第72話 エリーとデート

「わぁー! いい景色ですわー!」


 アンジェとのデートの翌日、今度はなぜかエリーとデートに行くことに。

 何でも、ドラゴンさんに会いたいですの! と言う事らしいですの!


 それで先日ドラゴンをスレイした高いお山にやってきたのだが、肝心のドラゴンはいなかった。生きてるとは思うんだけど……。


「この前は景色を楽しむ時間は無かったけど、なかなかのもんだな~」

 標高はよくわからないが……3000mくらいはあるのだろうか?

 とりあえず雲に入ったり出たり。その合間に見える眼下の景色は圧巻である。


「ふはははは~! 見ろ、人がゴミのようだ!」

「? 人が見えるんですの?」

 チッ、ただのお約束じゃないか。


「これはね、俺が前に生きていた世界のおとぎ話で――」

 かくかくしかじか。


 ……ギャグの説明程悲しいものはない!


「そうなんですの……アレク、もっと聞きたいですわ!」

「ギャグの解説?」

「違いますの! アレクの……前の人生のお話、ですわ」

 おやおや、笑顔が信条のエリーさんがちょっと暗い顔をしているぞ?


「アレクがどう過ごしていたかとか……どんな人が好きだったとか……ですの」

 あーなるほどなるほど。そうやってまた自分を追い込んで興奮するんだろ!

 業(NTRの性癖)を背負うと大変ですなっ!


「……ダメ、ですの……?」

「……」

 と思ったけど、どうやら違う様子。


「どうしたの当然? 前世の好きだった人の話だなんて」

「……少しでも、その人に近付きたくて……ですの」

「……え? ど、どうして?」

「……私より、アラアラさんの方が好き、なのでしょう?」

「……」


 その節は本当申し訳ない……。


「ですから、少しでもまた……ぐすっ、アレクにぃ……ぐすっ……」

「――っ!」


 何も言わずに抱きしめる。


「~~~、ぐすっ苦しい、けど……もっとぎゅってして……ですの……」


 さらに力を込めて抱きしめる。


「うぇ~~~ん」


 ◆◇◆◇


「エリー、愛してるよ」

「うぅ……本当ですの?」

「うん……みんなのことで順番を付けたくないけど、今はエリーが一番」

 やべ、これじゃ何又もしてる男の言い訳みたいだ……。


 いやそのまんまだわ、これ!


「……本当、ですの?」

「うん。みんなそうだけど……毎日会うたびに素敵なところがあって……毎回惚れ直してる。だから今はエリーが一番!」


 誤魔化しようがないほどクズ! だけど本心からの言葉!

 いいじゃない、みんな好きなんだもの!


「それに、誰かに似てるとかじゃないよ。エリーだから好きなんだよ」

「ほんとぉ……?」

「あぁ。だから、エリーはエリーらしく、好きなことをしていてよ」

「アレク……ちゅっ!」


 ほっぺにキスされる。

 でも、今日はもう一歩。そう思い、口にキスをする。


「エリー……」

「――っ! だ、ダメですの!」

 一瞬、幸せそうにトロンとした後、思い出したかのように離れられる。


「エ、エリー?」

「あ、赤ちゃんが! できちゃいますの! でも……アレクがどうしても望むなら……ですの……」

 ……え?


 ちゅっ!


「あぁ……赤ちゃんができちゃうのに止められないですの!」

 ……マジかこいつ。


 ちゅっ!


「アレク、アレクゥ……っ! あっ! 今赤ちゃんができたのを感じましたわ!」

 ……勘違いです、それ。




 しかし、おもしろ可愛いからもうしばらくこのままでもいいかと思いました。


 ◆◇◆◇


 エリーへの性教育はどうしていたのか、アルティス家に問いたい。

 今度サリーと再会したら折檻しようと思う。きっと腹黒メイドはそれすらも織り込み済みであろう故に何の問題もない。


「えっへっへ~、ですの! アレク、お名前は何にしますの~?」

 我が膝の上、いつにも増して素敵な笑顔で問いかけてくるエリー。


「そうだね……エリーは何がいい?」

「よしおっ!」


 ぶふぉっ!


「ぜ、前世の俺の名前はやめてください……死んでしまいます……」

「え~、ですの! あっそう言えば前世のお話を聞いてる途中でしたわ! 子作りに夢中になってしまいましたわ!」

 その言い方やめい!


「前世ね、前世。あまりおもしろくないけど……」


 そう言って、学生時代のことを話す。

 中学生の頃、大人びた他校出身の女の子に興奮したこと、体育祭で先輩がかっこよく見えたこと、修学旅行で玉砕したこと。

 高校生の頃、さらに大人びた他校出身の女の子に興奮したこと、学園祭でメイド服を着たこと、修学旅行で本場ではない本場のメイドさんに会ったこと。


 懐かしさから、ついつい語り過ぎてしまった。


「学校……おもしろそうですわね!」

「この世界にはまだないみたいだからね~」

 少なくともクイードァでは、貴族は家庭教師が基本、一般的には12歳までは近所のおっちゃんがみんなを集めて……まんま寺子屋スタイル。


「ふふっ! 今日はアレクの事いっぱい知れて嬉しかったですわー!」

「俺の話ばっかりでごめんね? 今日はもう遅いから帰ろうか」

「いいえ! アレクの事もっとも~っと知りたいですの! だから、またお話してくださいですの!」

「あぁ!」

 エリーと2人っきりで話すのは本当に久しぶり……今まであったっけ?

 ……これからはもっと意識しよう。




「赤ちゃん、楽しみですわ~!」

 ……帰ったら至急メイちゃんに相談しなければ……!

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