第53話 『時空間収納』
「お、まぁまぁいけそう!」
実に無駄な時間を過ごした後の午後。
時の世界に入門したついでにサクッと誰もいないところまで飛んで『時魔法』を試す。
まぁ、よく考えたらあれは時が遅くなったんじゃなくて意識が加速したんだよなぁ……。
ともかく、以前は魔力枯渇&5年近く溜めた魔力塊を使い果たしてようやく12時間の『回帰』が成功した。
しかし今回は自前の魔力だけで収納したものの時を止める『時空間収納』を完成させられた。体感でおよそ9割5分の消耗だけど。だいぶ成長したんじゃなかろうか。
「再使用は……よかった問題ない」
これで使うたびに魔力を使うとかだったらコスパ悪すぎる。良かった良かった。
「さて……外的魔素を使ってみるか……」
自身で魔法として使っているものとは別に、今度は指輪型のアイテムとして『時空間収納』を付与してみようと思う。
指輪はSランクの魔物から取れた魔石をさらに圧縮したものだ。ヘカトンさん、頑張ってください。
そして魔法を発動させる。
まるでただ一つの掃除機のように凄まじい速度と音で周囲の魔素を吸引していく。
「おぉっ! いけた……か?」
時間はかかっているが、問題なく……いや、なんか周りの魔力が薄くなってる気がする。
「……」
し、しかし完成は完成だ! こっちにクリスタルを移して、と。
……。
「も、もう1つだけなら……」
あの笑顔のためなら……何したって許される気がする!
再び魔法を発動、先程のように猛烈な勢いで魔素を集め出し――。
「よし、かんせ――っ!?」
その瞬間、真空管が割れて空気がなだれ込むような、急激な風が巻き起こる。
同時に数多の稲妻が発生し、縦横関係なく奔る。
火柱が、氷塊が、嵐のなかで生じては弾けている。
何が起こってるのかわからない、ただ尋常ではないことが起こっているのは確か。
「(人のいないところでよかったなぁ……)」
嵐に巻き込まれつつも、どこか呆然とした気持ちで呟くのだった。
後に知ることになるが、マナ災害という広範囲において大量かつ急激な魔素の消失(使用)で起こる現象のようだ。
魔素のご利用は計画的に……。
◆◇◆◇
「こ、これが『時空間収納』が付与された魔道具、ですの……」
わなわなと震えながら指輪を手に取るエリー。
「結構頑張ったから、大切に使ってね!」
主に生還するのが大変でした。しばらくは控えなきゃなぁ~。
「ありがとうですわ! 一生、いえ死んでも大切にしますわ!」
「いやいや、エリーの方が大事だから……無くしたらまた作るからさ」
「うぅ、アレクぅ~! 大好きっ!」
ちゅっ!
おぉ、同じこと7歳の時にもされたわ!
まさか成長していない……? いや、そんなはずはない! エリーだってここんとこ頑張ってるし!
……いや、やはり成長していないな。
「なっ何ですの胸をジロジロ見て……アレクのえっち! ですの! でもどうしても見たいって言うんなら……ですの……」
おぉ、何だか今日イケそうな気がするーっ!
「……(ジトー)」
だめだ、うちの家政婦がめちゃくちゃ見てる。ジト目で。
「メ、メイさんには今度……」
「……(ジトー)」
「……」
ちゅっ!
「な、んですか急にっ!」
照れてる照れてる。チョロい。
「例えキスしておけば誤魔化せると思っていたとしても、嬉しいのは嬉しいです」
バレバレだった……成長していないのは俺の方か……。
◆◇◆◇
その後数週間はSSランクダンジョンの周回だったり、メイちゃんへ指輪を送ったりと充実した日々を送った。
そして今は森の中にいる。
「アレクー、まだですのー?」
「まだまだじゃないかな」
かれこれ数日かけて森の中を移動している。今回の目的はSランクの魔物、オークキング。
というのも、いい加減冒険者ランクを上げないとせっかくダンジョンでいいものを拾ってもリビランスでは売れないからだ。
ほんとにクソめんどくさい制度だ。
そこで今回ダンジョン外の魔物を討伐してランクを上げようというもので、選ばれたのがオークキング。ゴブリンよりは強いけど、同様に個の強さより数や脅威となる魔物だ。
けっして受付のお姉さんに頼まれたから引き受けた訳ではない。
「アオーーーンッ!」
そんなことを考えていると、犬の遠吠えが聞こえた。
「坊ちゃま、フォレストウルフの群れです」
「おぉ、何だか逆に新鮮!」
ここしばらく巨人だとか恐竜とかそんな強敵と戦ってばかりだったから、何だか和むわー。わんわん!
「わんわんですの! 可愛いですわー!」
「……一応、フォレストウルフの群れはBランク相当。並みの冒険者は犠牲を覚悟するものだそうですよ」
Bランクと言えば、昔デール君が苦戦してたなー。今頃何やってるんだろ、デール君。
「キシャー(えーい)」
道中の雑魚担当のクネクネが上手いこと糸でからめとり、ウルフを粉々にする。何だ粉々って。
「あっちゃー、また失敗だ。これじゃ今日のご飯も『店主の気まぐれソースのパスタ』になっちゃうぞ!」
「キュゥ……(ごめんねぇ~……)」
落ち込むクネクネを撫でながら、再び移動する。
せっかくの冒険だもの、楽しんでいきたいからと徒歩で進み、食事は道中で探し、寝床もその場で用意する。
そう思ってはいるが、お肉になかなかありつけないでいた。理由は敵が弱すぎるから。土と肉の合い挽きハンバーグはさすがに嫌だ。
なので今のところメイちゃんの『時空間収納』に入っている料理しか食べられていない。アツアツで美味しいけども。
「助けてー 誰か! 誰でもいいからっ!!!」
穏やかな冒険道中に似つかわしくない悲鳴が聞こえた。
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