第64.5話 幕間 魔族の王との戦い―おうまさん―

「るんるるんるる~ん♪」

「アラアラご機嫌じゃ~ん☆」


 昨日、Sランクダンジョンを踏破したことでSランク認定された『おうまさん』一行。

 向かうのはかつてアレクも訪れた場所。


「だって~! アレク様のために働いてるって思うと~えっへっへ~♪」

「アラアラは本当にアレクっちが好きだねぇ☆」

「『月光の雫』。数カ月に1度、月の魔力を貯めた実が成る。これの依頼を達成できなかったとアレク様が残念そうにしておりましたからな」


 以前、エリーが気になった依頼を達成できなかったと、酒の席で零したアレク。

 ブッディ達は健気にも、何気なく零されたそれを覚えており、『月光の雫』の採取に向かっているところである。


「私たちのSランク認定記念に、アレク様に褒めて貰おう~!」

「主による創造こそ、至上なり!」

「んだね☆」

「微力を尽くしましょうぞ!」


 かつてクワトが叫んだこと。『生きる希望も意味も』くれたアレク。彼らも思いは同じ。

 今までも、そしてこれからも彼のために尽力する。Sランク冒険者になれたのも、彼に報いたいがため。


 生きる意味のなかった彼らに、これに勝る喜びはない。




 そんな彼らの前に、その男は現れた。


「ふむ。貴様らが『おうまさん』か?」

「……誰だ貴様はっ!?」


 以前、アレクが出会った2人の魔族。彼らとは全くの別物、別次元。

 相対しただけでわかる、絶対的な強者の風格。


「……くっ! 『滅鬼怒の焔』ッ!」

 故に、シヴマーヌの魔法で機先を制する!


「――ほう、なかなかの魔法じゃないか」

 しかし、目の前の強者は涼しい顔をしている。


「シヴの魔法が――っ!?」


 パーティの最大攻撃力を誇るシヴマーヌの魔法が、大した効果を得られなかったことに驚愕する一行。

 そしてフードが燃え、あらわになった顔を見て、4人は改めて覚悟を決める。


「青い肌……あんた、魔族かい?」

 アレクより『スマホ』を介して知らされていた魔族の特徴。

 ならばやはりと、彼の者の目的を察する。冒険者狩り、そしてアレクの持つクリスタル。


 つまり、主と仰ぐアレクの敵っ!


「時に、貴様らはこれに見覚えがないか?」

 そう言ってクリスタルを出す魔族。


「「「――っ」」」

 見覚えのある、不吉な魔力を持つそれに思わず身構えてしまったブッディとヤハとシヴ。


「ふははっ! どうやら当たりのようだな! これと同じものを大人しく差し出せば、命だけは助けてやろう!」


「――っ! 断るッ!」

 そう言って切りかかるヤハ。彼は、仲間が魔法を行使する時間を稼ぐため、接近戦へと挑む。

 まるで巨大な岩に挑むような心境であろうとも。仲間を信じて。


「ふむ。よい動きをする」

「――ガッ!?」

「ヤハっ!?」

 しかし逆に攻撃を食らい、十数メートルも先の岩山に叩きつけられてしまう。


「だが、まだまだだ。さて、今のを見て答えは変わらんか? あの男もまだ死んではおらんはずだ。クリスタルさえ寄越せば手当もできよう」

「アラアラよ、拙僧の後ろに下がっておれっ!」

「……うん」


 自分には補助支援魔法と回復しかできない。攻撃ができない自分は守られるしかない。

 アラアラの胸中を無力感が襲う。しかし――。


「(ううん、違う! アレク様がくれた私の力! それを信じてできることをやるの!)」

 その無力感を吹き飛ばし、さらに勇気をくれる! 彼のために、彼の敵を!


「ほう、そう来なくってはなっ!」

「『金剛・改』!」

「『極大支援魔法』!」


 ブッディの体が鉄のように、そして光魔法特有の淡い光を纏う!


「……光魔法、か……忌々しい……忌々しき光魔法よっ!」


 しかし、突如魔族が激高、その結果――!


「ガフッ! ――に、逃げろアラアラ……」

「ブッディ!?」

 鉄人の持つ盾を、腕を砕き、腹を強烈に打つ魔族の拳。

 そしてブッディは気を失ってしまう。

 

「……さて、次はお前だ」

 ゆっくりとシブマーヌの元へ向かう魔族。


「――っ! 『黙示録の焔』っ!」

 仲間が必死に、命を懸けて稼いでくれた時間。それを無駄にしないためにも、自身の持つ全ての魔力を注ぎ込むシヴマーヌ!

 周囲の音すら燃やし尽くしそうな豪炎。しかし――。


「――っ。今度はなかなか効いたぞ。貴様が勇者か? ならば、ここで殺してやろう」

「……そ、んな……」

 それでも魔族の王には、届かなかった。


 最早立ち上がる気力もないシヴマーヌ。

 去来するのは、アレクへの懺の思い。弱い自分を、主の敵となる存在を前に、倒れる己への――。


 そして――!


「だめーーーっ!」




 魔族の手刀が、アラアラを貫いた。

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