第45話 えろぉい別嬪さん
俺の精神力と引き換えにサクサク進む道中。そしてようやく頂上にたどり着いた。
この手軽さ、まさに高〇山! 都心からのアクセス良好! 下山後にしっぽり休憩できるホテルもあるぞ!
「わぁー! 綺麗な景色! ですのー!」
背中から飛び降り、ピョンピョン飛び跳ねるお嬢様。元気ね。そして精神年齢が心配。
「ふふ、こういうところはお可愛いですね」
「まぁ、そうね」
本来なら自分とこの屋敷や王宮で過ごすはずだった一生。こういった景色は本の中だけ。そう考えれば、エリーの喜びようもわかる気がする。うん、そう思おう!
「クネクネもお疲れ様、ありがとね!」
「キュッ!(うん!)」
言いながら空間収納からクッキーを取り出す。うん、まだ腐ってない。
「ほら、叫ぶほど好きだったクッキーだぞ!」
「……キュゥ(……それ、好きじゃないよぉ~……)」
「ところで、『月光の雫』とやらはどれのことですの?」
「あっちのほうかね。行ってみようか」
ちょっと先にそれっぽい木々が生えている。
ふむ、誰かいるな。間違いなくえろぉい別嬪さんだろう。気配を消して近づく。
「こんにちは! いい天気ですね! 1人で山登りですか?」
「……」
話通りの別嬪さんがいらっしゃる!
「お疲れでしょう、良かったらこの水飲みませんか?」
「……」
むむ、反応なし。この甘いマスクにときめかないとは……中々やるなっ!
「もぅ! アレクったらまた女の人に声かけて! ……あら、この方……」
「ん? どうしたのエリー?」
別嬪さんを見てびっくりした顔をするエリー。
「――あ、いえ。何でもないですの……」
「? そう……ところで、お嬢さんの持ってるのってもしかして『月光の雫』?」
「……」
……それくらい教えてくれても……警戒されちゃったか?
「ア、アレク……もしかしたら――」
「依頼書の絵を見るに、『月光の雫』で間違いなさそうです」
「そっかぁ~」
周りを見てみても、他に実ってるものはない。
「えー!? これが『月光の雫』ですの!? ちっとも可愛くありませんわ!」
そうだった、エリーはこの実見たさでここまで頑張ったんだった。歩いてないしほぼ何にもしてないけど。
「あのさ、良かったらほんのちょっとでいいから分けてくれない?」
依頼書によると実は少量でも可と記載されている。その分報酬は下がってくるが、せっかくここまできたし依頼達成としておきたい。
「……」
「……」
そう思ったのだが、反応なし。
「ほら、クッキーあげるから! ちょっとだけ、先っちょだけでいいから!」
「……」
ま、まさか王宮ご自慢の料理人が丹精込めて作ったクッキーに見向きもしないだと!? 伝説級の魔物すら虜にするクッキーだぞ! そんなバカな!
「……」
「……」
ちょっとずつ口に近付けて……。
「……」
「……」
口に入れる。やったー! 食べたぞー!
「……何やってるんですか坊ちゃま……」
「うっ……すまない」
い、いかん前世で子どもの頃捕まえたカナヘビに無理矢理餌を食わせようとしてたこと思い出して、つい同じことしちゃった……。
「……」
「……いや、これも反応しないんかい!」
「――っ!?」
「ってあれ!? ……行っちゃった」
すっごい速さで山を下りて行ってしまった……いやそりゃ逃げるだろうけども。
「坊ちゃま、さすがに今のはないです」
「……はい、反省しています」
「……ですの」
結局依頼達成ならずかぁー! まぁついでみたいな目的だし別にいいや。
エリーも心なしか元気がない。いや、何かを考えているのか……? ふむ。
その後、しばらく山からの景色を堪能したり、軽食を食べたりしているうちにエリーも元通りとなった。
気にはなるが、自分から話してくれるのを待とうと思っている。
それにしてもあの子、すごい速さだったな……メイちゃんくらい速かったかも。
◆◇◆◇
――某所にて――
「おや、戻りましたか。『月の雫』はありましたか?」
「……」
「良かった、あったようですね。それをこちらに。薬剤師に調合して薬を作ってもらいましょう」
「……」
「お怪我はありませんか? 何か変わったことなども」
「……」
「そうですか、何事もなかったようで安心しました」
「……」
「……」
「……愛してますよ、ヨミ……」
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