第64話 クリスタルの真実
「クニッカノードの国で……Sランク冒険者が殺されたとのこと!」
「――っ!? ……遅かったか」
遂に出てしまった死亡者。つまり――。
「クリスタル……いったい何があるってんだ」
そう、目的の物を奴らが手に入れたという事。
「……お前も気を付けろよ?」
「……あぁ」
神妙な気持ちで頷く。
お互い災難だね。昨日会ったばかりの男が妹の婚約者になってしかも厄介な物を持ち込んで。
◆◇◆◇
「ふむ」
翌日、何となくクニッカノードへと単身訪れた俺。
冒険者ギルドでは未だその話で騒ぎになっている。
「殺されたのって『虹色のアドルフ』だろ?」
「あぁ、あんな強いやつが殺されちまうなんてなぁ……嘘か誠か、全属性の魔法の使い手とか」
「死んじまったら、もうわかんねぇな。噂じゃ、例の冒険者狩りの仕業らしいぜ?」
「おーこわっ! 俺も気を付けなきゃな……」
「バカ言え、襲われてんのはみんなSランク! お前程度じゃ見向きもされねぇよ!」
「そう言えばそうだった! が~っはっはっは!」
私もバカの1人です。
にしても、俺がなるはずだった史上初の全属性の使い手、か。いやいや魔道具とかで何とでもなるし!
しかし、アドルフ……何か引っかかるなぁ……気のせいかしらん?
「ここに来ると思ったわ!」
突然ボインボインの姉ちゃんに声を掛けられる。間違えた、ボインボインの糞じじいだった。
「はて、ゲボ臭い爺なんか知りませんねぇ」
「覚えとるじゃないかっ! それにゲボはお前のじゃ!」
こいつに一瞬でも反応した息子が情けない。
「……何?」
「……気付いてるんじゃろ、転生者よ」
周囲を確認する。こちらに意識を向けているものはいない。やるなら、今。
「まっ! 待て待て待てぃっ! 殺気がだだ洩れ! 漏れ過ぎっ! どうしてお前らはそんなに気が短いんじゃっ!」
「不審者にかける情けなどない」
しかし何やら重要そうなことを知っていそうなので我慢だ。
「……で?」
「……もうちっと、聞き方とかあるじゃろ。態度とかさぁ。年寄りは――」
「痛めつけられるか、さっさと話すか、好きな方を選ぶがよい」
こいつにくれてやる慈悲も時間もなし。メイちゃんにセクハラしようとした恨み、忘れていない。
「……転生者、神からの使命を帯び、一定周期で現れる6人の者たち」
「ほう。なぜわかった」
「我らの一族は、代々転生者を導き、クリスタルを正しく破壊させることを使命としているのじゃ」
「そうではない。なぜ俺が転生者だとわかった?」
「勘……ちっ違う間違えたっ! クリスタルを持っていたからじゃ!」
言葉は正確に選んで欲しい。残り少ない寿命をさらに縮めたくなければな。
「クリスタルに反応する魔道具を持っておる! そしてクリスタルを発見するのは転生者だと定められておるのじゃ!」
「ふむ」
神からの使命、つまり魔神討伐。それを知っているとはこの爺、ただの変質者ではない、と言う事か。
「クリスタルとはなんだ?」
「それは知らん……長い時の中で失われてしまったんじゃ!」
ちっ、肝心なところがわからんじゃないか。
「……じゃが、わざとこの情報が伝えられていないのではないかとわしは考えている」
「どういうことだ?」
「『魔神の討伐は、クリスタル6つ全てを集めることで為され、全てが終わったらクリスタルを破壊する』と伝わっている。恐らく……」
「魔神の出現に直接、あるいは間接的に関係している、と」
「そうじゃ。よくわかったの」
「……こんだけ不吉な魔素をはらんでるんだ。嫌でもわかるさ」
そしてそれを伏せているということは、魔神は1度復活させた方がいいということ、討伐前にクリスタルを壊すのもよくなさそうだ。
「わからないのは、なぜ俺らを転生させた神様はその情報を俺たちに教えなかったかってことだ」
「さぁ、のう。もしかしたら、知ってしまえば逃げてしまうのでは、と思ったんじゃないかのう?」
クリスタルさえ集めなければ、途中で壊してしまえば。怖い怖い魔神と戦うなんて誰もがしたい訳じゃない。戦いたくないから、神に言われたからと言って絶対に試さないとは言えない。そして実際にそれがあって、より深刻な状況になったのかも知れない。
故に、自動で集まるシステムにして6人で力を合わせて魔神討伐頑張ってね、そんなとこか。
思えば、俺に提示された才能(ギフト)も戦闘関連のものばかりだったな。
「しかし、ここに来て魔族が介入してきおった。奴らの目的もクリスタルのようじゃな」
「――っ! もしかして、死んだSランクってのはっ!」
元の世界で最も有名な軍人の1人っ! 悪名高くも絶対的なカリスマを以て世界に名を轟かせた、その名前はっ!
「『虹色のアドルフ』、彼もまた転生者の1人だったのであろう」
「……まずいな」
魔神を討伐するため、神から強力な力を貰った転生者。もちろん、名前を借りた別人だろうけども。
彼が欠けてしまったこともそうだが、彼を討伐し得る魔族がいるっ! これが非常にまずいっ!
「何としても、先に転生者を見つけなければっ!」
「そうじゃな。恐らく敵に転生者かどうか調べる術はないだろうから、冒険者ギルドの情報からSランクをしらみつぶしに当たっているのじゃろう」
その可能性が高そうだ。こうなれば先回りして――。
「号外っ! リビランスにて、新たなSランク冒険者とそのパーティが誕生しました!」
未だかつてないほどの猛烈な嫌な予感とともに、その声は耳に届いた。
「パーティ名は『おうまさん』! 並びにそのメンバー全員Sランク認定っ!!!」
「~~~っ!!!」
何も考えられないっ! ただ浮かぶのはあの4人の顔っ!
どこまでも優しくて、どこまでも気のいい奴ら! 許さないっあいつらが傷付けられるのは許せないっ!
「待てっそれは『転移』か!? リビランスに行くのか!?」
「――っ!」
「『転移』は場所への移動じゃろう!? 彼らのいる場所に当てがあるのか!?」
「――っ!」
そんなもの必要ないっ! しらみつぶしに探すだけっ!
ブッディ、ヤハ、シヴ……アラアラ。
待ってろ、絶対に守ってやるっ!
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