやがるな……?


「ゆっくり考えようか……支援魔法、お願いされたらどう思う?」

「えーと……、正直アレク達以外に使うのは面倒くさいですわ……」

 ふむふむ。大変正直でよろしい。


「次は?」

「けれど、アレクの頼みなのでやりますわ!」

「それから?」

「でも、他の方への支援魔法ってどうやるのでしょう……?」

「ほうほう」

「よくわかりませんが、えーい! アレクのために頑張りましたわ! ですの!」


 にっぱー!


「うんうん、なるほどなるほどー」

 よくわからん!


 いや、多分何となく……そう、何となくで支援魔法を使ってるんだろう。

 完全なる感覚派故の弊害か……もしかしたら、エリーの支援魔法は身内限定なのかもしれない……。




 それからしばらくはエリーの支援魔法の練習も兼ねてモーリーにはぐちゃぐちゃになって貰ったが、一向に上達しなかった。

 いつしか疲れて眠ってしまったエリーのほっぺたをつんつんしながら思う。


「エリーの才能、伸ばしてあげたいなぁ……」

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