第58話 リョーゼン国のお姫様
「あの~すみません、もう少し静かにして頂けませんか~?」
周囲に10人ほどの兵士が死屍累々と言った感じで倒れている。
馬車の真ん前、1人のフードを被った人物と、女騎士が戦っていた。いや、女騎士が障壁を張り、何とか持ちこたえている様相だ。
「――ッ!?」
「だっ誰かは知らないがっ! 助けてくれっ!」
えーどーしよっかなぁー。
「我々はリョーゼン国の者! 報酬はたっぷり弾むっ! 頼むっ!」
ふむ。金。わかりやすくてよろしい。しかし具体的でないのは頂けない。
「『上級氷魔法』(アイスガ)。さて、交渉に入ろうか」
氷魔法でフードの人物を凍らせ、女騎士との交渉に――っ!
パリンッ!
「オマエ……強イナ? 俺ト戦エッ!」
だいぶ手加減していたとは言え、アイスガをレジストされた! こいつなかなかやるな……。
「今こっちの人と会話してるからちょっと待ってて」
仕方がないので障壁を張り、馬車側とフードとを分断する。
「クソォッ! 堅イッ!」
「なっ! 私の障壁よりも堅いだと!? しかも無詠唱!?」
ほほう、これはチャンスだ。報酬を増やす。
「ご覧頂きましたように、私の魔法はかなり強いものであると自負しています。ちなみに回復魔法も使えますよ。さて、如何致しましょうか?」
まだ命はありそうな、倒れている兵士たちを助けることも仄めかす。致命傷を負っているものはいないようだし問題ないだろう。
「……彼女はリョーゼンの王族だ。かなりの報酬を約束しよう」
リョーゼンの王族、ね。こりゃラッキー! ハンダートをとるか金をとるか、悩むねぇ!
「困りますよお客さ~ん。具体的に示して頂かないと!」
「……な、ならば……元より危なかったこの命、身体。お前に捧げよう……姫様を守ってくれるのなら、好きにして構わないっ!」
ふむ。
鎧の上からでもわかる鍛え上げられた体、しかし出ているところは出ており、女性的な魅力も兼ね備えている。
確かになかなか素敵な提案である。
……。
「それも魅力的な提案ですが、結構です。それよりも……」
しかし今の俺は『キレイ』なのだ!
「ならば! 私のことを好きにして構いません! どうか兵たちの命をお救いください!」
「姫様っ!?」
「いえ、結構です」
馬車の中から王族的オーラを纏っている女の子が声を上げる。
「……何で私には即答なのですか?」
魅力を感じないからゲフンゲフン。
「……私は無理矢理女性を好き勝手するのは好みませんので」
「ヒルデの時は悩んでいたくせに……」
この女騎士はヒルデと言うらしい。
「姫様、いけません! 私たちのことよりも御身の無事を最優先にしてください!」
「……それで兵たちが助かるのなら、是非もありません」
……ううむ、姫様に興味は全くないんだっての。まぁいいだろう。
「では、私と王との面会を取り付け、そしてその際に命を救われた事を話す、それで如何ですか?」
「……賜りました。それで彼らが救われるならば……」
まぁ、無理難題を要望する訳ではないから安心しなよ。
「オイッ! イイ加減障壁ヲ解イテ俺ト戦エッ!」
「お待たせしました。話合いは終わりました」
障壁が破れない時点で力の差は明白だと思うんだけど……。
「そして戦いは終わりです! 『上級火魔法』(エクスプロージョン)」
「――っ!」
先程よりも魔力を込めて派手な爆発の魔法を使う。今度は抵抗できず、遠くに吹っ飛んだ。爆心地からは外したし、運が良ければ死なないだろう。さすがに良く事情も知らないのに殺しはしたくない。
しかし……青い肌? あいつ、人間ではないのか?
「す、すごい……あっという間に……属性も2つ以上……」
「Sランク冒険者でもあるヒルデが適わなかった相手に……」
へぇ、この騎士さんSランク冒険者なんだ。あんま強くなさそうだけど。
「約束の件、どうぞお忘れなく」
ニヤッ。
「ひゃっひゃいっ!」
「……ぐぅ」
力も見せられたことだし、これでいいだろう。
◆◇◆◇
「そうかいそうかい、お嬢ちゃんはリョーゼンのお姫様なんだねぇ」
俺たちはリョーゼンに向かう婆の護衛任務中、お姫様たちの目的もリョーゼンへの帰国。そこまではわかる。
なぜ、同じ馬車にいるのか。
「今度私の息子が店を持つそうだからねぇ、よくしておくれよぉ~」
「ふふ、かしこまりました」
そしてこの婆、無敵か?
「私はてっきり、また指輪が増えるのかと思いました」
「ははっそんな……はははっ」
いやいや、ハンダートのために頑張ってきたんだって!
事情を説明したときのメイちゃんの顔ったら……怒った顔も可愛い。
「リョーゼンは小国ですが、民の顔が明るいのが自慢です! 国内で得た利益のほとんどは民に還元されているのですよ!」
「ほっほっほ、それは楽しみですのう」
……あれ? あまり報酬に期待ができなそうなワードが飛び出てきたぞ?
「資源や収入の中心はSランクダンジョンですので、そこを中心に賑わっています!」
「冒険者が多いのか。治安とか心配だなー」
「そこは我々軍が……頑張って治安維持に……務めさせて頂いて……」
最初は意気揚々と、だんだん声が小さくなっていくヒルデさん。そんなに俺が怖いかい? いい傾向だ。
「あまり素行の良くないことが続くと国外退去とさせて頂いていますので、問題はないかと」
自信あり気に、そこそこのレベルであろう冒険者を相手にできていると言う。兵たちの練度はいい様子。
しかし、それ故に気になるな、さっきのあいつ。その彼らをものともせず、壊滅に追いやった青いあいつ。
あれから襲ってこないから放っておいてるけど。
「……さっきのに心当たりは、本当にないのか?」
「えぇ……突然襲ってきて、俺と戦え、と」
「不意打ちでなければあんな奴に後れを取ったりはしませんぞ!」
ふむ……あそこまで窮地に陥ったのは不意打ちだったからなのか。
まぁ考えていても仕方がない、か。
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