第66話 夢だけど夢じゃなかった

「アラアラッ! アラアラーっ!!!」

 ブッディの慟哭が響く。


 それを聞きながら寝ている彼女の傍に寄り、胸に付いてるブローチに魔力を込める。

 ついでにちょっとだけ揉む。


「ちょっ! アレク様! さすがに……」

「大丈夫、寝ているだけだから……」

「確かに、眠ってるように安らかですね……」

 いや、そうじゃなくって。安らかだけど。


「破壊の後には……再生がっ! 創造があるのではないのかっ!!!」

「アラアラよ……今まで……本当にっ! ……ぐすぅ!」

「……おまえの分までっ! 俺っち頑張っからよぉーっ!!! うわぁぁー!」

 良かったな、みんなに愛されてて。




 説明しよう! 『アレクの印』!


 この魔道具には、所持者が致命傷を負った瞬間、ありったけの防御系魔法を展開し、極級回復魔法を施し、そして俺自身を『転移』させる魔法が込められている! 当然素材も超一級品! クネクネの糸と涎がふんだんに使われている!

 例えマグマの中にいようとも! 心臓や頭が砕けようとも! 必ず所持者を守り抜くであろう!


 説明終わり。ちなみに、『アレクの印』の効果については誰にも言っていない。危機感を持たなくなるかもしれん。

 肌身離さず持っているようには言ってるけども。


 つまり、アラアラは本当に寝てるだけ。この寝ぼすけさんめっ!


「……とりあえずアラアラは俺が引き受けてもいい?」

「……もちろんです。アラアラはアレク様のことを心より慕っておりました。最期まで、2人っきりでいてあげてください……うぉおおおーん!」

「アレクっち! 最期にっ! 嘘でもいいから最期に愛してるって言ってやってくれよなぁーっ! うぉおおおーん!」

「あぁぁぁーっ! 主よっ! アレク様よっ! どうか彼女を見届けてあげてくださいっ! うぉおおおーん!」


 どうしよう、めちゃくちゃ言い辛いんだけど。実は生きてますよーって。




 ま、いっか!


 ◆◇◆◇


「ん……むぅ……ぁっ……こ、ここはぁ~?」


 ハンダートにあるエロフランド、そこにある俺専用の小屋。

 特に仕事もなかった聖奴隷に定期的な掃除を頼んでいる部屋。


 何故か俺のベッドで寝ていた彼女を放り投げ、今はアラアラを寝かしている。

 軽く揺すっても全然起きないから、仕方なく、本当に仕方なく胸を揉みしだいていたら遂に目覚めた。


「……アレク様。おかえりなさい」

「……あぁ、ただいま」


 起きた彼女と目が合う。数瞬の間に移ろう感情。驚き、悲しみ、そして喜び。


「アレク様、私生きてた頃の夢を見たの~」

「……どんなだい?」

 どうやら彼女は既に転生してしまったようだ。じゃなくて、死後の世界だとでも思っているのだろう。

 おもしろいから、少しだけ付き合うことにする。


「と~っても怖い夢! ブッディも、シヴも、ヤハも、み~んなやられちゃって~……」

「うんうん」

「でね、私も殺されちゃって……そしたらアレク様が迎えに来てくれてぇ~……」

「うんうん」

「ダメダメな私を励ましてくれたの~! アレク様、大好きよ」

 そう言って口付けをしてくる彼女。


「うふふ。アレク様と何回もしてるはずなのに、初めてみたい! まるで夢のよう~……あ、夢、だった~……」

 どうやらここを死後の、夢の世界だとは認識できているようだ。違うけど。


「アレク様、今日も可愛がってくれます、か?」

 恥ずかしそうに、しかしはっきりと気持ちを伝えてくる彼女。

 伝えられず、後悔しながら逝った彼女。逝ってないけど。


「もちろんだよ、アラアラ」

「――っ! うふふ、嬉しいっ!」


 その気持ち、受け取ることに一切の迷いなしっ!

 しかし、1つ問題と言うか、懸念事項がある。


「つかぬことお聞きしますが、アラアラはこういった経験は……? 俺以外との」

「え~? ある訳ないでしょ~! 私はアレク様だけのものなんだからぁ~……って知ってるくせに~!」

 顔を真っ赤にしながら、コロコロと表情を変えるアラアラ。


 大丈夫かな。夢と思い込んでいる世界で初体験。実は夢じゃなくて現実だと知った時の……。




 ……ま、いっか!




「きてぇ、アレクちゃまぁ~……あれ? いっっったぁ~い! 何でぇ~? あっれぇ~?」

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