第62話 やるときはやる男

「「ぬぼー」」


 祝宴から1夜明け、今はこうしてボーっとしている。

 否、釣りをしている。


 あの後クネクネで驚かれたり、必殺の腹踊りを披露したり、ジョージが一気飲み(危ない!)したり……。

 遅くまで飲めや歌えやの騒ぎだったりしたにもかかわらず、朝、いやまだ朝にもなっていない時間。ジョージに叩き起こされた。


 そして馬を走らせること小1時間。

 たどり着いたのは海。そして渡される竿。つまり、釣り。


 こいつ……昨日は一番飲んでたくせに、元気すぎるっ。


「ぬぼー」

 いや、そうでもないな……。

 酒の飲み過ぎでボーっとしてるのか眠いからボーっとしているのか、その両方か。


「……俺ぁよう、酒飲んだ後の回らねえ頭で釣りをしながらボケっと過ごすのが一番好きなんだ」

「……あー、確かに。なんかいいね」

 だけどめちゃくちゃ危険だからね! マネしちゃだめだぞ!


「わかるか?」

「あぁ……」


 全く釣れないし、他にやることあるだろうって感じだけど。

 時間を贅沢に使ってる感じとか、朝日が骨身に染みてく感じとか。悪くない。ちょっとコーヒーとたばこください!


「……」

「……」


「……妹はよぅ……俺や父を見て育ったからか、逆にめんどくさいこと考えてて余計な苦労をよくしている」

「……」

「だけど……いい子だ。すっごくいい子だ。だからさ……幸せにしてやってくれよ」

「……おう」




「……さて、眠気もどっか行ったし、戻るか!」

「結局1匹も釣れなかったな!」

「かっかっか! 酔っ払いに釣られてやるほど安くはないってよ!」

 釣果は0。コストは餌代。過ごした時間はプライスレス。


「あー、戻る時間短縮できるけど、どうする?」

「あん? そりゃできるならそうして欲しいが……どうするんだ?」

 返答を待って、ゲートを開く。


「……お前っ、こりゃ……」

「転移ゲート。軍事利用は勘弁な! めんどいし」

 そう言えば軍の総司令官だとか言ってたな。まぁ、大丈夫だろう。


「……妹は大した奴を捕まえたみてぇだな……」


 ◆◇◆◇


「司令官! どこに行ってたんですか!? 大変なことが起こってるんですよっ!?」


 郊外に飛び、城下町を馬で戻ってる最中に慌てた様子で声を掛けられた。

 確かに騒がしく感じていたが……。


「何だ、どうした!」

「冒険者狩りです! 領地内にいたSランク冒険者が襲われました!」

 そう言えば、そんなこともあった! 俺と姫様を繋げた愛のキューピッド!


「目撃者によると、下手人はフードを被っていて顔はわからなかったそうですが、大柄で片言の言葉を話していたとのことです!」

「……襲われたものは?」

「命に別状はないとのことです!」

「そうか、それは良かった。領地内の他のAランク以上の冒険者がどこにいるか調べろ! ギルドと協力して保護に当たれ!」

「はっ! しかし、Aランク以上となるとかなりの人数が。それに予算も……」

「金は惜しむな! 人こそ宝、できる限りのことをやれっ!」

「はっ! かしこまりましたっ!」


 さっきまでとは打って変わり、戦う男の顔をするジョージ。

 こういう切り替えができる男ってモテるよねー。


「時にアレク。お前の冒険者ランクは?」

「Bだぜ! もうすぐAランクだ!」

「……その実力で、マジかよ。しかし保護対象外だ……」

「……」


 あれ? 冒険者狩りにビビってたけど、俺ら対象外か……?

 現在襲われているSどころか、Aにすらなってないん……。


「そっか~……」

「……まぁ、しばらく王城でゆっくりしとけ」


 ◆◇◆◇


「はてさて、どうするべきか」


 自室あてがわれた部屋に向かいつつ、思考に没頭する。

 1、俺らには関係ないからと騒ぎが収まるまでここで退廃した生活を送る。

 2、俺らには関係がないからとハンダートで退廃した生活を送る。

 3、俺らには関係がないからと――。


「……えー、そんなに愛人がいるんですかーっ!?」

「えぇ。坊ちゃまの女癖の悪さには覚悟と強い態度を忘れてはいけません」

「……あれ、私には全く興味がなさそうでしたけど……あれ?」

「……」

「ちょっと! どうしてそこで黙っちゃうんですかっ!?」


 ……人がまじめに考え事してるってのに。なんて会話をしてるんだっ!

 部屋の外にまで聞こえてるぞ!


「だけどアレクが一番好きなのは私ですわ! それだけは確かですの!」

「……このように、エリーお嬢様はちょっと、かなり、とてもおバカであられます」

「ムッキー、ですわ!」

 そこがまた可愛いんだ、じゃなくって……どうしよ、部屋に入りにくい。


「ふふっ、お2人は仲がいいんですね」

「同意しかねます。が、アンジェさんとは仲良くなれそうです」

「アンジェもこれから仲良くなるのですわ! ってメイさん! それはあんまりですわ!」

「……はい、よろしくお願いします、ね」


 ……入る必要はないか。


 さて、そうなると暇だな。暇を持て余してるな。そうだ、いい暇つぶしを思いついたぞ!

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