第69話 (義)兄

「ひゅー、やるねぇ!」


 数日後、ジョージに呼び出され、彼と2人で領地内にあるSランクダンジョンへとやってきた。


 ちなみに彼はAランク、俺はBランク。本来なら2人では入れないところ、王族特権とやらで無理矢理入った。

 普通、王族なら絶対入れなくね? 俺ら死んだら職員さんも死んじゃうよ?


 まぁ、ジョージなら大丈夫。そんな不思議な安心感や日頃の積み重ねもあるんだろうが。


「この程度の魔物、ジョーでも楽勝でしょ」

「デコピンで離れた敵を爆散させるのは俺にはできねぇ! か~っかっかっか!」


 ここのダンジョンは森、よって現れる敵も森に住む魔物が多い。

 木々を使って忍び寄ってきたり、木その物に擬態していたりと、技巧派の魔物が多くなっている。


「お、『マッスルベア』だぜ! ただでさえマッスルなベアがさらにマッスルしてるやつだ!」

「何その頭悪そうなネーミング」


 ちゅどーん!


「おぉ……瞬殺かよ。名前はふざけた奴だが、実力は確かな奴だったんだがな。俺は勝てない」

 俺が勝てなかったらどうするつもりだったのか。




 その後も時に何もなく、敵を見つけてはデコピン、罠を見つけてはデコピン、デコピン、デコピン……。




「散歩してるみたいなノリでもうボス部屋なんだが。普通は何日も時間をかけてここまで来るんだが」

「まぁまぁ」

 俺の実力を見たかったんでしょ?


「さ、ここのボスはグレートタイガー3匹! 俊敏さ、身体能力の高さ、連携。どれをとっても一級品だ。慣れた奴でもたまに死ぬ。準備はいいか?」

「ベテランがたまに死ぬとこ連れてくんなよー」


 そして開かれるドア。


「グルルルル……」

「グォォオオオーン!」


 正面10m程先、前世の記憶より2回りは大きいであろう虎が唸りを上げる。ボス部屋も小さいジャングルだった。


「ガウッ! ――?」

 そして真横から1匹、奇襲を仕掛けてくる虎。しかしその奇襲は通じない。


「気配は消せても、魔力は消せなかったね。ほれ」

 障壁に阻まれて不思議な顔をしている虎、のおでこ。やることは1つ。


 ちゅどーん!


「おえっ! おまっ、今のはただのデコピンだろ!?」

「魔法が強ければ身体強化も強い、当たり前だろ?」


 さて、と。仲間を殺されて怒り心頭の様子の虎と虎。


「「グォォオオ――」」


 ちゅどーん。


「……すげぇな。最早敵なしじゃねぇの」

「……」




 ボスを討伐し、宝箱の部屋が開く。こいつの罠も解除して、と。


「罠の解除しといたよ」

「あぁ、サンキュー。ま、何だ……急ぐ道でもねぇし、ちょっと休憩でもしようぜ?」


 ……。


 ……そういうこと、か。


 恐らく、この数日のことを不審、とまでは言わないが聞きたいと思っているのだろう。

 魔族を連れてきたと思ったら、妹を置いて3日も行方不明。


 俺がアンジェの兄ならボコボコにしてでも聞き出す。


「……実は、さ――」




 先日のことを掻い摘んで話す。さすがにアラアラとの蜜月はボカすけど……。

 転生者のことも、いずれバレるだろうし話してしまった。


「ひぇー、なかなか大変だったんだなぁ……」

「……怒らないのか?」

「ん? あぁ、妹を差し置いて他の女にってか? アラアラつったっけか、ありゃいい女だな。包容力っつーか、まぁモノにしたくなる気持ちはわかる」

「手出したらコロス」

「出さねぇよっ! まぁ俺だって男だ、そこはわかるよ。ジェーン以外にも何人かいるし……あ、これ秘密な! か~っかっかっか!」

「今度ジェーンさんに言っとこ」

「ちょっ! それはやめろって!」

 なんてね。どうせ公認だろう。




「……俺が聞きてえのはそうじゃねぇ。そうじゃねぇんだが……なんっつーか、よぉ」

「? 何だよ」

「何か……悩んでんじゃねぇのか……? うまく言えないけどよぉ……何か、思い詰めてる顔してるぞ?」

「……」


「お前は俺の弟だ、義理のだけどよ! どんな時でも弟が困ってたら助けてやる! 兄弟ってのはそんなもんだろっ!」

 あぁ、そうか。俺は勘違いをしていたようだ……。


「何てな! かくいう俺も、兄貴には散々世話になっててよぉ。頼りねぇかも知れんけど、何かあったら――」

「不安だったんだ。アラアラを危ない目に遭わせて、割と本気で戦った相手がなかなかしぶとくて。こんなんで魔神を倒せるのかって」


 アラアラに溺れる前から、きっと怖くてたまらなかったんだ。

 致命傷、もし魔道具が無かったら。万が一効果を発揮しなかったら……。


 俺でも歯が立たない相手だったら……。


「けど、もう大丈夫! やれることは何でもやる! 腹は決まった!」

「お、おう……そうか? まぁ、お前がそういうんなら大丈夫だろ! 俺はできる限り楽してぇんだから頼むぜ、弟よ!」


 やれやれ、頼りない兄を持つと大変だ。

 俺もこうであれば……ギルとの関係もまた、違うものだったのだろうか……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る