第49話 筋肉系可愛いメイド

「やっべー!!!」


 2人と1匹を抱えて大慌てで次の階層へと降りる階段を目指す。クネクネをひっくり返し、お腹に2人のお嬢様方をのせて『高速飛行』。


 メイ様に命令されて草原を荒野にした後、とんでもないことに気付いてしまった!

 酸素! 草が燃えたら酸素! なくなる!

 いやその辺の検証とかしてないけど、もし前の世界と同じだったら困る! ってか死ぬ!


 幸いにも次への階段はすぐに見つかり、慌てて飛び込む。




「ふぅ……どうにかなったようだ……」

「そんなに慌てて……どうなさったんですか?」

「アレク! 今の楽しかったですの! もう1度おねがいしますわ~!」

「……キュゥ……(……キュゥ……)」


 能天気なエリーと目を回しているクネクネを無視し、炎と燃焼と酸素とかその辺の話をかいつまんでする。

 正直俺も中学生レベルの知識しかないのでかいつまむしかないんだけど……。


「なるほど……では火の魔法は極力避けた方がいい、と」

「まだわからないけどね。こっちは魔法だし……」

 どちらにしろ、わかるまでは避けて行こうと思う。




「さて、勢いで来ちゃったけど6層目だ! 気を引き締めて行こう!」

「はい! ですの!」

 うむ、いい返事だ!


「わぁ~! アレク見て見てですの! 大きいきょうりゅうですわ~!」

 う、うむ。飛びつかないだけマシだろう。


「おー、でっけー! あれはディプロドクスだな!」

「はっ!」

 おかしいな、ついさっきまで頭がちゃんとあったのに……。


「きゃーこっち倒れて来ましたわよー!?」

「うげっ!」

 さすがに大迫力! いや、死ぬぅーっ!


「ふんぬッ!!! ……よいっしょ♡」

「……」

「きゃーさすがメイさん! 受け止めてますわー!」

 ……ディプロドクスの体重がアレで、重力加速度がアレで空気抵抗の分マシになるかもで……ぼくわかんなぁぃ……。


「えいっ♡」

「……」

 そしてディプロドクスを投げ飛ばすメイさん。


「もぅ、恐竜さんったら♡ 最後に攻撃してくるなんて、悪い子なんだからっ♡」

 何が何だかわからない。

 倒れてくる恐竜を受け止めたこともそれを放り投げたことも絶命して倒れてきたことを恐竜のせいにして誤魔化そうとしてることも。


 だが1つ、確実に言えることがある。それは――。


「こらこらメイちゃんや、ふんぬっなんて声を出しては――」

「きゃー、坊ちゃまが倒れちゃったー!」

「きゃー、大変ですのー!」


 おそろしく速い手刀、オレですら見逃しちゃったね……。


 ◆◇◆◇


「メイちゃんって実際どれくらい強いの?」

 漠然とした質問で申し訳ない。


 気を抜いている訳ではないが、敵の気配を感じた瞬間、既に戦いは終わっているのだ。

 おかげさまで俺は『漢人形mk.2~6』を出して周囲の安全確認に集中できている。要は暇である。


「さぁ? 少なくとも、私の強さは坊ちゃまのためであり、坊ちゃまのものです」

 その力、さっき俺に向けたよね?

 そう思いながらメイちゃんを見ると何やら俯いている。


「しかし……強い力が身に着いたのはいいのですが……坊ちゃまには、そう思われたくないのです」

「ん? 頼りにしてるけど?」

 怖いのは仕方がない。人は、強大な者には畏れを抱かずにはいられないもの。


「頼られる、強い女性というのもいいのですが……いえ、忘れてください……」

「……?」

 

 んん……?


 ……はは~ん、わかったぞっ! この閃きは俺史上最高のものに違いない!

 これをスルーしてしまうと、いつかメイちゃんの気持ちが爆発し、離別し、再開してまた絆を確かめ合うような話になってしまうことだっただろう!

 

「……強くて頼りになって、それでいて可愛いメイちゃんって最高だよね!」

「――っ!」

「『えいっ』だなんて可愛い声で恐竜を投げ飛ばすなんてメイちゃんしかできないよ!」

「――っ!!」

「闘技大会の時の『勝っちゃった♡』って言葉も、可愛いを通り越してプリティーだったよっ!」

「――っ!!!」

 可愛いの、その先へ。

 やはり女の子、可愛く見られたいに違いない!


「そ、そこまで言うのなら、トカゲ、飼ってもいいですよ……」

「あ、ありがたいけど、よく考えたらやっぱいいかなって!」

 忘れてたよ、その話。


「はぁはぁ、またイチャイチャしてますわぁ……」

 こっちの業を背負いし者も忘れてた。

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