第52話 時の世界に入門(勘違い)
「エカチェリーナさん、でしたっけ? とっても臭いですの~……」
あの後どうにか落ち着いて、エリーの所に戻ってきた。
やはり俺にはエリーしかおらん!
「こらエリー、失礼だぞ。年を取ってくると、たまに漏らしちゃうのはしょうがないんだ」
「お前の方が失礼じゃぞ、マジで。そもそもこの臭いは――いや、何でもない」
杖の先を緑色に光らせ、エカチェリーナに向ける。杖と言うか、さっき拾った棒だけど。
「それで? 本物のエカチェリーナさんはどこだ?」
「……」
じじいが黙ってネックレスを見せてくる。
「姿を惑わす魔道具じゃよ、SSランクのな。まさか、バレるとは思わなかったが……」
「バレバレですわ! アレクったら、こんな怪しい人について行くんですもの、心配しましたわ!」
……エリー、気付いてたんなら教えて欲しかった。でなければあんな目に……いや、止そう。お門違いだ……。
「で? 何の用だよ。まさか、アレだけじゃないんだろ?」
「よくぞ聞いてくれた! 実はな――」
「坊ちゃま、探しましたよ」
おっと、ここでメイちゃんが合流。
「ほほう、これはなかなかの別嬪さ――」
そう言いながらじじいは右手をメイちゃんのお尻に伸ばそうとする。
確かにメイちゃんはとても可愛い。最近はその身体能力の強すぎる面が目立っているが、メイちゃんの一番いいところはその可愛らしさだろう。
もちろん見た目のことではない。見た目も可愛いが、内面がとっても可愛いのだ。
メイドと言う役職に就いたことで普段はクールに振る舞っているが、本当のメイちゃんは『ふぇ~ん』と言っていたころとあまり変わっていない。
何だかんだいつも俺に尽くそうと必死に頑張ってくれている。あの類まれなる身体強化を習得できたのも、あくまで俺のためとめちゃくちゃいじらしいことを言ってくれている。すっごく可愛い。
こんなことを言うとメイちゃんは恥ずかしがって怒るが、可愛いものは可愛い。
はて、俺はあのじじいのセクハラを止めようと必死になっているはずなのに、何でこんなことを考えているんだろう。
と言うか俺の思考能力ヤバ過ぎじゃない? じじいが手を伸ばすほんの少しの時間でこんなにも考え事できてるなんて。
いや明らかにおかしい時間がたつのが遅すぎる気がするっていうかじじいの手が全く動いていない! 音も全く聞こえないひどく静寂な世界。
動いているのはメイちゃんの手だけ。ひどくゆっくりだが、しかし確実にじじいの手を阻止せんとその手刀を……手刀!?
わかった、わかってしまった。これは一種の走馬灯。
めちゃくちゃヤバいことがこれから起こるそれに対して何かしら対策を打たなければヤバいことが起こる。ヤバい。
確かにセクハラは忌むべき行動、特に大事なメイちゃんを辱めようと言うのなら万死に値するするけどもさすがにこんな往来で粛清するのはヤバい。
殺るなら誰も見ていないところでやるべきだ。
そう思い急いで(実際にはスローモーションだが)メイちゃんの手刀を止めようとして考えを改める。その手を受け止めてしまえば俺の手がヤバいことになる。
これはもうあきらめよう止めるのは無理だ。方法がない。
そしてメイちゃんの手刀はじじいの手をみるみる切り落とす。手刀で切れるってなんやねん。
そんな呑気なことを考えている場合ではない。じじいの手から血が噴き出る前に光魔法の『極大回復』を使用する。
こうしてみると俺の魔法の発動もかなり早いのだと実感する。
そしてゆっくり、ゆっくりと手刀が振り抜かれ、しかしじじいの手は千切れることなくそこに在ることを確認する。
「ハァ……ハァ……」
そして音が戻って来て……自分の呼吸音がやけに響いて聞こえた。
そう思った瞬間、顔から一気に汗が噴き出る。
これが……『時』、図らずも俺は『時』の止まった世界を疑似体験したようだ。
「――ん、じゃ……のう…………」
そしてじじいからも大量の汗が噴き出る。今にも死にそうな顔をしている。それは元からか。
右手を見つめ、握ったり閉じたりを繰り返すじじい。
「……コヒュー、コヒュー」
「……」
見つめ合う、俺とじじい。おい、呼吸音がヤバいぞ。
「……何が起こったかはわからぬ……しかし、これだけは『理解』るッ! わしはとんでもない存在の怒りを買ったのだと! だからこそ挑み甲斐があるッ!」
そう言って再び右手を伸ばすじじい。
え、またやんの……?
再び圧縮された意識の中で、ほっとくべきか治してやるべきかの葛藤に長い時間をかけたのは言うまでもない。
そして、精根尽き果てたじじいがフラフラとどこかに去っていくのを3人で見送ったのだった。
何か大事な用事がありそうだったんだけど……結局何しに来たんだあいつ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます