第38話 闘技大会①
「お金がありません」
クネクネの事を含め、状況の確認が終わったのでいよいよ本格的な活動再開! と思いきや、メイちゃんにそんなことを言われる。
「おかねぇ?」
「急いで出てきたので貴重品などはある程度持ってこれたのですが、細かいものを持って行く余裕がありませんでした」
「私も大事な宝物の宝石や魔道具、手織り機くらいですわ!」
手織り機て。てか売れそうなのあるじゃん。
「宝石売る?」
「やーですの!」
残念。まぁ、宝物言ってますしね。チラッと見えたそれらは全部俺が上げたやつ。
いじらしい奴め!
「そこで耳よりの情報があります」
◆◇◆◇
「さあ、始まりました! 冒険者ギルド主催! 闘技大会! 野郎ども、準備はいいかぁー!!!」
「「「うぉぉぉおおおお!!!」」」
メイちゃんが持ってきた情報、それは闘技大会。何とも都合のいい、じゃなくて、タイミングがいい!
まぁ、腐っても大国、こういう大会は開きやすいんだろう。今まで見たことなかったけど!
「優勝者には賞金が貰えるのと、賭けでお金を稼ぐことができます」
「おぉ~!」
自分に賭けて優勝すればまぁまぁお金が稼げそうだ。
ふむ。しかし……せっかくの闘技大会、魔法抜きで自分の実力を測るいい機会でもある。
さて、どうするか……。
「せっかくだから、お金目当てじゃなくって実力を測ってみるか」
「かしこまりました。確かに人間と本気の手合わせをする機会なんてなかなかないですものね」
◆◇◆◇
予選は人数が多いこともあり、各ブロックに分かれたバトルロイヤル形式。要は何十人かで一斉に戦い、最後に残っていた2人が本線へと出場する。
予選はサクッと割愛!
本選は16人でのトーナメント戦となり、くじ引きの結果俺は1番。第1王子の1番。メイちゃんが16番となった。
「決勝で当たるかもね!」
「……そうなったらさすがに譲ります」
賭けについては1試合ごとに行われるが、基本的に盛り上がるのはやはり決勝戦。なのでそれまで資金を温存しておこうと思う。
さて、早速俺の出番だ!。
「第1試合! 1番手! 顔を隠した謎の男! サンダー選手!」
俺です。さすがに逃亡中の身なので顔と本名は隠しております。
「2番手! 王国にこの人あり! 騎士団長! チョーダ選手!」
「オェェェエエエエエ!」
「あぁっと! 早速サンダー選手嘔吐した! 大物相手にメンタルが耐えられなかったかっ!?」
覚えているだろうか……。
俺が3歳の頃から5歳くらいまで、地獄のようなトレーニングを課してきた指導役。それが、あいつ……。
騎士団長、チョーダ!
あの辛い日々を思い出してつい吐いてしまった……覆面の中が臭い……。
「ふん。どうせ吐くなら敵に向かって目くらましに使えばよかろうに。所詮冒険者のひよっこよ!」
「サンダー選手、やれますか?」
「コヒュッ、コヒュッ……や、やれまずぅぅ……」
そう言えただけ、俺は頑張ったと思う。何だよお前、3歳児に吐かせるまで剣振らせるって! 死ぬぞ!
「では! よーい……始めっ!」
勝負は一瞬だった。
生まれたての小鹿のようにプルプル震える俺を容赦なく打ちのめすチョーダ。
成すすべもなく吹っ飛ばされ、場外負け。恐らく史上最速の敗北だろう……。
いいんだ、俺は勝ったんだ……逃げなかったんだもの……。
◆◇◆◇
「すまない、負けてしまった」
控室で汚れを落とし、メイとエリーの所へ戻る。
「キュッキュッ! (よしよし~)」
「……ぷぷっ坊ちゃま臭いです。ぷぷっ」
「……」
クネクネが優しく慰めてくれているにも拘らず、俺をバカにしてくるメイちゃん。
違う、俺は勝ったんだ! なのに何で笑うんだよぉ~!
「後は私にお任せをぷふ」
「言ったな! 優勝以外は負けだからな! 絶対だぞ!」
そこで俺ははたと、エリーはどうしたのかとそちらを見やる。
「あばばばばアバババババババ……ですの……」
「ど、どうしたのエリー!? お嬢様がしてはいけない顔と声をしているぞ!?」
魂飛び出てるんだけど!?
「アレ、アレアレアレクがままままま、負け……!?」
「お、おう……実質優勝だけど勝負には負けちゃったよ、あはは……」
それがショックだったんだろうか。一応今回は優勝目的ではないことは知っているはずだが……。
「……」
「……」
「……宝石、賭けちゃいましたの……」
「……え!?」
え!?
「アレクに貰った大切な宝石……賭けちゃいましたの……」
「賭けって……えっ!? もしかして!?」
「……負けちゃいましたの……」
負けちゃいましたの……負けちゃいました……負けちゃ……負け…………。
「ど、どのくらい?」
「もちろん! 全部……ですわぁ~……」
この大会の賭けはまぁまぁ規模が大きいこともあり、金貨の代わりに宝石などの貴重品を賭けに出すことも認められていた。相場よりも若干安いみたいだけど。さすがに1回戦では負けないと踏んだのだろう、つい賭けてしまったようだ。
……うん、あまりのことに逆に冷静になってきた。
「……エリーの大切な物だから、何とか取り返したい。何としても賭けに勝って大金を稼がなければいけない。しかし元になる金がほとんどない。そこで俺は考えた」
メイの方を見て、覚悟を決める。
「?」
正気かどうかはわからないが……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます