第60話 婚約者(まだ名前も知らない)

「つまり、この国の王を八つ裂きにすればいいんですね?」


 事の顛末を説明した。メイちゃんが怒った。そりゃそうだ。


「ちょっと待ってください! 確かに頭ぶっ飛んでる話ですが! 気持ちはわかりますが!」

「あなたがそれを言いますか?」

 ね。


「ち、父は私を監視役にしたんだと思います!」

「? 八つ裂きでは足りない、と言う事ですか?」

 さすがメイさん! 破壊神を破壊する乙女!


「ちっちがっ! そういう意味で言ったんじゃ――」

「では言葉は良く選んで使いなさい。さもなければ――」


 チョロチョロチョロ~。


「……」

「……ぅぐっ、ヒック……」

 わぁ、限界突破しちゃったね!


「ご、ごめ! ちょっと飲み過ぎて漏らしちゃった! お姫様はまた後で来てよ!」

 精神を落ち着かせる魔法をかけ、退出を促す。


「まぁ、アレクったら恥ずかしいですわ! しょうがないから手伝ってあげますわ!」

「あ、あぁ。助かるよエリー」

 察しが良く、そして手伝ってくれるエリー。

 ……本当は誰が漏らしたかわかってるよね? ね?


「……アレク様、私……」

 申し訳なさそうに俯いているメイちゃんをギュッと抱きしめる。


「いいんだ、いいんだよ。メイちゃんが俺らのことを思ってくれてるのはわかってるから。まぁ、今回は話だけは聞いてやろうよ」

「アレク様……申し訳ございません、申し訳……」

「アレク! おズボンとおパンツが汚れたまま抱きしめてはいけませんわ! 先にお着替えしなきゃですわよ!」

 ……え?


 ◆◇◆◇


 さて、報酬が無くなるだけで済むか、処刑となるか。

 先にリョーゼン国を脱出しておくか、なんて考えていたところ――。


「さ、先程は失礼……致しました」

 お漏らし姫がやってきた。

 冗談ではなく、最低でもお供を連れてやってくると思ったが……ふむ。


「おはっ、お話をさせて頂いても、よ、よろしいでしょうか……?」

「こちらこそ、先程から無礼なこと甚だしく、大変申し訳ございません」

 どうやらこのお姫様は誠実を尽くし、我々と向き合ってくれているようだ。ならば礼には礼を、誠実には誠実を。


 と思ったけど、よく考えたら先に無礼なこと(オマケ)してんのはあっちだった。これでおあいこだね!


「――っ」

「ま、お互い様ってことで許してよ。それで、何を話してくれるんだい?」

 逆に萎縮させてしまったようなので、軽い感じで問いかける。


「わ、私をあなた様の婚約者に、と言う事ですが……監視の意味合いは確かにあると思います。で、ですが決してあなた方の不利益を招くためではありません!」

「と言うと?」

「ち、父はお人好しだと言われますが、決して無能ではありませんし人を見る目は確かです。アレク様の類まれな能力に気付いたのだと思います!」

「お、おう」

「報酬に金銭を要求するのではなく人材を望み、そしてその人材を必要とする環境をその若さで既に有している。恐らく、国の第1王女を差し出してでも繋がりたい、それが国の発展につながる……」

 なるほどなるほど……ただのお人好しそうなおっさんでも、一国の王。裏ではそのような思惑があったのか……。


「……と、かっこよく言えばこうなります」

「ん?」

「多分、父の頭の中では『なんか有能そうだから娘を幸せにしてくれるはず、ついでにリョーゼン国もなんやかんや発展する』と思ってるんだと思います……」

 ……あ、そう。緩い感じなのは間違ってないのね。そんなんで国の運営大丈夫?


「こんな父ですが……民や臣下には慕われています。どうか、父の願いを聞き入れてはくれませんか……?」

 ……あれ? 俺への褒賞の話から何で王様の頼みを聞く話になった?


「お願いします、お願いします」

 ……えー。


 まぁ、いっかぁ。

 本当は好きじゃないけど快楽には勝てなくて泣く泣く受け入れてしまうプレイをしてみたいと思ってたとこだし! 婚約者だからセーフ!


「坊ちゃま、下衆いことを考えているところ申し訳ありませんが、私のことはよろしいのですか?」

「――っ、も、もちろんあなた達の邪魔をするつもりはないです――」

「あ、そっかぁ。メイちゃん、見せて」

 ナチュラルに頭の中を読まれていることは無視して、メイちゃんに獣人の特徴を隠す魔道具を外すように促す。


「――っ! じゅ、獣人……だったの……?」

「はい。どうですか? これでもあなたは婚約したいと思いますか?」

 当然、どちらかを選べと言われたら秒でメイちゃんを選んだ後問いかけてきた奴をぶっ殺す。


「か、可愛い……」

「……そう、ですか」

「わかりますわ! それにこのふわふわしたしっぽなんてとっても気持ちいいんですの! 触ると叩かれますけど!」

 まじめな話に頑張って黙っていたエリーが、急に喋り出した。

 よく頑張ったね、よしよし。


「な、なんで私の頭を撫でるんですの!? 今の流れはメイさんのしっぽでなくて!?」

「つい」

「ふふ……し、失礼しました。コホン、元より我がリョーゼンでは差別は許されておりません! もちろん父も私も同様です!」

 そうなのっ!? 数か国渡り歩いたけど、割と初めてかも!


「近頃あまり見ませんでしたが……たまに冒険者の方で獣人の方も見かけますし、民も問題なく受け入れています!」

「ふむ……」

 ここはハンダートの近く、自然と足が向かったか、あるいは攫われ尽くしたか……。


「それに、王族の仲間入りするのですから、妻を何人娶ろうが問題ありませんし!」

「? アレクは元から王族ですわ! あ、元王ぞ――」


 誰だこのふわふわお嬢様に喋る口を与えた奴はーっ!!!

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