第46話 前人未踏破ダンジョン

「ここが、誰も踏破できていないダンジョンか……」




 月の雫の件から数日、遂にこのダンジョンを攻略することに決めた。

 リビランスの町から数日、深い森の中にあるダンジョンだ。


 このダンジョンは1層の、それもごく一部の情報だけギルドにあった。Sランク相当の敵が出てくる、と。

 当時の高ランク冒険者がこぞって挑戦し、すぐさま撤退したか、壊滅したかのどちらかしかいなかったらしい。


 そこで付けられた評価は“暫定SSランク”。

 現在の冒険者ランク最高位は公式にはS。以前ギルが適性の儀で叩きだしたSSという評価は前代未聞の物だったということで、それほど厳しいものなのだろう。どのような敵が、罠が出現するのか……。




「ここが誰もクリアしていないダンジョンですのね! 楽しみですわー! 罠は私に任せてくださいですの!」

 能天気に笑うエリー。


 俺はこの後、彼女に酷いことをするつもりだ。そのための準備をこの数日でしてきた。


「如何致しました?」

「……何でもない。さぁ、行こう!」

 何かを察している様子のメイちゃん。しかし、バレないようにしなければっ!


 ◆◇◆◇


「あれは……」


 幾重にも物理的に施された入口の封印を破り、洞窟となっている1層を進む。


 そして最初に会敵したのはSランクモンスター、ヘカトンケイル!

 身の丈3m程の巨体に6本の腕、著しく発達した筋肉の鎧を身に纏い、Sランクダンジョン最深部にて数多の冒険者を屠ってきた化け物!


 数の脅威でSランク認定されていたゴブリン・キングとは違い、純粋に個としての強さでSランク認定されている強敵だ!


「グゴォォ……」

「ここは私が」

 メイ……。


「行きます!」

「グゴォォォオオオオンッ!」

 跳躍したメイとヘカトンケイルが衝突する!


「――っ!」

「グッ! ……ゴォァア!」

 両者とも数歩後退し、改めて睨み合う。


「はぁっ!」

「ゴォァ!」

 数秒の間、その後再び衝突!

 目にも留まらぬ速さでメイが敵の顔を目掛けて飛び掛かるが、ヘカトンケイルは2本の腕をクロスさせ防御する!


「くっ、堅いですね!」

「ゴアッ!」

 お返しとばかりにヘカトンケイルがメイの着地する前に蹴りを放つ!


 ドゴンッ!


「メッ! メイーーーっ!!!」

「――っ!」

 後方に大きく吹き飛ばされ、壁に激突するメイ!


「だ、大丈夫、なんですの……?」

 心配そうな顔で様子を窺うエリー。今回、とある事情でエリーも俺も支援魔法は使っていない。


「……」

「グオォォォオオオンッ!」

 どうだと言わんばかりに咆哮をあげるヘカトンケイル!

 メイは俯き、壁に倒れこんでいる。


「……」

「オオオオォーン!」

 そして好機と見たヘカトンケイルがメイに追撃を仕掛けようと駆け出す!


「――メ、メイ……?」

「……坊ちゃ……た……」

「グォォォーッ!!!」

 そんなっ! メイはまだ動かない!


「メイ!? メーイッ!!!」

「坊ちゃまから貰った服が汚れた! 粉々に殴り殺してるっ!!!」

「ゴッ!?」

 ……。


「許さない! 許さない許さない許さないっ!!!」

「グボッ? グゴッ!? ゴフッ! ――ッ! ――ッ!」

 ……ですよねー。


 最早分身して見える速度で様々な角度から殴り続けるメイちゃん。

 哀れヘカトンケイルは龍の逆鱗に触れてしまったようだ。


 そして哀れな巨人が魔石へと変わる瞬間まで、メイちゃんの怒りの拳は止まらなかった……。




「――ふぅ。申し訳ございません、油断してしまいました」

 戦いが終わり、改めて見ると汚れこそついているが怪我一つないメイちゃんに安心しつつ、労う。


「あ、あああありがとね! よよよく頑張ったね!」

 べ、別に怖くなんかないんだからね!


「坊ちゃま、私汚されてしまいました……慰めてくれませんか……?」

 服がね。誤解を生むようなことは言わないで頂きたい。


「……よ、よしよし。また丈夫な服を買ってあげるからね~」

「もぅ、私は犬やエリー様じゃないんですよ?」

 頭をなでなで。嬉しそうにしているのでこれでいいだろう。何やらとんでもなく失礼な発言が聞こえたが、無視だ。


「さすがメイさん! かっこよかったですのー!」

 失礼なことを言われたエリーさんは全く気にしていない。発言も、鬼のようだったメイさんも。


「……」

 クネクネを見ると、仰向けになって死んだふりをしていた。

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