第50話 不穏なクリスタル

「あれは……ドラゴンですの?」


 草原、恐竜エリアはメイさんが苦手だと言うことで、足早に進む。

 そして10階層を進むと岩山が目立つエリアとなった。


 そこにいたのは大型の翼竜とそれを中心とした小型の翼竜。


「多分ドラゴンじゃなくて翼竜、恐竜の一種だと思うよ」

 流れ的に。正直違いは判らないけども。


「あれも恐竜ですの! いろんな種類がいるんですのね!」

 キャッキャッとはしゃぐエリー。


「クケェー!」

「おっとっと、『上級氷魔法アイスガ』!」

 小型の翼竜が襲って来たので氷漬けにする。


「また来ます!」

「おぉ! 数が多いな! 『上級氷魔法アイスガ』!」


 次々と襲い掛かってくる小型翼竜! 1匹1匹凍らせていてはキリがないな!

 よし、恐竜と言えばこれ!


「むむむ、くらえっ! 『アイス・エイジ』!」

 大氷河期をイメージしたオリジナル魔法! 極大相当の魔力を消費して極寒の地を創り出す!

 

「ケェッ!?」

「クケーッ!」

 小型翼竜の動きが目に見えて鈍くなる。


「ふはは、やはり恐竜! 寒さに弱いと見える!」

「これだけ寒そうだと、恐竜じゃなくても鈍くなりそうですね」


 見ると空気中の水分が凍り、さらに太陽の光を反射してキラキラと光っている。

 文字通り魔法によって作り出されたこの幻想的なこの光景は、見る者全ての心を奪う。


「キレーですわぁ……」

「これは……キレーですわ」

「……キレーですね」

「キュゥ……(きれー……)」

「「「クケェー……」」」


 真に美しきものを前に、人は争いを止める。

 さ、今のうちに進もうじゃないか。




「ケェーーーンッ!」

 そううまくはいかないようで。

 大型の翼竜が一声鳴くと、小型も我に返り、こちらに向かって飛んでくる。


「キシャー!(まかせて~!)」

 しかし動きの鈍い翼竜など、クネクネにとってはハエも同然!

 あっという間に網状の糸で敵を絡めとる!


「よし、お前は俺だっ! 『上級氷魔法アイスガ』!」

「クケェー!」

 体を凍らせようと魔法を使うが上級魔法では抵抗されてしまった。腐ってもS級と言う事か。


「ケェーン!」

 そしてその巨体に見合わぬ速さで突進して来ようとする大型翼竜。


「おっと……ん、それなら……『ロック・ウォール』!」

 地属性の中級魔法、ロックウォール。通常は防壁用魔法だが、突進してくる相手なら有効じゃない?


「グゲェッ!」

 勢いよく壁に激突し、首をあらぬ方向に捻じ曲げる翼竜。


「よっし! それなら止めはこれ! 『アースランス』!」

 誇れ大型よ! この技は彼の悪神、ドなんちゃらをも苦しめた魔法だ!


「グガッ……ガァッ……」

 そして大型翼竜は地属性の槍で貫かれ、大き目の魔石となっていったのだった。


「さすがです坊ちゃま。まさか中級魔法のみで敵を倒してしまうとは」

「うむ、SSランクダンジョン恐れるまでもないわ! はーっはっはっは!」

「クーちゃんもお疲れ様ですわ!」

「キュッ!」




 俺は何と調子の良いことを言ってしまったのだろうか……まさか、あんなことになるなんて。

 ほんの数分後、己の発言を後悔することになろうとは夢にも思わなかったのである。


 ◆◇◆◇


「でっか!」


 今まで出会ったどの恐竜よりも大きく、逞しく――。


 ドシャッ!


 強大であったで、あろう……あったよ、ね……?


「ふぅ、今までで一番強かったですね。潰すのに3発も必要でした」

 ぼくはね~、おおきいきょうりゅうさんみてたらね~、あたまがはじけとんだのしか……わかんない!


 正直、俺の活躍なんて屁みたいなもんでしたね……ドヤってたのが恥ずかしい。




「さぁ! いよいよ私の出番ですの! お宝が私を待っていますわ!」

 途中からめっきり罠がなくなったもんね。

 多分、5層までは別の……いや、入口見たいなもんだったのかもね。世界観違ったし、『ヘカトンケイル』ってのがいたくらいだし。


「むむむ、できたですの!」

 わぁーはやーい。宝箱部屋に入ってまだ1分も経ってないぞぉー。

 どう考えても才能の賜物だろう。どんなだ? 薄っすらとわかってきた気はするが……。


「……何ですの、これ?」

「何だろ……クリスタル?」

 中から出てきたのは、ひどく不安な気持ちを感じさせるクリスタルのようなもの。


「……アレク、私これ……いらないですわ」

「……うん、俺が預かるよ」

 何でだろう、捨てるのもいけないような……。

 一先ず、『空間収納』に――っ!?


「で、でかいっ!?」

 見た目以上、予想よりかなり大きい魔力を内包するクリスタル。

 何とか仕舞い終えるが、不吉な予感はぬぐえない。何か対策を練った方がいい気がするな……。


「大丈夫ですの?」

 心配そうな顔をするエリー。


「大丈夫だよ! エリー、こんな時こそ!」

「――っ、笑顔、ですわ!」


 笑顔で不安を誤魔化しているのではない。この笑顔を守らなければと思えばこそ、勇気が湧いてくる。

 大丈夫、俺がなんとかするから……そのために得た力なのだから……。

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