第78話 特訓(拷問)

「ねーねーアレク様ぁー? それだと私、マッスルエルフになっちゃいますよぉー。嫌ですよー、このプリティボディを維持したいんですけどーっ」


 うざい奴が絡んで来たな。


「お前……最近太ってきたろ。ちょうどいいじゃん」

 知ってんだからな、お前が他のエルフと違ってほとんど俺の部屋で寝てるだけってこと!


「――っ! 訂正をっ! 訂正を求めますっ! いっくらアレク様だからって言っていいことと悪いことがありますぅーっ! 断固抗議しますーっ!」

 ……これは身体でわからせるしかないな。


 ぷにっ。


「あひんっ!?」


 ぷにっぷにっ。


「あひゃっ!? やめっやめてくださいっ! お腹をつんつんしないで――あひゃんっ!」


 ぷにぷにぷにぷにぷにぷにぷにぷに。


「わかりましたっ! わかりましたからーっ! アレク様やめてぇーっ!」

 ふぅ、ようやくわかったかこのムッチリエルフ予備軍めっ。


「あ、あのぉ~……わ、私も前衛向けの特訓ではなく……魔法を教えて頂けると……ありがたいのですがぁ~」

 あたいっ子と組んでるおとなしめの女の子が話しかけてきた。

 パーティ名、『二輪の百合』……そういう事なのかしら。


「君は魔法が得意みたいだね。大丈夫、前衛はさっき言ったことをやってもらうけど、後衛は魔法の使い方を重点的に鍛えていくよ」

「おう! それなら俺もそうしてくれると助かるぜぇぃっ!」

 『質実剛健』からも1名の魔法使いが名乗りを上げる。


「君たち2人とうちの聖奴隷は最初から魔法用のメニューのつもりだ。安心してくれ」

「わぁーい! よかったですぅーっ! ……あれ、じゃあ何で最初にあの巨人にボコボコにされなきゃいけなかったんですか……?」

 気付いてしまったか……。


「……」

「ねー! アレク様ぁっ! 何でですかっ!? 何でですかぁーっ!?」

 ……そりゃおめぇ……むしゃくしゃしてたからだよ……。


 ◆◇◆◇


「がぼがぼがぼ……」


 説明も終え、修行に入る前にメイちゃんたちも連れて来た。

 とりあえず前衛組はメイちゃんに頼み、後衛組は俺が面倒見ようと思っている。


 物のついでとばかりに、アンジェも特訓に参加させている。そして溺れている。


「がぼ……がぼ……」

 あかん、そろそろ窒息しそうだ。

 そこでようやく、アンジェを包んでいた水魔法を解除する。


 もちろんいじめてる訳ではない。

 魔法のイメージを掴むには、直接触れることが一番! そして彼女の適性属性は水!


 そのため、アンジェを中心として球状に水で覆ってあげているのだ!

 よし、この技を『エレメントボール』と名付けよう!


「……ぜー……ぜー」

 恨みがましい目で俺を睨んでくるアンジェ。


「……私の人生。まさか、婚約者に溺れさせられるとは思ってもみませんでした」

「人生何があるかわからんなぁっ! はーっはっはっは!」

 はっはっは!


「ひどいです! あんまりですよ! 何でこんな――」

「さ、次行ってみよー!」

「がぼがぼがぼっ!?」

 懐かしいなー、俺も天界で似たようなことやったよ! 体はないから魂で感じてただけだけど!


「アンジェさん、適性が火じゃなくてよかったですわね!」

「がぼっ! がぼがぼがぼっ!」

 能天気なエリーの言葉に、だったらあんたもやってみろって顔しているアンジェ。


「火だと、服が燃えちゃうからなぁー大変だ」

 そう言いながら『百合』の子を火だるまにする。


「……熱いです。燃えてます。死んじゃいます……」

「頑張ってくださ~い」

 大丈夫だって! アラアラがバフと回復してくれてるから死にはしないよ!


「……」

 やべっ、質実剛健の魔法使いが意識を失った!

 全く、世話の焼ける奴らだぜ!



 一応、こんな拷問まがいの特訓をするのは訳がある。


 こいつら全員魔法を『詠唱』してやがるんだ!

 そんなことしてたら適切なタイミングで魔法を使えないし、素早い敵には無力だぞ!


 ってことで、優しい俺は拷問に見せかけたイメージの特訓をしてあげているのだ!

 俺ってば、やっさしー!


 ◆◇◆◇


「そっちはどう?」


 休憩がてら、メイちゃんたち前衛の様子を窺う。


「順調……と言えるのでしょうか。正直よくわかりません」

「おぅ! メイディさんの教え方、参考になるぜぇっ!」

「強化のコツとか、心構えとか! これだけで一歩前進した気がするっ!」

「あたいも!」


 ……ふ~ん。お前ら、俺のメイちゃんに教えて貰って嬉しそうだなぁ……。


「よし、じゃあ今度は俺が前衛組見るから、メイちゃんは魔法の制御教えてあげてよ!」

「かしこまりました」

 決して嫉妬したからではない。断じて違う。


「おう、頼むぜぇっ!」

「じゃ、さっそくヘカトン先生を呼んでくるよ」

 少し先にいるヘカトンケイルを連れてくる。いわゆるトレインってやつだな!


「へっ? いやいやいや、待ってくれ! まだ身体強化のコツを教えて貰っただけ――ギャー!?」

「やめてくれぇー! ぐびゃっ!?」

「メイディさん! メイディさーん! 戻って来てくれぇ~!」

「あ、あたいだってこの大盾で……んぎゃっ!」


 阿鼻叫喚とはこのこと!


 しかし……あたいっ子の戦い方、あれはどうだろう?

 全く大盾が間に合ってないし、筋肉も全然足りているようには見えない。


 身体強化でカバーできる部分はもちろんあるが……。


「おい、あたいっ子。お前大盾捨てろ」

「い、いやだっ! 私はこの大盾でレーズンを守るんだ――ぷぎゃっ!」

 また間に合ってないぞ!

 今までは間に合う程度の魔物しか出会わなかったんだろうが、いずれ今回のように全く使い物にならない状況は山程、いやたった1度だけあるだろう。その1度で多分死ぬ。


「……何も大盾を使うことだけが“守る”ことじゃないぞ。見て見ろ」


 モーリーたちを退かせ、ヘカトンさんのタゲを一手に引き受ける。

 もちろん身体強化だけ……と言いたいところだけど、意識の加速魔法『アクセラ』も用いてるけど。


「わかるか? こうやって敵の攻撃を回避することでも“守る”ことができるんだ」

「あ、あぁ……」

「もちろん、盾も必要に応じて使えばいい。ただし、身の丈に合ったものだ。使えもしない大盾にこだわっていれば、いずれ死ぬぞ?」

「……わかった、試してみる!」


 おぉ、案外素直に聞いてくれたみたいで良かったよ。

 特別な理由がないなら、そこにこだわる必要もないしね。


「……すげぇ、魔法だけじゃなくて前衛もこなせるのかよっ」

「……俺らにもまともなアドバイスくんねぇかな……」


 アドバイス:殴られろ。

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