第63話 かくれんぼ
「やぁ、こんにちは」
暇を持て余した俺は、かくれんぼをすることにした。
先日相対した青い肌の生き物。
あの独特な、纏わりつくような殺意とそれを押し殺そうとする理性。そして歓喜、破壊衝動、虚無、絶望、羨望、希望。
発する魔力に見える色々な感情。今まで会った誰よりも力強く渦巻くそれを見た時、俺の魔素への理解も一歩進んだ。
もしかしたらエリーに見えているのもこれなのかもしれない。
ともあれ、ここまでわかれば後は作業のようなもの。
俺もフードを被り、高速で飛行し、索敵の魔法を使い、しらみつぶし。
多少時間はかかったが、見つけた。
「何ダオ前ハ!」
「聞き取り辛いから、余計なことは喋るなよ。お前、今日この辺でSランク冒険者襲ったか?」
「……ソウダ! 我ハ人間ヨリモ強イッ! オ前モ同ジ目ニ遭ワセテヤロウカ!?」
嘘だな。こいつの魔力には、焦燥とそれをどうにか抑えようとしている様子が見て取れる。
こいつの他に仲間がいる可能性が高い。そもそもいろんな場所にいる冒険者が襲われている訳だしね。
考えられるのは、『転移』の使い手か、集団の犯行。昨日のこいつを見る限り、前者ではあるまい。
「余計なことは喋るなって。ほら、俺とお前の仲だろう?」
「ナッ!? 貴様ハ昨日ノッ!」
フードを取って顔を見せてやる。イケメンだからって惚れちゃだめだぞっ!
「俺さ、お前のせいで結婚することになっちゃったんだよね。それでこんな面倒なことをしてるって訳」
「!? 何ダッ何ヲ言ッテイルッ!?」
訳が分からんよね、俺も未だによくわからん。
しかし、1つだけ確かなことがある。
「嫁の国で悪事を働く奴は見捨てておけんってこと。何、お前は愛のキューピッド。優しく拷問してやるから安心しろ」
「――っ! ナ、舐メルナァッ!!!」
◆◇◆◇
「こいつらは魔族、仲間の数は十数人。目的は強い人間を見つけ出し、力を試すこと。さらに、とある物を持っていれば殺してでも奪うこと」
「おいおい……お前、ついさっきまで俺と……いや、可能なのか。さすがだな」
青い肌の不審者、自称魔族を連れてジョージを訪ねる。ついでに今回のSランク襲撃犯も添えて。
「で、とある物ってのは?」
「これだ」
そう言ってクリスタルを取り出す。
SSランクダンジョンを始めて踏破した時に得た物。何やら不安な気持ちを掻き立てる謎の物体。
「……これは、何だ?」
「わからん。ダンジョンで拾ったんだけど、用途がわからん。こいつらもそこまでは知らないそうだ」
いつまでも出しておくのは不快なのでさっさと『時空間収納』付の指輪にしまう。
「その指輪は……いや、それよりも。冒険者ギルドに通達! こいつらの特徴と目的を知らせろ!」
「はっ!」
傍にいた兵士が駆け出していく。
「しかし……魔族か。おとぎ話の住人だぞ……」
「俺も初めて見たよ」
魔族。数十年に1度程度、稀に発見されることがある。いずれも強力な魔法を使い、破壊の限りを尽くす。
文献に語られるのはそれだけ。後はおとぎ話で悪役として描かれる存在だ。
「首謀者の名は? お前らに指示を出している奴だ」
しかし、今回は違う。文献にあるような稀人ではない。
明確な目的を持って組織的に動いている。そこには強い意志を感じる。
「……我らの王、『ゼア』様……くっ! うおおおおおおおっ!」
「なっ!?」
「ジョージ様っ! お下がりください!」
突如、精神魔法の影響下にあるはずの魔族が叫び出す!
「ゼア様っ! 我らにっ! 影界に栄光をーーーっ!!! ガフッ」
そう言って舌を嚙み千切る魔族。
彼を回復させるのは可能であろう。しかし、これ以上の情報を渡してなるものかと精神魔法を打ち破り、強い気持ちを持って命を絶った者に対する侮辱ではないか、そう思わせられる。忠誠、覚悟。彼が最期に纏っていたオーラからはそれらを強く感じた。
「まぁ、『回復』するけどね――っ!?」
回復魔法が効かないっ!?
「……どうだ、治せそうか?」
「……無理だ、全く手ごたえがない。こんなこと初めてだ……」
そして遂に魔族は事切れてしまった。別の魔族を見ると同様に自死していた。
「……こいつらは丁重に埋葬しろ。持っていたものも纏めてな」
「はっ! ……よろしいので?」
「敵ながら、忠義に生きた立派な戦士だった。これ以上の情報は必要ない」
「はっ!」
「勘違いするなよ? 情けをかけるんじゃない! 俺たちの守るべきもののため、誇りを賭けて全力で戦うのだ!」
「「「はっ!」」」
ここまでの忠誠を誓わせる『ゼア』、魔族の王。そしてクリスタルに影界。
何を企んでいる? 一体何が起ころうとしているんだ……?
「ジョージ様っ! 大変です!」
冒険者ギルドへと伝達に行っていた兵士が慌てた様子で戻ってきた。
「クニッカノードの国で……Sランク冒険者が殺されたとのこと!」
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