第54話 エルフ(傲慢)

「助けてー! 誰か! 誰でもいいからっ!!!」


 穏やかな昼下がり、切り裂くような悲鳴が聞こえる。


「――っ、やっぱり人間……っ!」

「構わないわ! お願い、私たちを助けて!」

 現れたのは、見たこともないほど美しい2人の女性。透き通るような淡い金色の髪、長い耳、そしてその美貌。

 恐らく、森の至宝と謳われている――。


「エルフ、ですわ!」

「どうしてこんなところにいらっしゃるのでしょうか……」

 エルフ、人前には滅多に現れない。なぜなら、その美しさに目が眩んだ人間に狩られるからだ。

 それにもかかわらず姿を現したのはよほどの困りごとか、あるいは……美人局!


「ヒトの子よ、お願い! 私たちを助けて!」

「お礼なら何でもしますぅーっ! だからっ!」

 ん? 今何でもって?


「よし、なら君らは今から俺の聖奴隷だ!」

 隷属魔法、発動!

 聖なる奴隷、つまり聖なる俺に仕えし聖なるナニカを担う聖なる使徒のことだ。変な意味はない。


「えっちょっとちょっとぉー!?」

「くっ! やはり人間は卑劣っ!」

 何やら2人がわめいてるが、もう遅い。


「坊ちゃま、判断が早すぎます……」

「せいどれいってなんですの?」

 何だこいつ、ピュアピュア貴族のピュアッピュアお嬢様か?


「聖なる奴隷、つまり聖なる俺に仕えし聖なるナニカを担う聖なる使徒のことだ。変な意味はない」

「聖なる奴隷ですの! それはすごそうですわ!」

 おう、すごいんだぁ。


「~~~っ! それでもいいですぅー! お願いだから助けてください!」

「私たちの村が魔物に襲われてるの! あと私は解放してっ!」

 どさくさに紛れて何か言ってる。


「えー、まぁ、うん。いいけど」

 面倒だしこのまま立ち去るのも有りかなとは思ったが、さすがに人道にもとると思い踏みとどまる。


「エリーとメイちゃんもそれでいい?」

「坊ちゃまの行く道が、私の居場所です」

「聖なる奴隷さんたちのために頑張るですのー!」

 それ、村の人達には言わないでね? 絶対ややこしくなるから。




 2人の奴隷の案内により、エルフの村へとたどり着く。

 そこでは今まさに魔物、オークの群れに襲われていた。


「ブヒィィィッ!」

「ブモッブモォーッ!」

 オークの上位種と思われる豚が何十匹と溢れかえっている。


「みんなーっ! このヒトが助けてくれるって! だから頑張ってー!」

「みんなが助かったら今度は私たちを助けてー!」

 おい、今言うなよそれ。そんなこと言わなくても後で解放してやるつもりだったのに! 嘘じゃないし!


「ヒトだって!?」

「オークと似たようなもんじゃないか!」

「た、助けてぇーっ! 犯されるぅっ!」

 案外余裕ね。まぁ、似たようなもんなのはそうかも知れない。


「『アイス。エイジ』!」

 殺傷力にかけるが、色々と敵の動きを鈍くする魔法。

 入り乱れてる戦場にはちょうど良い。


「キレー、ですわ……」

「キレー……」

「キレーだな……」

「「「ブヒッ!」」」


 約1名、2度目だと言うのに心を奪われているエリーがいる。


「はっ! たぁっ!」

「キュッキュッ!(おにくっおにくっ♪)」

 その隙にメイちゃんとクネクネがオーク共を殲滅していく!


「お、おぉ……」

「本当に……ヒトが……?」

「助かる……我々は助かるぞぉっ!」


 ◆◇◆◇


 数分後、無事にオークの殲滅完了! 何匹かは綺麗に捌けたので、今日のご飯、これで決まりっ!


「助けられてやったぞ、ヒトの子よ!」

 おう、どういたしま……ん?


「我々を助けることができて、貴様も助かったであろう!」

 ……んん?


「ヒトの子よ、感謝したまえ!」


 ……?

 …………?

 ………………?


「おいヒトの子! 早く私の隷属魔法を解け!」

「何っ!? 隷属魔法だと!?」

「やはりヒトっ! 何て下劣なっ!」

「ここから出て行けー!」


 ……。


「「「「……」」」」


 追い出された。


 言葉が出ない……。

 何だあれっ!? 何だあれっ!?


「エルフはその美しさや能力の高さから傲慢な種族とも言われることが……まさか、あんな感じだとは思いませんでしたが」

「ムッキー、ですわ!」

「……一応、善意で戦ったんだけども……えぇ~……」

 確かに、隷属魔法はやりすぎだったかもしれん。でも美人局とか怖かったし!


「もういいや、帰ろ……」

「ちょっと待って下さい~!」

 この声は最初に助けを求めてきた奴だ。解放してない方の。忘れてたって言うか、解除する間もなかったんだけど。


「お、お願いです! 村の女性が全員連れ去られちゃったみたいで……助けてください!」

「……」

「坊ちゃまは酷くお疲れのようですので、私が代弁します。『殺されたくなければ、消えろ』とのことです」

 メイちゃんこわっ! それ自分の気持ちだよね!? 俺をダシにしないでくれる!?


「ひぃーん! 本当にお願いですぅぅ~! 村の人達のことは謝りますからーっ!」

「……どうせ助けても、先程のようなことを言われるだけなのでは?」

 ほんとね、助けたハズの相手に感謝を求められたのなんて初めてだよ。

 怒りを通り越して呆れるのをさらに通り越してもう寝たい。寝て忘れたい。


「ああいうのは男性だけなんです! 男性はみんなあんなだけど、女性はそんなことないんですよぉ!」

「あんたといたもう一人の子は? それに『犯される』って言ってたやつもいたけど?」

「? もう1人っていうのは弟のことですか? それとその方は男性ですよ!」

 いやいやいや、さすがにいくら美人ぞろいのエルフだからってそんな勘違いをする訳が……。


「坊ちゃま、さすがに失礼では?」

「アレクったら、また気付かなかったんですの?」

 ……逆に何で気付けた!? 気付いてたんなら性じゃなかった聖奴隷のくだりで言ってよ!


 まぁいいや!


「よしっ、行こう!」

 ニルヴァーナへ!

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