第43話 ゴブリンのダンジョン

「ギャーまたコブリンですわ! 臭い! 汚い! 気持ち悪いですわー!」


 そう、このSランクダンジョンはゴブリンダンジョンである。

 単体としての能力は同ランク中下の方にあるが、奴らの厄介なところは数である。


 群れの統率者を中心に連携の取れた戦い方、それに加えダンジョンに潜む罠。場所が狭いのはせめてもの救いか。


「むぅ、些か厄介な数ですな」

「破壊の後には……休憩が必要(魔力切れ)」



 ここまで連戦続きのブッディとシヴ。さすがに数が多すぎたようだ。


「よし、選手交代!」

「かしこまりました」

「いやー! クーちゃん頑張ってですのー!」

「キシャー!(わかったぁー!)」



 メイちゃんが駆けだし、そして瞬く間に乱れ飛ぶゴブリン・ガーディアンやゴブリン・ジェネラル。

 何これ、無双ゲー?


「なっ!? 速っ――いや拙僧よりも強っ――!?」

 ふむ。5段階、シヴなどの基本的冒険者を1とすると、身体能力の高いブッディで4、メイちゃんは5と言うところか。

 ブッディは属性魔法等でも立ち回れるが、メイちゃんは無属性、魔力制御による身体強化のみでの戦い方なので一概にどっちが優れているとは言えないが。


「――危ないっ!」

 攻撃の隙を突かれ、ジェネラルの剣による攻撃を食らうメイちゃん!

 背中に剣を叩きつけられ……そして響く金属音。


「ごぶッ!?」

「……他愛もありませんね」

 メイちゃんの背中に叩きつけられた剣は真っ二つに折れ……折れた!?


「誰にも傷つけられる訳にはいけませんので……坊ちゃま以外には」

 照れた顔でそんなことを言いながら俺を見る。すまない。正直怖い。


「せ、拙僧よりも……堅い……」

 ほんと……こんなん、5どころかそれ以上だ……。


「キュゥ……(ガクガク)」

 見ると一緒に戦おうとしていたクネクネまで恐怖に震えていた。


 これが、破壊神を破壊したおとこ――いや、おとめ。

 魔法抜きで戦い抜くって、こういうことなんだなぁー。


 圧倒的身体能力で瞬く間に多数の敵を屠ったメイちゃんを見て、そう思いました。




「ふぅ、準備運動にもなりませんね」

「「「「……」」」」

 メイちゃんを怒らせてはいけない。みんなの頭に過ったのはその言葉だろう。


「キャー! メイさん素敵でしたわー!」

 1人だけ違ったようだ。能天気はええのう。


 ◆◇◆◇


 ガクガクブルブル。


 しばらく歩くと、『わなわな君』までワナワナと震えだした。


「おぉ、どこかに罠があるようですぞ!」

「あぁ、こういう感知すると感じになるのか。どの辺だ?」

「んー、あっちですわ! ここに何か見えますの!」

 出た! エリーの何となくわかるやつ!


 うっすらと見える魔法の痕跡を示すエリー。


「え、エリー殿、わかるのですか?」

「えぇ、なんとなく……解除してみてもいいですの?」

「あぁ、任せた!」

 そう言って魔力を罠に通すエリー。一応俺も全員に防壁を張ったりしてみるけども。


「できましたわ! アレク~!」

 数秒後、そう言って頭を差し出してくるエリー。仕方がない、我が奥義を見せてやろう! おーしよしよしよしよし!


「きゃわぁ~ですわぁ~」

 キャッキャッ!


「……本当に、解除されていますな」

「……ヤハが罠を破壊するのに最低でも数分、長ければ数十分はかかるのだが……」

 エリーのは……何だろか? 才能だろうな。




 罠が解除されたのを確認、しばらく進むと再びゴブリンの集団。先ほどよりは少なく、5体ほどのパーティだ。


「クーちゃん! 今度こそやっちゃえーですの!」

「キシャー!(えーい!)」


 エリーのバフを受けたクネクネが網状に魔力の籠った糸を吐き出す! 敵を絡めとると思いきや――。


「……キュッ!(バラバラになっちゃった!)」

 出来上がったのはゴブリンのサイコロ肉。見せられないよと言わんばかりに瞬く間に魔石へと変わってくれた。


「「……」」

 最早2人は発する言葉もないようだ。


 ◆◇◆◇


「ん~、どうすっかなぁー」

 2層、3層と進むにつれ、敵も罠も強力に……なってるのかもしれないが、全く苦にならない。ていうか作業感が半端ない。


「クーちゃん、やっぱりこの服可愛いですわー!」

 長丁場になるから準備しとくように言ったらクネクネの服を買っていたエリー。もちろん特別な効果は何もない。むしろ動くのに邪魔な装飾が多い。赤ちゃん用の可愛い服のようだ。


「アレク様いかが致しました? 探索は順調かと思いますが」

「現状維持、それこそが至高」

 まぁ順調は順調、しかし――。


「(そうなんだけどさ、緊張感がないというか何というか……)」

「(……確かに、危機感は薄いかと存じます)」

 主にエリーを見ながらコソコソ話す。

 このままじゃ、ダンジョン探索はハイキングの延長みたいな、軽いものと捉えてしまいかねない。


「Sランク、最高難易度のダンジョンなんですが……」

 現状攻略可能なと頭につくけどね。しかしこれでは当初の目的達成とはならない!

 ……しかたがない。


「よし、ここのダンジョン探索はこれにて終了とする!」

「なっ、どうしたのですか突然?」

「えー!? どうしてですの!?」

 当然だが、メイとエリーの2人から疑問の声が上がる。


「ここのボス、どうやらゴブリン・インキュバスと言ってね。要は女の子に色々えっちな幻覚を見せるらしい! そんな目に2人を遭わせられない!」

 もちろん嘘である。


「……かしこまりました」

「アレクったら、そんなにも私のことを考えてくれてるんですのね! わかりましたわ!」

 怪訝な顔をしつつ了承するメイちゃんと、言われたことをバカ正直に信じるエリー。

 配慮してるのは本当だけどもさ……。


「あ、あのぉ……拙僧たちとの約束……」

「……」

 忘れてた。




 その後、メイちゃんとエリーを宿屋に置いてすぐブッディとシヴの場所へと戻り、身体強化や各種防御魔法をかけながら、『高速飛行』で一気にボス部屋。ボスのゴブリン・キングとお供数十匹を瞬殺。宝箱の罠も適当に解除。これにて30分程でSランクダンジョン踏破完了!




「……我の考え……破壊されり……」

「……アレク様のお力を拝見したいと思っての条件でしたが……共に戦うにはまだまだ拙僧は力不足でございました。この苦難を糧に精進致します」

 うむ。何とか2人とも約束を果たせたな!

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