第70話 アンジェとデート①

「おばあちゃん、ここでの暮らしはどうですか?」


 アンジェと出会うきっかけとなった護衛依頼、その依頼主だった婆に会いに来ました。

 というより、アンジェと共に王都視察、と言うより、デート!


 メイちゃんとエリーとアラアラは王城で過ごしている。

 気を使ってるのかと思いきや、エリーが「ドラゴンの素材ですわ!」と言いながらアラアラに合うような小物を作るのだとか。


 やはり、エリーの前世はドワーフ……。




「ここは活気があって楽しいねぇ。治安も悪くないし、住みやすいよ」

「うふふ、気に入ってくれたみたいで良かったです! 何かあったら遠慮なく城の者に言ってくださいね!」

 ふむふむ。アンジェは民草をとても大切にしているんだねぇ。あの親にしてこの子ありだねぇ。


「ところで、このお店は何を売っているんですか?」

「ここはねぇ……ちょいと待っておくれよ。おーい、倅やーい!」


 そう言って奥にいる息子さんを呼ぶ婆。


「なんだい母さん……はっ! こ、これはお初にお目にかかります――」

「あ、気を使わなくて結構ですよ! 他のお客様と同じように接してください!」

 って言われても、普通無理だよねー! わかるわかる。


「あ、では失礼して。ここは薬屋だよ。ポーションとかも売ってるけど、植物や魔物の内臓などを煎じて薬にして売ってるんだ」

 あ、順応してた。まぁ、この一族のことだから似たようなことを全員何度も言ってるんだろう。


「薬、ですか?」

「えぇ。あまりなじみはないと思います。大抵は光魔法で済みますからね。けれど、薬は根本的な原因に対処するのに効果的なんですよ」

「そうなんですか?」

 と言って俺を見るアンジェ。


「あぁ、一般的な光魔法は表に出ている症状は治せるけど、根本的な対処はできているとは言えないね」

 ご期待に応え、それっぽいことを言っておく。極大魔法以降は対処できるけど、一般的に使える人がいないので。


 例えば腰痛など、しばらくの間痛みを取り除くことは初級でも簡単にできる。

 しかし、その原因となる冷え症や他の病気には対応が難しくなってくる。ってこと!


「その通り! 薬は効果が出るまで少し時間が必要ですが、完治したり再発するのを遅らせたり、と言うことを目標にしています」

「しかし金にならないだろう?」

 光魔法で事足りる場合が多いし、それ以前に命を落とすことが多い世界だ。

 クイードァではお抱えの薬師がいたが、大国故のゆとりがあってこそだろう。


「そうなんですよ。まぁ、私も結構な年ですので、稼ぐ目的よりゆったりとした生活を送ろうと思いましてね。色々な町を練り歩きましたが、ここが一番安心して暮らせますので、趣味を兼ねたスローライフ、というやつですわ。はっはっは」

「まぁ! この国を選んで頂けて幸いです! これからも頑張りますね!」

 スローライフ……魔神倒したら、俺も……。


「ははは、お願いしますよ! ところで、そちらの方は……?」

「あぁ、これは失礼。私はアンジェの夫になるかもしれないこともないアレキサンダーと言います」

 まだ婚約段階だからね? アンジェよ、睨まないでくれ。


「実質夫のアレクです。私ともどもよろしくお願いしますね!」

「既成事実もまだのアレクです。よろしくお願いします」

 何言ってんだ俺は。ついむきになっていらん事言ってもうた!


「ちょっと! そんなことわざわざ言わないで!」

「はっはっは、おもしろい方ですな! ではでは、ささやかながらお2人にお祝いの品を送らさせてください」


 そう言って、奥から何やら小瓶を持ってきた。


「こちらをどうぞ。アレク様のお茶に1滴垂らすと、婚姻が成立する魔法の薬です」

「まぁ、不思議な薬があるのですね! ありがたく頂きますね!」

「……」


 ……絶対媚薬やないかい!


 お姫さんや、もう少し危機感とか持ってくださいな。


 ◆◇◆◇


 続いてきたのは屋台通り。ここの近くにAランクダンジョンがあり、一番賑わっているところだ。


「アンジェちゃん! 今日はミノタウロスのお肉が入ったよ! 食べてっておくれ!」

「おばちゃん! あ、けど……」

 俺をチラッと見てどうしたのだろうか。


「好きにしたらいいよ。おばちゃん、俺にもおくれ」

「あいよ! お兄さん男前だからサービスで大きな肉にしてあげるよ!」

 ふはは、わかっているではないか!


「ありがと! ……うむ、うまい! 肉の力強さとタレの力強さが競い合ってる!」

「……ふふ、何ですかそれ。意味が全くわかりません! おばちゃん、わたしにもくださいな」

 つまり、がっつりガテン系メンズの肉! 俺もよくわからん!


「はいよ! ところでアンジェちゃん、そこの兄ちゃんはコレかい?」

 そう言って親指を立てるおばちゃん。きっと、その表現は古いんじゃあないかな。


「……? えぇ、とってもいい人です」

 ……グッドって意味で親指立ててるんじゃないんだぞ?


「おー! ついにアンジェちゃんにもいい人が! 野郎どもが悲しむねぇ!」

「うふふ。ありがとうございます!」




 肉屋を離れ、座って串焼きを食べる。


「そ、その……アレク様すみません。はしたないでしょうか……?」

「別に、王族でも串焼きくらい食べるでしょ! 俺も好きだよ!」

「そ、そうですか!」

 パーッと笑顔を見せるアンジェ。


 エリーとはまた異なる種類の純粋な笑顔。

 あっちは純粋過ぎてよしよししたくなる笑顔。


「それより、アンジェは町の人にも人気だね~。随分気軽に声掛けてくるし」

「えぇ、皆さんによくして貰ってます」


 きっと何回も町に出て色々話とかしてんだろうな~。で、何か要望や問題があれば積極的に介入していくと。


 わーマメね。

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