第48話 草原エリア

「よし、今日の探索はここまでにしよう!」


 SSダンジョン探索2日目。

 5層目となる階段を前に、今日の探索の終了を告げる。


「ふぃー、ですの!」

「少々疲れましたね」


 これまでの道は全て狭い洞窟内だったこともあり、基本的には1層と同じパターンだった。

 狭さを利用した罠、単体で待ち構えている強敵。


 狭い通路をミノタウロスの上位種と見られる牛男が凄い勢いで突進してきたときは焦った。メイちゃんが止めてたけど。

 ぶつかった時に衝撃波が発生してクネクネがまたひっくり返ってた。


「クネクネ、また糸を頼むよ」

「キュッ!(いいよぉ~!)」

 クネクネに頼み、周囲を幾重にも重ねた糸で囲む。

 こうしておけば急に敵が襲ってきても大丈夫だろう。


「坊ちゃま、その……汗を流したいのですが……」

「あぁ、気が利かなくてすまない。はい、どうぞ!」


 そう言って地魔法で穴を掘り固め、お湯を張る。


「あ、ありがとうございます。それで、そのぉ……」

「うむ、見張ってるから先に入るがよい。我に遠慮することはないぞ!」

 主より先に入ることを気にしているのであろうが、我はそんなこと気にしないのである!


「い、いえ……さすがに、恥ずかしいと言いますか……」

「馬鹿者! エリーには油断するなと言っておいて自分がそれでどうするのだ! 敵が来たらどうする!」

 ダンジョン内で1人にする訳にはいかぬぞ!


「……」

「何を遠慮しておる。既に何度も見た体、恥ずかしがることはない」

 嘘です、本当は何度見ても興奮します。


「エ、エリー様は? エリー様と一緒に入りますので、その……」

「あやつは……既にピーピーいいながら寝てる……」

 早いっ! 早過ぎる!


「……なら、ご一緒に……いかがですか?」

「……それ、最の高」







「……はっ!? 何やらとても大切なことを見逃してしまった気がしますわ!?」


 翌日、と言うか数時間後、エリーは目を覚ました。

 最初に寝て最後に起きる。さすがお嬢様。


「き、きき気のせいだよっ? まだ寝ぼけてるんじゃない?」

「そうですの? あら、クーちゃん、おはようございますわ!」

「……キュッ……(……はずかしぃよぉ~……)」


 何やらクネクネが茹でたみたいに赤くなっている。

 蜘蛛は茹でて食べるとカニっぽい味がして美味しいらしい。


 うむ、クネクネのパーティでの役割が決まったな!

 たくさんあるのだ、足の1本や2本などどうってことないだろう。


「変なことを仰ってないで、お食事にしましょう。その後は――」

 ダンジョン探索の再開です。


 ◆◇◆◇


「ここは――」


 階段を抜けると、そこは草原だった。

 4層目までとは打って変わり、だだっぴろい草原。


「うむむ。これでは『漢人形』では罠の探知ができないな……」

「坊ちゃま! あれを!」

 うん?


 メイちゃんの声に、視線を指の示す方向を見ると……。

 あれは! 恐竜!? 恐竜っぽいモンスターだ!


「すっげー! メイちゃん見てみろよ! 恐竜だぞっ! かっこいいなぁ~!」

「……そ、うですね」

「きょうりゅう、ですの?」

 うっは~! 子どもの頃よく恐竜図鑑見て興奮してたなぁー! 寝る前に見てて、興奮で飛び跳ねてしまい父親を踏んづけたことがある!

 懐かしい! 会ったことはないんだけどさ! いやー転生して良かったよー!


「よし、あいつを飼お――」


 グチャッ!


「……どうせお世話できないのですから、飼いません」

「ぴゃい」


 頭部がトマトみたいにはじけ飛んだ恐竜が、遅れて倒れる。

 な、何もこんなにしなくたっていいじゃないかい!


「すみません、私どうもトカゲの類が苦手でして……」

 下をペロっと出して可愛さをアピールするメイちゃん。

 まずはその手の血を綺麗にしてほしい。


「そそそ、そっかー! ならしょうがないなぁーはははー! メイちゃんお疲れ様ー!」

「キュッ!(キュッ!)」

 言いながらメイちゃんの手を綺麗にする俺。そして体をスリスリするクネクネ。

 なるほど、媚びる方向にシフトしたか。俺と同じだな。




「今のはリザード系モンスターの上位種でしょうか」

「まぁ、そうね……」

 歩きながら先程のモンスターについて考える。前の世界にいた(いなかったけど)恐竜に似てはいたけど、別物だろう。

 もしくは……誰かが似せて創りだしているのか……ダンジョン、謎が深まるばかりだ。


「それにしても、改めて見まわしても何もありませんね」

「いやっ! あるぞ! 目の前を良く見てみろ!」

 目の前に広がるのは、頭が少し出る程度の草むら。


「? 草しかありませんが……」

「そう、草! 頭が少し出る程度の草むら! それに加えて恐竜と言えば!」

 彼の有名な恐竜映画に出てくるワンシーン!


「この草むらに紛れて中型の恐竜が襲い掛かり、1人また1人と姿を消していく……姿が見えないのも相まって不気味な恐怖を――」

「坊ちゃま、焼き払ってください」

 ……。


「どうしました? まさか、私たちをそのような目に遭わせたいと?」

「……かしこまりました」

 許せ。


 メイさんのご命令通り、草むらに向けてドっかの誰かが使っていた広範囲魔法『フレア・バースト』を放つ。

 光を放ちながら火炎が球状になり、少し離れたところで爆発を起こす。火は消えずに猛烈な勢いで燃え広がっている。


「「「ギィヤァーーーッ!!!」」」

 その炎に焼かれ、やはり潜んでいたであろう中型の魔物が断末魔をあげている。

 あぁ……ラプトルゥ……。


「わぁ~……綺麗ですの~……」

 木霊する断末魔と、燃え広がる草原を前にエリーさんが呑気にそう呟く。


 耳が腐ってあらせられるようだ。

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