第41話 わなわな

「まぁ、それはともかくとして、未踏破ダンジョンとかに行く前にSランクダンジョンの攻略をしておきたいんだけどなぁ……困ったぞぅ」


 宿を取り、改めて話の続きをする。


「どうしてSランクに行きたいんですの?」

「うむ。実は、我々はダンジョン初心者だからだ!」

「?」

 きょとんとしてらっしゃる。


「今までのダンジョンは罠がほとんどないところを選んできたんだけどさ、これからはそうはいかないんだよ」

 ダンジョンは色々な試練を課す、それは強いモンスターだけでなく、罠も同様に在る。


 今までは単純な力試しが目的だったからそれでよかったけど、未踏破ダンジョンには厄介な罠も存在するだろう。不意の罠を踏んでパーティ壊滅など、よく聞く話だ。


「そうなんですのね。罠はどうやって解除するんですの?」

「……それについては特別ゲストを呼んでお聞きしたいと思います!」




 そこで『転移』で呼んできたのは、今をときめくAランク冒険者! その名も――!


「あらあら~、アレクちゃま大きくなった? おっぱい飲む?」

「飲ぶふっ!」

 目にも留まらぬ速さでメイさんが何も言わずにはたいてきた。

 俺でさえ見逃しちゃう手刀だねぇ……!

 

「大きくなったも何もつい先日お会いしたばかりでは?」

「そ、そうですね……時にアラアラよ。ここに呼んだのは他でもない、ダンジョンの罠について教えて欲しいのだ」

「まぁまぁ、アレク様もそう言うお年頃なのね~?」

 どういうお年頃?


「い~い、アレク様。ダンジョンの罠って言うのはね~――」


 どうも間延びしてたり横に逸れたりしがちなアラアラの話。要点をまとめると、次のようになるそうだ。


 ・罠には魔法型と物理型がある。

 ・前者は魔道具や魔法による探知で見つけ出し、魔力を流して解除するのが一般的。図らずも俺がやっていたのと同じ。

 ・後者は目視や勘が頼り、有効な解除方法はそれぞれで異なる。ただし罠全体で見ると数は少なめ。


「ふむ。こうして考えると物理罠はやっかいだな……アラアラたちはどうしてるんだ?」

「ブッディがわざと1人で罠にかかって解除してるよ~」

 おぅ、まさかの漢解除っ。まぁ、それで済むなら一番効率いいのも確かか……。


「それと、簡単なものはヤハウェ~イが解除してるかな~」

「あー、あいつ器用だもんね~」

 割と何でもできる系チャラ男。黙ってれば普通に器量よし能力よしのいい男。黙れないのが玉にキズ。

 ちなみにアラアラやクアトとは相性は良くない、というか彼女たちが苦手としている。意外にもセイスやシヴマーヌ、双子とはよく話している。


「魔法用はね~、この『わなわな君』が便利だよ~」

「『わなわな君』?」

「うん。罠を見つけるとわなわなと震えるんだよ~」

「なんて?」

 わなわなと震える……若干怖くない?


「魔力での探知が苦手な人でも、魔石を使ったり魔力をわなわな君に通せば探知してくれるんだって~」

「ふむ。なるほど……保険に持っておくのもいいかもな」

 要はあれだ。魔力による探知というのは某第六天魔王だと4メートルが限界、逆に某直属護衛猫だと数キロは行けるアレだ。

 それが苦手な人用にこのわなわな君こと、不気味な人形が存在するのだろう。




「お話はこれで終わりだよ~! アレクちゃま、最後までよく聞けました~!」

「うむ。ありがとうアラアラ。お礼におっぱい飲む」

「きゃっ! も~、アレクちゃまったら~、お姉さん困っちゃう~♪」

 そう言って部屋を出て人気のいない場所に移動した。


「……えっ!? 良いんですの?」

「……今回は良さそうです」

「えぇ~? 私は見えないところで浮気されるのは嫌ですわ!」

「……やはり、見えるところならいいんですね……」


 ◆◇◆◇


「拙僧、ブッディと申します。どうぞ、よしなに!」

「シヴマーヌ、破壊と創造、そして維持を司る者也」


 アラアラと別れた後、ついでに連れてきたのは同じくトロイア表メンバーのブッディとシヴマーヌ。


「頼むよブッディ、シヴ!」

「承知! 某もアレク様と同行できるのが楽しみでございまする!」

「新たなる世界、楽しませてもらおう」


 北区にはAランク以上じゃないと入れない、ただしポーターとしてなら1人は入れる。俺は転移が使える。

 つまりはそういう事! 俺がブッディ達に同行してダンジョン内に飛べるようにしてから、みんなを連れてくる。


 2人にお願いしたら、1度一緒にダンジョンをクリアクリアすることを条件に了承してくれた。


「今回はちょっと長丁場になりそうだから、準備しておいてね~!」

「かしこまりました」

「かしこまりましたですの!」

「キュッ!」


 2人と1匹になけなしのお小遣いを渡し、俺はガタイのいい2人の漢とともに北区へのゲートへと向かった。

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