第65話 アラアラの願い

「(クソッ、こんなことなら……)」


 以前パーシィとシアーのために作った『GPS』、それを彼らにも……。

 いや、彼らにもプライバシーはあるしそもそもいくつもあると受け手、つまり俺が混乱してしまう。


 リビランスの周辺を隈なく探したが、全く見つからない。

 北区の冒険者ギルドでは、俺のランクが低いから利用できないと突っぱねられてしまった。


 やはりこの町は一度滅ぼした方が……。

 だめだ、まだその時ではない! そのために『おうまさん』に頼んでいたんだからっ!


 彼らの頑張りを無に帰す訳にはいかない。

 焦るな、焦るな……。


「(一応、最後の手段がある。とは言え……)」


 できれば発動して欲しくないソレ。




 しかし、無情にもソレの発動を感じてしまった。

 用意していた最後の手段。それは、致命傷を負った所持者の元へと俺を『転移』させる魔道具。


 それが今、発動してしまった……。


「――っ。落ち着け、落ち着くんだ」

 まずは意識を加速して、周囲の状況確認して、そうだ自身に防御魔法をかけなければ……。


 ◆◇◆◇


「アラアラ……どうし、て……我を庇って……」

「……えっへっへ。仲間が傷つけられるのなんて、見てられないよ~」


 気力も絶え絶えな様子のシヴ。血の海で倒れているアラアラ。

 そして、近くで腕がひしゃげて倒れているブッディ。離れたところで倒れているヤハ。


「……女を傷つける趣味はなかったのだが。まぁいい。貴様は誰だっ!」

「アラアラ……大丈夫かい?」

 膝を付き、優しく彼女を抱きかかえる。


「……あはっ、アレク様が見える~。ごめんねぇ負けちゃった~」

「……構わないよ」

 いつものように間延びした、しかし弱々しく呟く彼女。俺の事を死の間際の幻覚とでも思っているようだ。


「……うぅ……ぐすっ……私、アレク様のお役に立てなかったぁ……悔しいよぉっ」

「……そんなことないよ」

「ぐすっ、ぐすっ……私ね、本当はアレク様と結婚したかったの……」

「……そうなの?」

「結婚して、子どももたっくさん産んで……お仕事から帰ってきたアレク様を、おかえりって……」

「……」

「でもね、アレク様の周りには……私より素敵な人がたっくさんいてぇ~……勇気が、出なくって……」

「……」

「ぐすっ、でもね。今度会えたら……来世で会えたら……絶対……今度は……」

 そう言って、穏やかに目を閉じるアラアラ。


 ……。


「話は済んだか? 貴様は――」

「――俺は、お前らとは話し合うつもりでいた」

「――っ!?」

「先に会った2人の魔族、彼らから感じたのはそんなに悪い感情でもなかった」

「……」

「だがっ! もうお前らは許さねぇっ! 俺の大事なもんを傷付けやがってっ! 地獄を見せてやるっ!!!」

「――っ! 地獄なら、とうにっ!」


 ぶつかり合う赤と赤の魔力っ! 俺の炎と奴の炎、しかし勝つのは俺!


「『滅鬼怒の焔』! シヴの技をその身に受けやがれっ!」

「その技はさっきも――ぐぉぁぁぁっ!」

 込められた魔力、質ともに違うだろう? 見てるか! シヴマーヌ!


「『極大範囲回復魔法』(サンクチュアリヒール)!」

 倒れている4人を回復する。


「ぐっ……はっ!? 敵は!?」

「ちょっ、アレクっちいつの間に!?」

「おぉ……体に気力が……」


 回復し、意識を取り戻す3人。シヴは起きてはいたが。

 ……やはりアラアラは……目を覚まさない。


「――っ! きっさまぁっ!」

「『金剛』。お前の攻撃など効かんわ」

 体を鋼鉄以上に堅くする。


「どうした? その程度か?」

「ぐぅぅっ! くそがぁっ!」


 そして繰り出される怒涛の手刀。しかし、その1つ1つに合わせ、カウンターを見舞う。

 武の心得はそんなに得られなかったけど、意識を加速していればこの程度の事、造作もない。


「アレクっち、まさか……」

「あぁ、不甲斐ない我らに教えて下さっているのだろう。目指すべき、頂を!」

「……あぁ、主よ! 破壊された我が心中を再生してくださる主よっ!」

 同じことをする必要はないと思うけど、お前らにはまだまだ伸び代はあるっ!


「~~~、貴様っ! コケにするのもいい加減にしろッ!!!」

 はぁ? 何ふざけたことを言ってやがるっ!


「……お前は自分に向かって飛んできたゴミを丁寧に拾うのか?」

「……ハ?」

「しかもそのゴミが悪臭を漂わせてたら。恨むだろ? 憎むだろ? 捨てた奴を! 生まれてきたことを後悔するまでいたぶるだろうがっ!!!」

「……コロスッ! コロスコロスコロスゥッ!」


 そして炎を纏い、バフを施し、身体を堅くし、何度も殴りつける!


「グボッ!? ガハッ!? ゴホッ!?」

「死ね死ね死ね死ねっ! 死ね死ね死ね死ねってめぇーが死にやがれぇっ!!!」


「――っ!!!」


 最後に大きく吹っ飛ばす。




 あー! スッキリした!!!


「……ガハッ……ヒュー、ヒュー……」

 まだ息があるのか、驚いたな。しかし虫の息だ。


「……魔族の王よ、侮辱する言葉を吐いたが、許せ。これも戦いだ」

 気持ちも落ち着いたので、何となく謝っておく。ちょっと言い過ぎたかもしれん。


「カヒュー、カヒュー……安い、挑発に乗った、我が悪い……」

 良かった、許して貰えた!


「我、は……滅びんっ! また、相まみえようぞ……さらばだっ、現界の強者よっ!」

 そう言って消失する魔族の王。


 ……えー、また会うの?


 確かに奴には何かが足りない。魂的なものというか……。

 もしかして……今のは分身か何か、か?




「アレク様! アラアラが……アラアラが目を覚ましませぬっ!!!」


 あぁ、忘れてた。アラアラの奴、まだ寝てるのか……。

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