第68話 お詫び行脚

「重ね重ね、申し訳ございません」


 ドラゴンスレイヤー、アレクである。威厳など、必要ない。必要なのは心からの詫びる気持ち。

 メイ様、エリー様、そしてアンジェ様。彼女らを前に誠心誠意土下座しているところである。


 ドラゴンの素材に魔法付与を施した後、こっそりリョーゼン城の俺の部屋にゲートを繋げる。

 そこにいた、怒りの形相をした3人の女神をこっそり連れてきたのだ。ハンダートの小屋に。


「も、申し訳~ありません~……」

 アラアラも俺をマネて土下座する。おっぱいが邪魔でできてないけど。


「……事情はわかりました。アラアラさん、顔を上げてください」

「は、はい~」


 ビタンッ!


「――っ!」

「――――――――っ!!!」


 顔を上げたアラアラにビンタをするメイ。

 アラアラは一切声を上げず、根も上げず、ただただ受け入れた。

 俺は我慢、ひたすら我慢……歯を食いしばって……やばっ視界が真っ赤っか。


「……今のは私たちから、一時的にでも愛する人を奪ったことに対する罰です」

「……はい」

「アラアラさんなら、そのお気持ちはわかってくださるかと思いますわ。愛する人と離れてしまう気持ち、結ばれない気持ち」

「……はいっ」

「私も……私も覚悟を決めてるんですからっ! 彼を愛する覚悟をっ!」

「はいっ」


「ですから、これからはみんなで支えていきましょう。抜け駆けやズルはなしです」

「そうですわ! みんなで仲良く、笑顔で!」

「私も新参者ですが、よろしくお願いしますね!」


「うぅっ……みなさんっごべんなざぁ~いっ!!!」

 良かった、良かった……これでもう、思い残すことは……。


 バタンッ!


「きゃー! アレクが倒れましたわー!」

「く、口からもの凄く血が出てます! 大丈夫なんですか!?」

「……ぼ、坊ちゃまっ!? ぴ、ぴくぴくしてますぅっ!?」

「ア、アレグぢゃまぁ~! いやぁ~~~ん!」

「私も私もっ! 聖奴隷としてーっ! がんばっちゃいますよぉーっ! おーっ!」


 1人うざい奴紛れてるんだが……ガク。


 ◆◇◆◇


「毎度毎度、同じもので恐縮ですが、受け取ってください」

 おのれの魔力を核に魔法付与した渾身の一品! これさえあれば世界をも支配できるだろう!


「まぁ、これは……いつもとなんだか?」

「アレクをもっと感じますわー!」

「つ、ついに私にも指輪が……っ!」

「アレクちゃま、私もいいのですかぁ~?」

 三者三葉の感想を言いながらも喜んでくれるみんな。


「もちろん! これはお詫びの意味もあるけど、みんなが大事だから、その……気持ちを込めて……」

 うは、改めて言うと恥ずかしい……。


「……坊ちゃま、私は何があっても一緒に、例え坊ちゃまが私を捨ててもついて行きます」

「妻はいつでも、何があっても夫を支えるんですの!」

「うぅ……何か、嬉しい……」

「ぐすぅっ、アレクちゃま……死んでも一緒よぅ~」

 良かった良かった、素材を探しながら頑張って作った甲斐があったぞぉ!


「ありがとう。これからは1日、いや、ちょっとでも離れるときは必ず連絡するし、必ず戻るから!」

 うやむや良くない! 謝るべきとこ、しっかり謝る!


「ふふ、よろしくお願いしますね。坊ちゃま」




「……ちぇっ!」

「……」




 しょうがないから、聖奴隷に向けて指輪をポイッとな。


「えっ!? これ……」

「……色々ありがとよ」

「……ぅわぁーい! 見てください見てくださいっ! これっ! 指輪ですよっ指輪! 遂にっ! 遂にっこの私にも指輪がーっ! モテる女は辛いなぁーっ! たはーっ、まいっちゃうなぁーっ! わはー!」


 ……ウザッ!


 ◆◇◆◇


「やぁやぁ、アレク君。話は聞いたよ。何でも我々にくれる物があるんだとか」


 さぁ、続いての謝罪先はこちら! 4人目の妻の家族!


「ははぁっ! 何分卑しき生まれ故、献上品で以って我が謝意を伝えたくっ!」

「う、うん。どうしたのその喋り方? もっと楽にしてよ~」

 あんたは楽にし過ぎだよっ! おっと、いけないいけない。


「では失礼して。こちらがその品々になります。素材選びに難航し、時間がかかってしまいましたが……」

 嘘は言っていない……よね?


「おぉっ! こ、これは……?」

「ま、まさかドラゴンの爪……それに羽や尻尾まで……鱗なんか数えきれない程あるぞ!?」

 さすが現場に生きる男ジョージ。これがドラゴンの素材だと当然気付く。


「えぇ、全てに高ランクの『結界』系の魔法などを付与しております。爪には炎や氷などの属性付与です」

「……アレク殿の『結界』は私のそれとは比べ物になりません……いったいどれほどの価値があるのか……」

 簡単な説明にも、アンジェの護衛、ヒルデがとてもいい反応をしてくれる。


「価値……はわかりませんが、『極大魔法』程度ならビクともしないでしょう」

「……国宝級レベルじゃないか……それがこんなにたくさん……」

 クラット兄もこれまたいい反応。うむ、これなら誤魔化してることも含めての詫びの気持ちとして十分……だよね?


「素材を実用品にする技術は持っておりません故、そのまま持って来ました。後はお任せしてもよろしいでしょうか?」

「うむ、素晴らしい贈り物、誠にありがたい。だが……正直、こういったことを期待していなかったと言えば噓になるが……」

 おっと?


「できれば、我々のために費やす時間を、アンジェやメイさんたちとの時間に充てて欲しい。と言っては図々しいかのう……結局貰う訳だし……」

「御意に。実は、妻たちからも似たようなことを言われまして……これからはより一層彼女らのために尽くしていく所存です」

 似てるような違うような……まぁ、元の部分は同じだろう。乳酸菌と乳化剤くらい。


「うむ! その言葉が何よりの贈り物だ! よーしっ、今日は宴だーっ! 『酔うのは女だけにしとけっ亭』に急ぎ注文をするのじゃっ!」

 ……今日だけは別のところに注文しません? 店の名前を聞くだけでダメージが……。


 それにしても、この義理の父はどこまでお人好しなのだろうか……。

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